運と偶然の経済学 ー 占いからパンデミックまで ー(質疑応答)

開催日 2020年4月23日
スピーカー 植村 修一(経済・ビジネス評論家)
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人生に運はどう影響するのか? 出世を決める「マタイ効果」とは? 昨年「運と偶然の経済学」(日本経済新聞出版)を上梓されたリスクマネジメントのエキスパート植村修一先生(日本銀行出身、元RIETI上席研究員)をお招きし、パンデミックとリスクマネジメントについてお話をいただきます。

議事録

質疑応答

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Q:

RIETIがシンクタンクとして、リスクや運と偶然を考えながら、どのような役割を社会で果たしていくべきか、アドバイトを頂けますでしょうか。

A:

ある分野を突き詰め計量実証分析等を示していく、それも重要なのですが、もっとふわふわとしたところでも良いので、問題提起を活発に行なっていかれるのが良いのではないかと考えます。研究現場では、ふわっとしたものを出すことは評価されないなどためらいがあると思いますが、私はRIETIのようなシンクタンクがもっと積極的に「もっと自分たちでも考えろよ」と言われるぐらい問題提起したり発信していけば良いのではないかと考えています。

Q:

まさにさきほど先生がおっしゃったように、ディシプリン(Discipline)、分野にこだわることなく「領域」として、新しい社会問題に対して、シンクタンクのような自由な組織が、学問の枠を超えて新しい学際的なプラットフォーム・領域を束ねるような役割となることが期待されているという理解でよろしいでしょうか?

A:

ディシプリンの学問というのは、一般的にどこでも通用するような大きな理論や考え方ですが、それぞれの分野で、実際問題として役に立つ、そういう研究が期待されていると思います。経営学は一般に領域の学問と言われています。大学は基本的にディシプリンでやっていきますので、教育でも気候変動でもいいのですが、シンクタンクにはそれに近い分野を突き詰めていくことを期待したいと考えています。

Q:

大きなテーマを広げることでさまざまな智を集約することを期待頂いていると思っております。ありがとうございます。もう1つの質問ですが、まさに先生がおっしゃったリスクに基づくリスク・ベースト・ポリシー・メイキング(RBPM)に関しては、実際のところは予算要求や既存の制度のため「考えは確かに素晴らしいが実現は難しい」という話も出てくるかもしれないのですが、その点に関して何かアドバイスをいただけますでしょうか。

A:

実際問題として、リスクベーストでの政策形成は難しいと考えています。今日の話でもありましたように、モチベーションがないからなんですね、はっきり申し上げると。政策を打ち出そう、予算を取ろうというときに、いやこれにはこういうリスクがあるんです。それが大丈夫か、だったら辞めろ、という意見になりかねないので、そこは難しいとは思うんですけれども、でもそこはリスクと合わせ技でいろんなことを考えていかなければいけない、今そういう時代に入っているんだとそういうふうに考えています。

Q:

大きなテーマを広げることでさまざまな智を集約することを期待頂いていると思っております。ありがとうございます。もう1つの質問ですが、まさに先生がおっしゃったリスクに基づくリスク・ベースト・ポリシー・メイキング(RBPM)に関しては、実際のところは予算要求や既存の制度のため「考えは確かに素晴らしいが実現は難しい」という話も出てくるかもしれないのですが、その点に関して何かアドバイスをいただけますでしょうか。

A:

実際問題として、リスクベーストでの政策形成は難しいと考えています。今日の話でもありましたように、モチベーションがないからなんですね、はっきり申し上げると。政策を打ち出そう、予算を取ろうというときに、いやこれにはこういうリスクがあるんです。それが大丈夫か、だったら辞めろ、という意見になりかねないので、そこは難しいとは思うんですけれども、でもそこはリスクと合わせ技でいろんなことを考えていかなければいけない、今そういう時代に入っているんだとそういうふうに考えています。

Q:

ありがとうございます。まさにそういう意味では、リスクマネジメントはトップダウンでということですね。

A:

おっしゃるとおりです。これはトップダウンでないといけません。

Q:

このような事態を踏まえて、これから日本がリスクリテラシーの高い社会に上から下までなっていくことが求められるということですね。

A:

はい、それを期待しています。

Q:

先ほどの話で冒頭にマタイ効果のお話があったのですが、これはなかなか耳慣れない言葉ですけど、どのような意味なのでしょうか。

A:

マタイ効果というのはアメリカの社会学者ロバート・K・マートン − オプション取引に関してブラック・ショールズ方程式の証明でノーベル経済学賞を受賞したロバート・マートンのお父さんです − 彼が生み出した言葉なんですが、聖書のマタイの福音書からとった言葉で、金持ちはますます金持ちに富み栄え、そうでないものと格差が広がっていく。これは現実問題としておきていることで皆さんも感じてもらえることではないかと思っております。いろいろな組織に入るとき、彼と自分はもっと対等な関係だったはずだと、それが今や…ということだと思うんですね。何故そういうことがおきるのかということについて、まあ色々ありますが、1つは優先的選択といわれるものがあって、あるポジションにたまたま就いた、そうするとそのことでその人のところにいろんな仕事とか情報が集まってくる。そういう地位が地位を呼ぶみたいなところがあって、どうしてもいったん格差がつくと差が開いてくる可能性があるんですね。だから政策的には当然、税制的には累進課税その他でなんとかしようとしていますし、いろんなやり方があるとは思いますけれど、世の中そういうことがあるんだ、特にビジネスの世界ではGAFAの一人勝ちみたいな世界になっているんですが、デジタル社会化のなかで、ともすれば勝っている企業はますます富み栄え、そうじゃない企業との間に差が開いていく。それをどう考えるのか、今後我々が真剣に向き合っていかなきゃいけないと考えています。

Q:

ありがとうございました。新しい社会が新型コロナの前と後で格差が広がってしまうのか、あるいはこういったマタイ効果をみんなが認識するようになって格差を是正する方向に進むのかということを考えていく必要があるということですね。

A:

はい、そうです。

Q:

ありがとうございました。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。