RIETI政策シンポジウム

日本の金融~企業と金融機関の関係を問い直す

イベント概要

  • 日時:2006年2月16日(木)13:30-17:10
       2006年2月17日(金)9:00-17:00
  • 会場:新生銀行ホール (千代田区内幸町2-1-8 新生銀行本店1階)
  • 開催言語:日本語⇔英語(同時通訳あり)
  • セッション1:「リレーションシップバンキングの機能~資金調達・企業活動への影響」

    [セッションの概要]

    本セッションでは、下記の問題意識を背景に3本の報告が行われた。各報告の内容は、企業の経営環境や行動が金融機関との関係からどのような影響を受けているか、その影響の仕方に90年代以降変化が見られるのかに関して、マイクロデータをもとに総合的に検証を行ったものである。

    1. 企業のライフサイクルにおいて、金融機関からの借入環境はどのように変化するのか。その変化は合理的か。
    2. 企業にとってリレーションシップバンキングのメリットが享受されるのは、どのようなケース、環境下なのか。
    3. 金融機関の健全性は、企業と金融機関のリレーションシップを通じて、どの程度企業活動に影響するか。

    [渡辺報告の概要]

    渡辺報告では、「金利と企業年齢との関係」をテーマに報告が行われ、以下の点についての指摘がなされた。

    1. 企業の金利の年齢に伴う変化は、質の低い企業が市場から退出することによる金利の変化"セレクション"と、市場に存続する企業、あるいは企業の周りのエージェントが行動を変化させることによる金利の変化"アダプテーション"の2つの経路に分解できる。日本の中小企業の年齢に伴う金利変化は、セレクションよりもアダプテーションの効果の方が大きい。
    2. セレクションに関しては、日本の大企業では質の低い企業に低い金利がプライシングされ、市場に居座り続けることにより、経済全体の効率性が低下するというアンナチュラルセレクションが指摘される。しかし、我々の分析では、中小企業では質の低い企業が高い金利をプライシングされ、市場から退出するナチュラルセレクションが実現していることが分かった。
    3. アダプテーションに関しては、市場に存続する企業の金利が低下するのは企業が大きくなるからではなく、企業が破綻せずに存続したという履歴がレピュテーションに体化されているためである。

    渡辺報告に対し、堀内氏から以下のような討論が行われた。

    1. 本論文では、セレクションに関して質の悪い企業は高い金利をプライシングされ市場から退出していることが示されている。しかしながら、将来有望な企業が高い金利をつけられたために市場から退出を余儀なくされるという金融仲介のミスについては、明示的に考慮されていないのではないか。
    2. 担保や保証の存在は金利の変化に大きな影響を与えると考えられるが、本論文では明示的に考慮されていないのではないか。

    上記の討論に対し、以下のような回答が行われた。

    1. 市場から退出する企業の退出前のパフォーマンスは悪い。この意味で、ご指摘のような金利プライシングのミスは平均的には存在しなかったと考えられる。
    2. 我々が使用しているCRDのデータには、担保や保証の情報は入っていない。しかしながら、6年間のパネルデータを用いて時系列方向の差分を取ることにより、担保や保証などの企業固有の効果を出来る限り除去する努力をしている。

    [内田・Udell報告の概要]

    内田・Udell報告では、「銀行と中小企業のリレーションシップに影響を与える諸要因」をテーマに報告が行われ、以下の点についての指摘がなされた。

    1. 銀行との取引関係が長いほど金利は下がり、銀行との取引関係が長いほど、また幅広いほど借入申し込みを拒絶される確率が減る。ただし、このメリットは、監査を受けていない中小企業が競争にさらされていない信用金庫から借りている場合にのみ見られ、それ以外の中小企業、銀行に関しては、リレーションシップのメリットは見られない。
    2. 従来のリレーションシップバンキングの実証分析においては、データの制約から、リレーションシップレンディングとフィナンシャルステイトメントレンディングの識別が出来ていなかった。この点において、我々はリレーションシップレンディングとフィナンシャルステイトメントレンディングを識別しており、実際にフィナンシャルステイトメントレンディングはリレーションシップレンディングとは異なることを示した点において最大の貢献がある。
    3. そもそも、中小企業向け貸付にはリレーションシップレンディング以外にも多くの手法がある。その中で、リレーションシップレンディングが有効な手段であるかどうかは、市場の競争環境や金融機関の特性に依存する。

