災害はどのように異集団への認識を変えるか?

戸堂 康之
ファカルティフェロー

柏木 柚香
防災科学技術研究所

災害が発生すると、災害前に互いに不信感を抱いていた人々の間の垣根が低くなる可能性がある。本稿では、宗教対立によって長年にわたって分断状態にあった地域で、住民同士の認識に災害がどのような影響を及ぼしたのかを分析した。2018年のインドネシア・スラウェシ島地震発生後の家計調査データを用いた結果、被災者は今後の災害時に異宗教集団からの支援を受けられる可能性をより強く感じるようになった、つまり異集団に対する認識が改善されたことがわかった。

自然災害は、災害後の相互支援を通じて、他者への認識や信頼感を向上させる可能性がある(Cassar et al.2017)。例えば,2004年のスマトラ島沖地震の復興の過程では,インドネシア政府と自由アチェ運動との間で長く続いた軍事的対立が解決された。Pandya (2006)よると、津波後のインドネシア政府による支援が紛争解決に大きな役割を果たしたという。しかし、そうではない事例もある。同じ津波後に、スリランカ政府とタミル・イーラム解放のトラ(LTTE)との対立は激化したが、LTTEがよそからの被災者支援を許さなかったことが一因だと考えられる(Beardsley and McQuinn 2009)。

同様に、災害が他者への認識に与える影響に関する実証研究は、様々な結果を生み出している。Andrabi and Das(2017)は、2005年にパキスタンで発生した地震の後、欧米の援助を受けることにより、欧米人に対するパキスタン人の信頼感が向上したことを明らかにした。また、Cassarら(2017)の研究は、2004年にタイで発生した津波によって、農村部における隣人同士の信頼感が高まったことを「信頼ゲーム」による信頼感の測定で明らかにした。他方、Chantaratらの研究(2016, 2019)によると、カンボジアやタイの大洪水を経験した農村世帯では、今後の災害時における他者からの支援に対する期待が低かったという。以上の結果は、災害が他者への認識に与える影響は、様々な要因によって正にも負にもなり得ることを示唆している。

我々の最近の論文(Kashiwagi and Todo 2021)では、4,340人の死者と14億5,000万ドルの経済損失をもたらした2018年のスラウェシ地震(EM-DAT 2021)の事例を用いて、この問題を考察した。この事例が注目されるのは、被災地である中央スラウェシ州が、イスラム教徒(州の総人口の78%)とキリスト教徒(17%)の宗教間対立の地域であるからだ。災害が実際に対立する集団間の認識に与える影響は、これまで定量的には研究されていない。中央スラウェシでは1998年~2001年にかけて大規模な宗教間武力紛争が発生し、300人~800人が死亡した(Aragon 2001)。現在も完全な収束には至っておらず、テロや殺人が散発している(Beech et al.2018)。本研究では、震災前に大規模な紛争を経験した人々の他宗教集団に対する認識が震災によって改善されたのか悪化したのかを検証した。

我々の分析は、震源地付近のカカオ豆農家4,154人を対象に震災後に行われた調査に基づく(図参照)。調査には、深刻な被害を受けた農家とそうでない農家が含まれている。また、「災害後に食料や水が不足して困ったとき、誰に助けを求めますか」という質問に対して、「イスラム教団体」、「キリスト教組織」、「同じ村に住むイスラム教徒」、「同じ村に住むキリスト教徒」といった選択肢が提示された。この質問に対する回答と回答者自身の宗教に関する情報を組み合わせ、異宗教団体や異宗教の村人からの緊急支援を期待しているかどうかを示すダミー変数を作成した。

図1 調査世帯と震源・活断層
図1 調査世帯と震源・活断層

地震の影響を調べる上でカギとなる独立変数は、地震を引き起こしたパル・コロ断層からの距離である。図に示されるように、断層からの距離は、地震による家屋の被害レベルと密接に関係している。また、この距離は、観測された家計の特性とは有意な相関がなく、各家計にとって隣接する別の断層からの距離は、集団間支援の期待度を表すダミーとは有意な相関がない。つまり簡単に言えば、パル・コロ断層からの距離は地震による外生的なショック(の逆数)を表す変数であると考えられる。

