(A) デフレからの日本特有の脱却メカニズム
1. 公的債務・物価水準・為替のダイナミクスと、実体経済との連携
代表フェロー
概要
日本経済のマクロ的問題として重要なものは、脆弱な金融システム、デフレの継続、公的債務の拡大、そして為替の動向である。これらの問題を解決するために、金融システムを考慮したマクロモデルを用いて、公的債務・物価水準・為替のダイナミクスと、それらと実体経済(社会厚生)との関連を分析する。
さらに、上記のテーマから派生するテーマ(銀行信用と企業間信用の問題、企業や政府の調整の失敗など)についても、研究を実施する。分析手法は、主に理論研究が中心となるが、(1)理論モデルの構築、(2)データを使った実証研究、(3)文献調査等による各国のケーススタディを必要に応じて使う。
主要成果物
RIETIディスカッションペーパー
Monetary cycles (KOBAYASHI Keiichiro and INABA Masaru)
A key currency and a local currency? A simple theoretical model and its welfare implications (KOBAYASHI Keiichiro)
Transaction services and asset-price bubbles (KOBAYASHI Keiichiro)
Payment uncertainty and the productivity slowdown (KOBAYASHI Keiichiro)
Is financial friction irrelevant to the great depression? - Simple modification of the Carlstrom-Fuerst model - (KOBAYASHI Keiichiro)
Payment uncertainty, the division of labor, and productivity declines in great depressions (KOBAYASHI Keiichiro)
Forbearance impedes confidence recovery (revised) (KOBAYASHI Keiichiro)
(B) 産業別TFP(全要素生産性)の研究
1. RIETI Manufacturing Databaseの作成と産業別生産性に関する研究
代表フェロー
概要
日本経済の過去10年の停滞を理解し、そこから抜け出す政策を構想するためには生産性や産業構造、資本収益率の動向、等に関する分析が欠かせない。生産性上昇は、労働人口が減少する今後の日本における経済成長の主要な源泉である。また、資本収益率は、設備・教育投資の動向を左右する。本研究では、産業レベルおよび事業所レベルのデータを用いて、これらの問題を分析する。
産業レベルの実証研究としては、製造業について、4桁産業別に資源配分の効率性や生産性を分析するためのデータベースを作成する。またマクロ経済全体を3桁産業レベルでカバーする、JIPデータベースの改定を行う。
作成したデータベースをもとに、IT革命や海外との分業、生産の海外移転等が生産性に与えた影響を分析する。また、有価証券報告書のデータやJADE、CRD等の未上場企業を含む企業財務データを統合することにより、経済全体の生産性や資本収益率の動向について、企業レベルの視点から分析を行う。一部の産業については、構造改革が生産性に与えた影響に関してケーススタディを行う。
主要成果物
RIETIディスカッションペーパー
Why did Japan's TFP growth slow down in the lost decade? An empirical analysis based on firm-Level data of manufacturing firms (FUKAO Kyoji and KWON Hyeog Ug)
Do Out-In M&As bring higher TFP to Japan? An empirical analysis based on micro-data on Japanese manufacturing firms (FUKAO Kyoji, ITO Keiko and KWON Hyeog Ug)
The internationalization and performance of Korean and Japanese firms : An empirial analysis based on micro-data (AHN Sanghoon, FUKAO Kyoji and KWON Hyeog Ug)
Productivity and the business cycle in Japan - Evidence from Japanese industry data - (MIYAGAWA Tsutomu, SAKURAGAWA Yukie, and TAKIZAWA Miho)
