企業の社会的責任と新たな資金の流れに関する研究会

第9回研究会

実施報告

  • 日時:2003年9月29日(月)18:00-20:00
  • 場所:経済産業省別館5階526号会議室
  • 参加者

議事録

[質疑応答] 藤井氏のプレゼンテーションについて

植杉:
7月に、環境省と金融業界との懇談会があり、大きな銀行も環境に配慮することが両者の合意事項となったという報道があったが、銀行が環境に配慮するというスタンスはあまり確かなものになっていないと考えて良いのか。

藤井:
その会合の中身は知らないが、銀行のスタンスが確かでないのは、その通りだと思う。その懇談会で具体的にどのようなやり取りが行われたかは聞いていないが、私が取材している限りでは、銀行はまだそこまで手が回らないというのが実情。不良債権処理が最優先となっている。欧米の主要な銀行は複数の環境専担者を置いて、NGOとの対応だけでなく、部内それぞれの取引について彼ら自身がチェックを入れるという体制をとっている。日本の金融機関で環境問題を意識しているのは、主に損害保険会社。金融機関の中では、銀行が一番遅れていると思う。ただ滋賀銀行など、地銀サイドでは幾つか積極的な動きが見られる。大手行では、UNEP FIに三井住友銀行が入っているぐらい。環境問題に全く無関心ではないが、組織だった配慮行動を業務と絡めて行っているところまで至っていないのが実態。

川村:
私は生命保険会社が一番遅れていると実感している。金融機関が配慮行動をできないのは、やはり別のところが忙しいということだと思う。実際に生命保険会社の財務審査の担当者に聞くと、不良債権問題と会計基準が時価会計に変わったことが原因のようだ。それが終わったら、本当にやるのかという点についてはどうか。

藤井:
新BIS規制の中で、特に環境配慮とは銘打っていないが、オペレーショナルリスクが入ってくる。これによって、環境問題などが原因で訴訟等になると、銀行や貸し手にまで責任が問われるというようなLender Liabilityの概念も議論は米国にはあるが日本には入ってきていない。もちろん同概念は、日本では法的に位置付けられていないが、今後、その点をどう扱うかは問われてくるだろう。そこで、このまま環境配慮をやらないままで済ませるわけにはいかなくなるとすれば、どうせやるならばビジネスとして取り組んでいこうということにもなる。つまり要点は、こうした動きを金融機関の本来のビジネスにどう落としていくかということだと思う。儲ける、儲けないではなくて、やっていないと損をするという認識が銀行や金融界のトップにどれだけ浸透していくかということが重要。不良債権を処理したら、それで金融再生がなるわけではなく、顧客にいかに評価されるかという新たなビジネスモデルに転じなければ競争に勝てなくなる。

川村:
BISの計算式について、新規制のオペレーショナルリスクの部分で、邦銀では分母全体の5%という説明が書かれているが、リスクは信用リスク、市場リスクとオペレーショナルリスクの3つがあって、そのうちのオペレーショナルリスクが100分の5であるという意味か。

藤井:
そういうことだ。今回の新BIS規制は、規制の本則である8%というのは変えない。自己資本である分子はいじらずに、分母の信用リスクについては現状よりもリスクウエイトを変えていく。その上で新たに、信用リスクについては、オペレーショナルリスクを導入するというもの。信用リスクは中小企業リスクや金融リスク等を細分化して、全体の分母量は変えない。邦銀のオペレーショナルリスク5%というのは、これは実態として5%程度になっているということで、欧米の銀行の比率はもう少し高い。またこの5%分のうち20%については保険でカバーしてもいいことになる。だから、5%で信用リスクをオペレーショナルリスク分は削減する。その分軽減しているので、今後大きく自己資本を増やしていく必要性があるということではない。ただ、トラブルが起きたときに備えておかないと対応できないというわけだ、ということが問われている。

足達:
邦銀の環境配慮行動についてなかなか火が付かないのは、2つの理由があるだろう。1つはビジネス上のプレッシャーを受けていないということ。欧州には、明確に環境配慮をするという宣言をして預金を集めている銀行があるので、意識を持った人の受け皿となっている。英国のコーポラティブ銀行やオランダのトリオドスバンクは大きくなり続けている。