    内田・Udell報告に対し、堀内氏から以下のような討論が行われた。

    1. 金利と担保・保証は互いに関連していると考えられる。本論文では金利と担保を別々に説明しているが、金利と担保がどう関係しているのかを見るべき。

    上記の討論に対し、以下のような回答が行われた。

    1. 金利と担保の同時決定性については、操作変数を用いて内生性を考慮した推計を行おうとしている。金利を被説明変数とした推計では、担保の同時決定性を考慮した推計を行っているが、基本的には結果があまり変わらない。担保を被説明変数とした推計については現在検討中である。

    また、フロアから、以下のような質問が行われた。

    1. 銀行との取引の長さや幅広さといったリレーションシップが、金利や担保といったベネフィットに影響しているという前提で議論をしているが、本当にこれが因果関係を表していると考えてよいのか。

    その質問に対し、以下のような回答がなされた。

    1. 変数の先決性から考えて、問題はないと思われる。同時決定性や逆の因果関係についても検証すべきかもしれないが、経済理論的に考えてそうした可能性が存在するとは考えにくい。また本分析の手法はこの分野では十分確立された手法であり、それほどの問題はないと考えている。

    [小川報告の概要]

    小川報告では、「メインバンクの財務状況と企業行動」をテーマに報告が行われ、以下の点についての指摘がなされた。

    1. メインバンクの不良債権比率が高まり健全性が悪化すると、貸し出しを通じたチャネルによって銀行からの借り入れが厳しくなり、企業の設備投資や雇用が減少するとともに、銀行からの借り入れの代替として手元流動性が減少する。
    2. メインバンクの不良債権比率が高まり健全性が悪化すると、貸し出し以外のメインバンク機能である支払決済機能や情報提供機能、保険機能などを通じたチャネルによって銀行との長期的なコミットメントが期待できなくなり、企業の設備投資や雇用が減少するとともに、将来の予備的動機としての手元流動性が増加する。

    小川報告に対し、堀内氏から以下のような討論が行われた。

    1. 支払決済機能などの融資以外の金融サービスが、企業とのリレーションシップに依存しなければいけないサービスなのか疑問が残る。

    上記の討論に対し、以下のような回答が行われた。

    1. 確かに、融資機能以外の支払決済機能や情報提供機能がこの分析では十分に生かされていない。しかし、企業の設備投資や雇用などの長期的な意思決定は、メインバンクとの長期的なコミットメントに依存するはずである。メインバンクの健全性の悪化がこれらの長期的な意思決定に影響を及ぼすという結果は、融資機能以外のメインバンクの保険機能などが期待できなくなるからであると考えられる。

    全体の報告に対し、Berger氏から以下のような質問が行われた。

    1. 内田・Udell報告では、リレーションシップバンキングは競争にさらされていない小さな銀行という非常に限定された状況下でのみ利益をもたらすことが示された。しかしながら、小川報告では日本の中小企業はメインバンクと非常に強いリレーションシップを確立しており、大銀行とも幅広い取引を行っていることが示されている。内田・Udell報告の主張が正しいとすると、これらの大銀行と幅広い取引を行っている企業は利益がないにも関わらず、なぜ銀行とのリレーションシップを築くのか。2つの分析で採用しているデータが異なることから生じているのか。

    その質問に対し、小川氏から以下のような回答がなされた。

    1. 我々の分析では、メインバンクには公的金融機関以外の民間金融機関のみ、企業は3年間バランスシートの情報が利用できるものに限定している。その意味で、若干サンプルセレクションバイアスが存在しているかもしれない。

    セッションチェアによる回答への事後的な補足

    1. 大銀行との取引における便益は、大きなロットでの借り入れが可能なこと、他業態よりも低い金利での借り入れが可能なこと、大銀行との取引による信用力の向上などではないか。こうした便益は取引年数に依存しない可能性がある。

    (文責:坂井功治)