2. 小売業の規制、市場競争、生産性
代表フェロー
概要
1990年代は日本経済における「失われた10年」といわれるが、生産性という観点から見ると、非製造業の生産性が低いことがその一因といわれている。そこで、本研究では、非製造業でも大きなシェアを占める小売業に焦点をあてて分析を行う。
小売業では、90年代に大店法の廃止という形で大企業向けの規制改革が進められた。しかし、その一方で零細事業者向けの税制優遇などの制度要因が残っており、このような部分的な規制改革が小売業の生産性どのような影響を与えたかについて検討する。
また、本研究では、経済産業省の商業統計データの個票データを時系列接続したパネルデータを作成し、事業所の参入・退出に注目を当てつつ分析を行う。
主要成果物
RIETIディスカッションペーパー
3. アジア諸国における生産性国際比較(ICPA)
代表フェロー
概要
東アジア諸国の台頭と日本の産業競争力の動向を的確に把握することは、産業政策を行う上でも重要な課題である。本プロジェクトは、韓国、中国、台湾、日本、米国の5カ国で共通の産業分類に基づくKLEMデータ(産業連関表、資本、労働に関するデータ)を整備して、1980年以降の産業別生産性比較を行うことを目的とする。
また、産業別の相対価格も併せて整備し、生産性水準に関する比較も行い、日本の各産業における国際競争力の評価を行うこととする。
主要成果物
(C) 規制緩和に関するケース・スタディ
1. 次回電力改革における制度設計のための学術的検討
代表フェロー
概要
平成14年度末の電気事業分科会で、我が国における今後の電力自由化の骨格が決定されて以来、制度の詳細設計に関する検討が継続している。しかし、平成17年に創設が予定される卸電力取引市場の制度設計をはじめとして、未解決の問題が山積みされているのが現状である。
本研究では、電力産業に独特のさまざまな技術的要素も考慮し、経済学や工学等の学際的視点から、従来の知見を超えた新しいアプローチを模索する。それによりリアルタイム市場、先物市場等を含む卸電力取引市場の創設をはじめ、一連の電力改革のより一層の進展に向けた望ましい競争政策並びに規制政策のあり方を理論・実証両面から追求し、効率的な電力市場の形成促進に寄与する政策提言を目指す。
主要成果物
RIETIディスカッションペーパー
経済政策分析シリーズ
RIETI政策シンポジウム
2. 制度設計における実験経済学的アプローチ
代表フェロー
概要
経済・産業政策における政策課題を実験経済学の手法に従って比較検討を行うプロジェクトである。現在は、公共事業の入札制度改革(特にランダム化入札)に関する調査と独禁法改正におけるリニエンシー制度の有効性の検討を行っている。
そのうち公共事業の入札制度改革については、地方自治体における予定価格の決定ないし指名業者の選定に当たっての無作為抽出(ランダム化)のさまざまな形態を分類整理し、それぞれの経済的帰結を理論的に検討している。また、一部については実験室実験による評価と実証データとの対照を行っている。
一方、リニエンシー制度については、繰り返しゲームに基づく理論モデルを作成し、それをもとに実験室実験を行い、カルテル・サイズや減免を受けられる企業数の違いが談合解体・防止にどの程度有効であるか検討している。
主要成果物
RIETIディスカッションペーパー
(D) 制度的補完性に関わる問題-企業と政府の統治
1. 米国の予算編成
代表フェロー
概要
日本の国会における立法過程などでは必ずといっていいほど、「アメリカのケースはどうか」が問われる。本研究は米国の予算編成過程について、日本で十分理解されていない点について「10の誤解」という形で体系的に整理・提示することを通じ、日本の実務家、研究者、そして国民にとって有用なアメリカの組織、システム、政治アクターなどについてのより広いインプリケーションを提供することを目的とするものである。
主要成果物
経済産業ジャーナル2004年7月号
2. 地方分権下における官と民の役割分担:自治体特別会計・外郭団体の実態と役割及びそのガバナンスの仕組みの実証的研究
代表フェロー
主要成果物
継続プロジェクトにつき、引き続き研究を実施中
3. 行政広聴・広報の理論と実践
代表フェロー
概要
行政府が事業を執行するに際しては、国会の定めた法律に則ることは当然であるが、国民の意見を広く聴き、事業に反映させることが必要である。その前提として、国民が正しい判断と意見を導けるよう、情報を広く分かりやすく伝えなければならない。また、国民全体の多数意見と、事業を実施する地域の多数意見がことなり、これを調整するメカニズムも必要とされている。
本プロジェクトでは、行政における広聴と広報の役割について整理するとともに、効果的な実施について基本的理論を提案する。さらに、行政に携わる者が効果的に広聴・広報を実施できるよう具体的事例を体系的に紹介する。