ノンテクニカルサマリー

生産性の分布、企業の異質性と集積:企業レベル・データによる分析

執筆者 大久保 敏弘 (神戸大学経済経営研究所准教授)/冨浦 英一 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 日本企業の海外アウトソーシングに関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

企業の生産性は、経済活動の集積のメリットにより中核地域の方が周辺地域よりも高いなど、立地する地域の影響を受けて異なると考えられる。しかし、平均としての生産性水準の比較にとどまらず、生産性に関するミクロの分布を調べた実証分析はこれまで海外でも極めて少ない。そこで、工業統計のミクロ・データを用いて、我が国において、生産性の分布が三大都市圏とその他の地域で如何に異なるかを分析したものである。

分析の結果によれば、まず、三大都市圏に立地する企業の生産性は平均して統計的に有意に高い水準にあることが先行研究と同様に確認されたが、これら中核地域では周辺地域に比べ、企業の生産性はより大きなバラツキをもって分布していることが見出された(図参照)。

図

そこで、生産性の分布に関するパラメータと経済地理的変数の関係を分析したところ、近隣に大きな市場が乏しい地域や都市化が進んだ地域において、正規分布からの逸脱が目立つことが明らかになった。これは、市場規模の拡大に伴って競争が激化して低生産性企業が駆逐されるという効果が集積に伴う外部性によって緩和されるからではないかと解釈できる。即ち、企業が集積して立地している地域においては、生産性の絶対水準が多少劣る企業であっても、特注の部品を中小企業が近隣の大企業に供給したり、多数の企業が互いに製品差別化された財を供給したりするなど、生産性の異なる企業が同一地域内に共存している可能性が示唆される。

今回の分析は、国内での中核・周辺比較が目的のため、企業の海外立地が活発化した1990年代以降は分析対象としていない。このため、今日の我が国における生産性の政策的論議に直結するものではないが、生産性の議論には平均水準だけでなく中小企業も含めた分布の検討が必要であること、集積の経済効果が多様な企業の共存につながるという従来注目されてこなかった側面があることを指摘したものである。