アジアで一般的な産業政策(industrial policy)が欧米で見直されてきている(産業構造審議会・経済産業省2021(注1))。Johnstone et al. (2021) はindustrial policy を環境の持続可能性に向けた経済の再構築を促進するための政府の介入と定義しているが、環境に限定する根拠は示していない。近年のindustrial policy は持続可能性に向けた経済の再構築を促進するための政策として肯定的に理解されていると解しても良いであろう。米国の半導体産業向けインセンティブを含むCHIPSプラス法は環境以外の例である。
こうしたindustrial policy に多く見られる特徴は、生産者補助と購入側措置の併用である。Künle and Minke (2022)は欧州の電気自動車促進政策において購入インセンティブが最も効果的であったとしているが、Chen et al. (2022) は中国の同政策を分析し、消費者の低炭素意識が強くなれば購入インセンティブが効果的、低炭素意識が低く既存車と電気自動車の価格差が大きい場合は生産者補助が電気自動車の生産販売を可能にすると分析している。Valentin et al. (2021) は、欧州の脱炭素製鉄支援政策の分析で生産者補助金の効果を主張する一方、取引可能な低炭素証明書等の購入側政策の併用があれば同補助金量を節減する効果があるとしている。
Valentin et al. (2021) は気候対策で産業変革に取り組む際、風力および太陽光政策の成功を基に補助金および市場創造というより介入主義的な政策を欧州委員会が推進していると分析している。Johnstone et al. (2021) によればドイツは一般的にindustrial policy に否定的とされているが、industry competitiveness(産業競争力)およびinnovation policy(研究開発政策)の名称でIndustry Policyが実施されているとしている。
持続可能性に向けた経済の再構築を促進するための政策は欧米・アジアで実施され政策の世界的な競争下にある。購入側の意識を踏まえ生産者補助と購入側措置を組み合わせ、産業側と意識をそろえ産業政策が今後とも多くの分野で推進されていくことが期待される。