標準化活動の動向と課題:標準化活動調査(2020)の結果

田村 傑
上席研究員

1. はじめに

本稿では、経年的に実施してきている標準化活動に関する調査の2020年に係る結果について、主要な項目を、紹介する (Tamura, 2022)。それらを踏まえて標準化活動の現状とその政策的な意義について述べたい。本調査は、2020年に向けた日本の企業等の標準化活動について、その組織的特徴や知識創造に影響を与える要因に着目して調査を行っている。また、継続的な変化を観察するために2017年、2018年、2019年に実施したこれまでの調査と同様の調査項目としている(Tamura,2019,2020,2021)。調査は、2021年12月から2022年6月まで実施した。

2. 調査結果の概要

企業等調査対象機関約180者にアンケートを送付した。郵送または電子メールによる回答は合計124件(2022年6月現在)、回収率は約67%であった。

2.1. 産業分類別標準化の実施状況と研究開発予算配分

回答者のうち、68.0%(83件)が標準化活動を実践していると回答した。この数値は、2019年の調査結果で観測された67.4%(62件)とほぼ同じだが、2018年の62.4%(78件)、2017年の60.8%(62件)と比較すると高い値である(表1)。この上昇は、近年のデジタル技術の進歩のタイミングと一致しており、社会システムにおけるデジタル技術の利用が進んでいる結果を反映している可能性がある。さらなる観測が引き続き必要であろう。標準化活動を実施している割合は、これまで調査を行っている4年間においておおむね約60~70%となっている。

表2と表3は、それぞれ業種別、研究開発予算別の標準化活動の実施頻度を示したものである。 平均値より高い業種は「情報通信」、「電気機械」などであり、低い業種は「卸売・小売」などである。研究開発予算では、研究開発予算が多い企業ほど標準化活動の割合が高い傾向にある。

表1. 標準化活動の実施
表1. 標準化活動の実施
注:括弧中の数字は前年2019年の数値である(Tamura, 2021)。
表2. 業種分類ごとの標準化活動の実施程度
表2. 業種分類ごとの標準化活動の実施程度
表3. 研究開発費毎の標準化活動の実施
表3. 研究開発費毎の標準化活動の実施

2.2. 標準化活動を実施しない理由

表4は、企業が標準化活動に取り組まない理由を示したものである(複数回答可)。これらの理由は、標準化活動を推進するための施策を検討する上で有益な情報である。最も多い理由は、提供する製品・サービスが標準化活動を必要としないこと、すでに確立された標準を使用していることであった。この2つの理由は、自社の製品・サービスの特徴に起因するものである。次に多かったのは、技術情報の漏洩リスクと参加コストが高い点であった。前者に関する懸念は、研究開発情報の管理意識の高まり、とりわけ経済安全保障に関する問題意識の高まりを反映していると思われる。これらの結果から、標準化活動を実施しているか否かは、主に企業が供給する商品・サービスの性質と、その商品・サービスの技術的な新規性に影響されることが示唆される。

表4. 標準化活動を実施しない理由
表4. 標準化活動を実施しない理由
注:複数回答が可能であるために、合計の(52) は回答者数の(38)に一致していないパーセントはn/38×100を示している。

2.3. 標準化活動のための組織設計

標準化活動を統括する組織を整備していると回答したのは 44 社(40.0%)であった(表5)。2017年、2018 年、2019年と同様の結果である(Tamura,2019,2020,2021)。産業分野別、研究開発予算別の違いをそれぞれ表6、表7に示す。 「情報通信業」、「電気機械製造業」、「機械製造業」が標準化活動に関する組織の整備を行っている傾向が高い。研究開発予算との関係では、研究開発予算が多い企業ほど標準化組織を持つ比率が高い傾向にある。この傾向は、標準化活動の実施における、研究開発予算が多いほど実施率が高い傾向と同様であると見て取れる。

表5. 標準化活動を管理する組織の設立の有無
表5. 標準化活動を管理する組織の設立の有無
表6. 産業ごとの標準化組織の整備の有無
表6. 産業ごとの標準化組織の整備の有無
表7. 研究開発費毎の標準化組織の整備の有無
表7. 研究開発費毎の標準化組織の整備の有無

2.4. 研究開発情報および営業秘密の保護

技術情報を保護するためには、標準化活動参加者側の取り組みに加えて、標準化活動を運用する標準策定団体(SDO)における、保護ルールの制定と適正な運営が必要となろう。表8は、SDOにおける研究情報の管理実態に関する調査結果である。SDOにおける活動は、研究開発の成果を共同で市場化するプロセスであると考えることができる。その意味で、SDOにおける標準化活動は、技術の実装を目的とする開発研究の共同実施形態と見なすことができよう。標準化活動への参加を確認した回答者のうち、27%近くが「情報の機密保持が必要だが、秘密保持契約(NDA)は必要とされていない」「情報の機密保持は必要とされていない」と回答し、NDA締結のケースは8.6%にすぎない。SDOの運営上の課題として、このような状況理解することは、政策立案者にとって有益であろう。

表8. 標準策定団体での活動に参加に際して、秘密保持契約(NDA)を、標準策定団体と結んでいるか
表8. 標準策定団体での活動に参加に際して、秘密保持契約(NDA)を、標準策定団体と結んでいるか

3. 結語

調査の結果、次のような知見が得られた。標準化の実施度は、前回2018年、2017年の調査(Tamura,2019,2020)と比較して上昇傾向が観察された。この上昇は、近年のデジタル技術の進歩のタイミングと一致しており、社会システムにおけるデジタル技術の利用が進んでいる状況を反映している可能性がある。社会のデジタル化を促進する上で、技術標準の整備を行うことは、実施すべき重要な政策課題である。加えて、標準化活動を管理する組織の整備はこれまでの調査結果と同程度であった。SDOにおける、標準化活動に関する研究開発情報に関する管理ルールは、導入の割合は高くないように見受けられた。

謝辞

調査対象者の協力に感謝申し上げます。また、経済産業省基準認証ユニットおよび日本規格協会(JSA)の支援に感謝します。本稿のコラムに関する研究は、JSPS科研費(15K03718および19K01827:研究代表者 田村 傑)の助成を受けて実施しています。「科研費による研究は、研究者の自覚と責任において実施するものです。そのため、研究の実施や研究成果の公表等については、国の要請等に基づくものではなく、その研究成果に関する見解や責任は、研究者個人に帰属します。」(「科研費ハンドブック」[日本学術振興会] )

脚注
  1. 本稿は英語論文 Tamura(2022)を参照している。図等の日本語表現は原本の日本語仮訳である。
  2. 本稿内容の引用方式:田村 傑 (2022).「標準化活動の動向と課題:標準化活動調査(2020)の結果」, RIETI コラム.
  3. 本稿の内容は第6期科学技術・イノベーション基本計画(2021~2025年度)の第2章1.(6)「様々な社会課題を解決するための研究開発・社会実装の推進と総合知の活用」の政策内容に該当する。
  4. RIETIは「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」の第二条および「科学技術・イノベーション基本法」に係る研究開発法人である。
  5. 連絡先:
参考文献

2022年11月29日掲載

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