「東アジア経済統合」構想の陥穽―拡大する世界経済の不均衡が示唆するもの―:投稿意見

谷川 浩也
上席研究員

谷川氏コラムについて

台湾 (財)交流協会台北事務所次長 市川隆治

1.台湾は貿易(日本にとって輸出先で第4位、輸入先で第8位)、投資等における重要性からみて、将来の東アジア経済統合において脇役に甘んじさせる(貴稿においてはNIESのひとつ)のではなく、むしろ中心的な役割が期待される。台湾から中国への貿易、投資は既に自由に流れているように誤解されやすい(中国の輸出トップ3企業はすべて台湾企業)が、実は中国の「1つの中国」政策とそれに反発する台湾との間には多くの規制が存在し、両者間のパイプはWTO原則に反して詰まっている状態である。この「世紀の政治問題」の解決がなければ東アジア経済統合は実現できないと思量する。

2.NAFTAとEUを同列に置くのは間違い。NAFTAは国家主権を前提とした条約=国際法の世界であるのに対し、EUは国際法を超えた共同体法の世界であり、どちらを目標にするかは重要な問題である。私見では時間をかけてもEU型共同体を目標にすべきと思量する。その際のポイントは共同体法の整備とそれを担保する共同体裁判所の創設であり、法治精神の強い日本に同裁判所を置くことを提案する。さらに、地理的・文化的な要である台湾に共同体本部を、共通通貨政策の中心となる共同体中央銀行をシンガポールに置くことを提案する。そして、本部を置く台湾は永世非武装中立とするというのが前提である。

自己完結性について

日本・東京 (財)台湾経済研究院・東京事務所 陳 東瀛

EUとNAFTAの地域経済統合において、相対的な人口比率からみた有効な最終消費財市場が内部に存在しています。
しかしながら、中国は如何に経済発展が進んでも10年以内にアメリカに相当する消費市場まで発展することができそうにない。東アジア、特に中国製品の最終市場はかなりの部分がアメリカに依存しています。力を持つ域内消費財市場が存在しないことは、東アジア経済統合において最も致命的なウイーク・ポイントです。
これにより、東アジアは自己完結性がまだ低いのではないかと考えます。
東アジアにはこのような衰弱性が存在するからこそ、今回RIETIの吉富所長が世界経常収支のアンバランスを問題意識としてシンポジウムに取り組んだ背景の1つといえるのでしょう。
域内有効な最終消費財市場(デマンド)が存在しないことは、中国は人民元が米ドルとの連動から抜き出せない要因の1つですし、東アジア経済統合に不幸と不調をもたらす要因でもあります。
もしかして、中国はその内部で複数のサブ通貨地域をつくり、米ドルとの連動から抜けるかもしれません。これは、中国から発生した危機を回避できるのではないかと考えます。
ただ、経済学者は理想をいえるが、政治はこのような状況を許してくれないでしょう。東アジアには、更なる知恵が必要となります。これからのRIETIの活動を楽しみにしています。

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