1. 背景
製品化やサービスの提供において、標準の形成を行い、市場の拡大や製品競争力の向上と持続的発展を図る標準化戦略は、企業戦略において重要な役割を占めるようになっています。また、標準化については、2019年に工業標準化法が産業標準化法として抜本的に改正され、財だけでなくサービスも標準化の対象となるとともに、企業、研究開発独立行政法人、大学法人等に対して標準化活動に関する努力が求められるようになりました[1]。
しかしながら、企業等の組織の中で標準化に関する活動がどの程度実施されているかの把握は、意外にも十分に行われていないのが現状です[2]。著者は、企業、大学、研究開発独法等の標準化活動の状況を把握するための調査(標準化活動調査)を実施しており、2019年度以降についても調査の継続を予定しています。併せて、調査結果の産業政策や知的財産政策への利活用についても検討を行っています[3][4]。
2. 結果の概要
2.1 標準化活動の実施の有無とその活動
全体のうち約60%の組織が標準化活動の実施をしているとの結果が得られています(表1)。実施している標準化活動の内容については、(1)製品とサービスに関する標準化活動 (2)製品やサービスの生産プロセスに関する標準化活動 (3)測定に関する標準化活動 (4)デザインやシンボルに関する標準化活動 となっています(表2)。
(1)製品に関する標準化活動とは、製品の品質などに関する標準化活動を意味しています。このような標準化活動により部品の共通化を通じた製品コストの低減などが期待できます。(2)製品やサービスの生産プロセスに関する標準化活動とは、製品の生産方法に関する標準化活動を意味しています。設備の管理運転方法などの標準化により、安全性の向上や、生産管理コストの低減が期待できます。(3)計測手法に関する標準化とは、性能や機能の評価のための計測手法に関する標準化活動を意味しています。製品やサービスの性能の評価方法が標準化されることを通じて、異なる生産者による製品の性能の相互比較が可能となり、生産者にとっては、自社製品の機能表示の明確化が期待できます。併せて消費者側にとっては、製品の機能面での情報が的確に表示される効果が期待できます。(4)デザインやシンボルに関する標準化とは、製品の形状、図柄、色彩などに関する標準化が含まれます。これらの標準化により、非言語的な情報の伝達や直感的な操作方法の理解が促進され、操作性が高まることを通じた製品やサービスの品質向上、安全性向上などにつながると考えられます[5][6]。
2.2 標準化活動に関する組織
標準化に関する組織的整備については、全回答のうち約30%が、標準化活動を管理する部署の設置があると回答しています(表3)。また、そのような標準化活動を管理する部署の設置部門について訪ねた項目では、約8割が本部組織中に設置されていると回答しており、事業部内と回答した約15%を上回っています(表4)。このことは、現在の標準化活動を管理する部署は、各部門における個別の標準化活動を見るより、全社的な標準化活動のコントロールをする役割を担った組織構造となっている場合が多いと考えられます[7]。
組織は企業の戦略に従って変化していると考えられます[8]。企業の戦略は、外部環境に応じて速やかな変更が求められますが、これに対応するための企業内の組織構造の再構築は、人員の再配置が伴うために柔軟な対応を行うことが難しいことがあります。このことは、本調査においても標準化活動を実施しない理由の結果に表れていると考えられます(表5)。標準化活動を行わない理由については、「自社の製品サービスに標準化が必要ない」や「標準を利用する立場である」といった項目が多くを占めていますが、その次に、「標準化活動を運営する組織がない」、「標準化活動を実施する人員の不足」といった点が挙げられており、実施する上で必要となる組織の整備が未整備である点と、適当な人員がいないことが、標準化活動を行う上での障害の要因となっていると考えられます。
3. 今後の展望
本調査は、2018年度の実施に引き続き時系列変化を見るために、継続的な調査の実施を予定しています。2019年度の実施を行うとともに、2020年度については、10月の"World Standards Day" 「世界 標準の日」に合わせて調査の実施を予定しています[4]。
また、結果については、とりまとめた形で公表すると共に、経済産業省の基準認証政策やイノベーション政策などにおいて、活用されることが期待されています。併せて、国際標準化機構(ISO)、国際標準会議(IEC)、OECD科学技術政策局といった部門などに結果概要の提供を行ってきており、今後の国際的な政策立案への反映と貢献を念頭に置いています。





注:文中の表1、表2、表3、表4および表5は[3]を出典として一部変更をしています。
日本語表記は仮訳になります。
謝辞:
本調査は、JSPS科研費(15K03718および19K01827:研究代表者 田村 傑)の助成を受けて実施しています。