新春特別コラム:2024年の日本経済を読む~日本復活の処方箋

「2024年問題」から考えられる企業をめぐる諸課題

河村 徳士
リサーチアソシエイト

働き方改革と「2024年問題」

2018年6月に可決し翌7月に公布された「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(以下、「働き方改革関連法」)は、2019年4月より漸次実施の運びとなった(注1)。労働者が各自の実情に合わせた多様な働き方を選択できることを大目標として、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保といった措置を講じることを旨としたもので、これらを既存の労働関係法を改正し実現するものであった。「働き方改革関連法」の実施に伴い耳目を集めているのが、「2024年問題」などと指摘されている事態である。建設業、医師、自動車運転業務を対象とした時間外労働時間の制限にかかわる新しい法的措置が2024年4月に実施されるため、ユーザーに及ぼす影響が指摘されているのであり、とりわけトラック運送業の問題が注目されている。医師とともに時間外労働の上限を年間960時間とする別基準が設置されるためでもある。

トラック運送業にかかわる「2024年問題」は、2024年には14%、2030年には34%の輸送力が減るといった懸念である(注2)。こうした懸念が示唆するように、確かに国内貨物輸送の多くは営業用トラックが担い、雇用条件の特徴は芳しいものではない。高度成長期に国内貨物輸送のトラック化を推し進めたのは自家用トラックであったが、その後、営業用がとって代った(注3)。国内貨物輸送のうちトンベースで1950年に自家用トラックが39%、営業用トラックが20%、1970年にそれぞれ67%、21%であったが、1970年をピークとして自家用トラックのウェイトは低下し続け、1994年に50%を割り込むと、2000年には44%となりこの年に営業用トラックが47%を超え両者の数値は逆転し、2019年には自家用トラックが27%、営業用トラックが65%と営業用トラック化の傾向が続いたのであった。鉄道は1970年以降ネグリジブルであり、内航海運も安定的に10%を担い続けたに過ぎないから、トンベースでは国内貨物輸送の多くが営業用トラックの輸送サービスによって成り立っている傾向が半世紀にわたって続いてきたのである(注4)。

また、全日本トラック協会が2023年初頭に行ったアンケート調査によれば、年間960時間を超えるドライバーがいると回答した事業者は有効回答678のうち29%であった(注5)。トラック運送事業の近年の産業組織は、1990年代初頭の規制緩和以降、設備投資を進め宅配便事業を高度化させた大手事業者と、その他の中小事業者に大きく二分できる特徴を持った。両者とも競争的な方向へ向かったが、とくに後者において運賃競争が激化しながらも参入が続き、賃金低下およびこれを補うための長時間労働という雇用条件の悪化が継続的に観察された。参入の条件は、自家用トラックの輸送需要を市場化させることなどに見出され、官民あげて3PLなどと称し運送に附随するさまざまなサービスの提供も模索されたが、新しいサービスの模索にも限界が画され、雇用条件の悪化や労働力人口の減少によって、2006年以降、ドライバー不足が懸念され始める事態に至っていた。それでもなお長時間労働という特徴は解消され得ず、働き方改革の対象となったものであろう。

このように、国内貨物輸送の大半を担うトラック運送事業は相応の長時間労働を伴いながら輸送サービスを提供しており、このような条件の下でわれわれの生活を支える物流が持続されていたことが、働き方改革に伴う「2024年問題」の懸念をもって、改めて可視化された様子がうかがえる。

企業に対する評価軸の多様化

「2024年問題」の懸念を解消するために物流業務の生産性を上昇させるアイデアについては多くの議論が展開されているから、ここでは別の視点に基づいて考えられることを2点、述べてみたい。

第一に、コロナ禍においてエッセンシャルワーカーという表現が多用されたように、外出自粛が要請された期間においても、社会生活を維持するために欠かせない労働は止めるわけにはいかないということが浮き彫りになったことは記憶に新しい。この事態は、われわれの生活が多くの他人労働に依存していることを改めて認識させてくれた機会だったと言い換えることもできる。このことは、市場が発展したことによって安定的な価格を介したさまざまな物やサービスの提供が可能となったことの証でもあった―近年インフレが懸念されているとはいえ―。自動車運転業務のみならず医師の過重労働が社会問題として重要性を増したことは、他人労働に依存した生活の望ましいあり方をユーザー目線からも問い掛け続ける必要性を示している。

第二に、そのためには、さしあたり企業に対する評価軸を問うことが重要な手段になると考えられる。物やサービスの価格・品質、株価動向といった諸指標のみならず、雇用条件までも含めた企業に対する幅広い評価軸を共有し、企業活動と継続的な市場の発展を恩恵のある意義高いものとする姿勢が問われているのではないだろうか。育休取得、介護休業、ハラスメント対策、政治との関係性など様々な指標が想定でき、多様な評価軸を基礎に企業活動を見定める視覚が重要になると考えられる。

脚注
  1. ^ 以下、厚生労働省「「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」の概要」、2018年7月、https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322_00001.html。および厚生労働省「働き方改革特設サイト」、https://hatarakikatakaikaku.mhlw.go.jp/
  2. ^ 我が国の物流の革新に向けた関係閣僚会議「物流革新に向けた政策パッケージ」、2023年6月、https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/buturyu_kakushin/kettei.html
  3. ^ 以下、河村徳士「平成不況期物流構造と中小トラック運送事業の競争優位をめぐるとりくみ―「物流二法」による競争条件の変化と対応―」『城西大学経済経営紀要』第40巻、2022年、同「2000年代日本のトラック運送事業に対する市場環境と3PL事業の意義と限界」『城西人文研究』第36巻、2023年。
  4. ^ 近年のトンキロベース指標をみても、2009年に営業用トラックが56%に達し、その後、低下をみるものの2019年に46%であって、内航海運が2010年以降40%台であった。
  5. ^ 公益社団法人全日本トラック協会「第5回 働き方改革モニタリング調査」、2023年3月、同協会ホームページ。

2023年12月22日掲載

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