分析の結果、断層からの距離は異宗教の村人に対する認識と負の相関があることがわかった。断層からの距離の対数が1標準偏差減少すると、異集団間の支援期待ダミーが0.14増加する。期待度ダミーの平均値が0.20であることから、地震の影響はかなり大きい。つまり、地震の被害が大きいほど、異宗教の他者に対する認識が大幅に改善されたと言える。また、地震の被害が大きいほど、必要なときに異宗教の隣人にお金を借りられるという認識が増えていた。これは、震災後に異集団間の相互扶助ネットワークが拡大したことを示唆している。

さらに、震災が異集団間の認識を改善するメカニズムについても検証するために、断層からの距離に対する認識変数の回帰分析に、回答者やその隣人がスラウェシ地震後に異宗教団体から支援を受けたかどうかを示す変数を追加した。その結果、断層からの距離の効果は小さくなり、有意ではなくなったが、異宗教からの支援を示す変数は正の効果を持ち、強く有意であった。これらの結果は、異宗教間で支援を受けたことによって異集団間の認識が改善したことを示唆しており、Andrabi and Das(2017)の実証結果と一致している。

しかし、震災の影響は状況によって異なっていた。例えば、家族や親戚、親しい友人を失った場合には、異宗教の人々に対する農家の認識は、地震後にむしろ悪化した。この結果は、災害による被害が大きい場合には、異集団間の認識に悪影響を及ぼす可能性が高いことを示唆している。

本研究では、相互の支援を伴う交流を通じて、対立する集団を含む他者に対する認識が改善されること、災害は被害をもたらすもののそうした交流の機会になり得ることを示した。しかし、災害後にそうした相互の支援がない場合、異集団間の認識は悪化する可能性がある。したがって、我々の論文の結果は、政府などによる災害後の支援は、特定の被災者集団に焦点を当てるのではなく、異集団間の相互の支援を促進するような方法で、広範囲の集団に提供されるべきであることを示唆している。このことは、コロナ禍にもあてはまることであり、コロナ禍やそれに起因する反グローバリゼーションや外国人排斥感情に対処するためには国際的な協力が必要であるといえる。

本稿は、2021年12月21日にwww.VoxEU.orgにて掲載されたものを、VoxEUの許可を得て、翻訳し、一部加筆した上で転載したものです。

本コラムの原文(英語:2022年1月4日掲載)を読む

参考文献
  • Andrabi, T and J Das (2017), "In Aid We Trust: Hearts and Minds and the Pakistan Earthquake of 2005," Review of Economics and Statistics 99 (3):371–86.
  • Aragon, L V (2001), "Communal Violence in Poso, Central Sulawesi: Where People Eat Fish and Fish Eat People," Indonesia (72):45–79.
  • Beardsley, K and B McQuinn (2009), "Rebel Groups as Predatory Organizations: The Political Effects of the 2004 Tsunami in Indonesia and Sri Lanka," Journal of Conflict Resolution 53 (4):624–45.
  • Beech, H and M Suhartono (2018), "In Disasterʼs Grip, Again and Again on Indonesian Island," The New York Times, 6 October, 2018.
  • Cassar, A, A Healy and C Von Kessler (2017), "Trust, Risk, and Time Preferences after a Natural Disaster: Experimental Evidence from Thailand," World Development 94:90–105.
  • Chantarat, S, S Lertamphainont and K Samphantharak (2016), "Floods and Farmers: Evidence from the Field in Thailand," Discussion Paper 40, Puey Ungphakorn Institute for Economic Research.
  • Chantarat, S, S Oum, K Samphantharak and V Sann (2019), "Natural Disasters, Preferences, and Behaviors: Evidence from the 2011 Mega Flood in Cambodia," Journal of Asian Economics 63:44–74.
  • EM-DAT (2021), "The International Disaster Database. edited by the Centre for Research on the Epidemiology of Disasters," Brussels, Belgium.
  • Kashiwagi, Y and Y Todo (2021), "How Do Disasters Change Inter-Group Perceptions? Evidence from the 2018 Sulawesi Earthquake," RIETI Discussion Paper 21-E-082, Trade Research Institute of Economy, Trade and Industry.
  • Pandya, C (2006), "Private Authority and Disaster Relief: The Cases of Post-Tsunami Aceh and Nias," Critical Asian Studies 38 (2):298–308.

2022年3月9日掲載

この著者の記事