もう1つに、邦銀はさまざまなプレッシャーを認識していないということ。欧米でいうところの株主提案やSRIのプレッシャー、それにマスコミやNGOからのプレッシャーがない。欧米の金融機関が恐れているのは、何かレピュテーションに傷がつくような落ち度やスキャンダルがあり、株価が下がること。そこに乗じて、欧州の金融市場の再編劇はめまぐるしく買収がかけられてしまう。ある意味では、レピュテーションリスクであり、買収によって組織がなくなってしまうことを防ぐリスクマネジメントであり、このような意識が徹底している。日本の金融機関はもっと危機感を持つべき。

美原:
確かに日本の金融機関はそうかもしれない。10年ぐらい前から海外で金融機関とプロジェクトファイナンスをやっているが、海外では邦銀も環境に配慮したスタンスをとっている。事業者の立場から見ると、Equator Principlesにどうして邦銀は参加しないのか疑問である。国内ではプレッシャーを感じていないが、これは海外でシンジケートが組まれたときに、外国の事業者や金融機関にリードされていて、こうした要求は10年前からほとんど常識。この引き金となっている要素はいろいろあるが、CSRがドライブしているケースもある。また、途上国でやる場合には、特にカテゴリーAというのは、十数年前から世界銀行、IMF、アジア開発銀行が厳格なルールを決めた。それに比較すると現在の国際協力銀行は甘すぎる。それ以上にホストカントリーの要求が厳しいケースもある。要求が満たされない場合には、許認可権の剥奪につながり、その段階で事業者がデフォルトになるからこそ、金融機関は徹底的に環境モニタリングを行う。さらには、何が引き金になるかわからないケースもある。途上国の基準が強い場合には、それが引き金になって融資金融機関と事業者がうまくいくケースもある。

問題は、途上国で厳格なルールがない場合において、国際協力銀行などのルールが適用される場合にはルールが非常にあいまいになる可能性がある。その場合に、事業者がよほどしっかりしていないと、Equator Principlesみたいな厳格なルールが適用されない形になってくるのではないか。

藤井:
日本の銀行は国際的なプロジェクトファイナンスでリードアレンジャーになっていないということの問題がある。プロジェクトファイナンスの案件に参加するという場合、たとえば、国際協力銀行や欧米の金融機関の案件に参加者として加わるというのが取引の基本であって、環境配慮の手順は国際協力銀行などのガイドラインで基本的にやる。しかし自分たちが主導ではやらないというのがこれまで。しかし、今後はこれでは済まなくなる。そうすると自分たちの銀行としてどこまで配慮行動をやるのかということここまでやるということを、国際的なルールにサインするのか、あるいは自分たちでオリジナルに作るかしないと対応できいけなくなる。

瀬越:
Equity investmentも同様の状況と思われる。たとえば、日本のファンドが海外案件に投資するケースで、ドイツの銀行系のファンドに導かれて投資を行う場合、ドイツの厳しい運用基準が適用されて、投資条件が決定される。日本のファンドはそれに追従する。他方、国内では同様の環境への配慮は全くないというようなダブルスタンダードになっているのではないか。

藤井:
ダブルスタンダードかどうかはわからないが、いずれにしても、邦銀のこれまでの環境配慮行動では、今後は通用しなくなると思う。プロジェクトファイナンスの場合でも、国際的なルールにサインしている銀行と、サインをしていない銀行があり、シンジケーションを組んだ場合にそれがどう問われるか。サインをしていないから追随していましたという従来の言い方はできなくなる。ダブルスタンダードを取ろうとしても取れなくなる。

地銀レベルでは、コミュニティをベースにしてやらざるを得ないことから、銀行はどこかの銀行がリードすると他の銀行も追随するという形でして波及して競争し合うというのも事実。国際プロジェクトファイナンスでも、地域経済においても、顧客に選ばれることを相当意識していかないと生きていけないだろう。

[質疑応答] 山本氏のプレゼンテーションについて

植杉:
ダブルスタンダードの話が出たが、政策投資銀行のスキームは金融機関の環境配慮行動の国内版であると思う。政策投資銀行が先鞭をつけることによって、大手銀行が行動を変える雰囲気になっているのか。

山本:
現状では、大手都銀が審査の仕組みを変える雰囲気に変わったかというと、あまり変わっていないというのが事実。政策投資銀行がやってくれた評価に自分が乗って信用を付けるということはあるかもしれないが、積極的にこの仕組みを取り入れようとする動きは今のところないと思う。ただ、比較的環境に前向きな地銀が出てきているので、個別にはそういう話はあるかもしれない。

村田:
大手の都銀が、環境やCSRの観点で本気で融資しない理由、もしくは本日話題になったEquator Principlesを採用しない理由をきちんと考えるべきだろう。先程の話を拝聴すると、その理由は、あたかも不良債権処理が忙しいためのように聞こえるが、もしそれが真実であり、本研究会で、オリジネーター機能の向上という議論をするのであれば、本研究会の結論は、「都銀は不良債権処理を進めるべき」ということになる。しかしこれが本研究会の目的や本質とは異なることは自明だ。

また大手都銀が実施しない一方で、地銀の一部で取り組み始めた銀行があるという話があったが、そのような地銀も不良債権を持っていると思う。

なぜ地銀は、やり始めたのか、大手はなぜしないのかという議論が必要だろう。都銀がCSR的融資を拡大させない理由が、単に都銀が怪しからん・悪いということであるならば、規制や法的措置の設置を本研究会の結論として視野に含める必要があるし、それは強制的になるので悪いということであれば、インセンティブを付けるためには、どこがボトルネックになっていて、なぜそのボトルネックが発生しているのか、どういう仕組みで止めているのか、という点をきちんと整理すべきで、そうすれば議論がわかりやすくなる。

山本:
自説ながら、政策投資銀行は政策金融機関なので、政策的に良いものをどのようにお手伝いするかという発想に立っている。NPOやNGOは世のため人のためという発想で作業をする。一般の銀行は、株式会社だから、基本的には利益第1という発想になる。当然その利益第1の中でもCSRという発想が必要なのだということだが、そこまで意識がいっていない。

利益第1ということで考えると、民間金融機関には儲かるかどうかということと、リスクをヘッジできるかどうかという2つのインセンティブがある。そのインセンティブのつけ方は非常に難しいのではないか。

広い意味のインセンティブは、預金者や投資家が金融機関をどのように見ているか、そういう目が長期的に養われていくと、滋賀銀行や八十二銀行のような例になってくる。滋賀銀行の例を見れば、元々、琵琶湖の水質保全の問題を地域が抱えていた。地元の人たちの意識も高いので、地元の金融機関として銀行に対する評価も、そういうことをしっかりとやっているかどうかというものになる。一方で、地元の自治体もそういう点を非常に大事にしている。それが儲かるかどうかのような発想にすぐに結びつけるのは良くないが、銀行のステークホルダーがみんなグリーン化していけば、銀行もそのような方向性になる。これを現時点で大手のメガバンクなど広く一般の銀行全てに当てはめることは難しい。

美原:
具体的な評価はどのようにするのか。

山本:
企業として実際に苦労して環境負荷を減らしているという取り組みを見て、そのようなところをバックアップしていきたいと考えている。ISOを取っているとか環境報告書を出しているというようなある1つの側面だけを捉えて評価せずに、多角的かつ総合的に評価する仕組みにしたいと思っている。

美原:
ISOを維持するための活動も実際には大変だ。それを評価しないのはおかしい。

山本:
評価しないわけではない。ISO規格の評価の仕組みと、相当リンクするところがある。そこは重複するので、それよりも若干広がりや違いを持たせたいということ。

小鑓:
政策投資銀行には、環境投資促進のようなプロジェクトベースでの融資があるが、この仕組みはそれとは別と理解して良いか。ISO認証取得融資など、プロジェクトベースではたくさんあるが、そのようなものとの違いは何か。また、格付のようなものを入れることで、新たに応募する企業はどのような所か。

また、パフォーマンス自体を評価するという点で、定量的評価も含めたスクリーニングをするということは、大きい影響があると思う。この評価を行うときには、既存の格付会社の評価機関などを活用するのか、それとも公的機関が行うということで、デファクトみたいに広げるイメージなのか。

山本:
この格付でクリアを取れば、全て融資できるというわけではない。これまでは、脱硫装置、電機集塵機というように1個1個融資対象を決めて、1個1個契約していたが、環境関係の技術水準は進展しているので、技術革新が進むたびに1個1個財務省に予算要求して、じゃあ次の年はこれを予算要求で拡充したいとやっていたが、これは現在社会から要請されている企業の多面的な環境配慮活動に十分対応しきれていない。もっとも、この制度は、、環境に資するものに限定されるプロジェクトベースの融資であることは間違いない。

一方で、格付を受けた上で、さらに1個1個の投資も積み上げてというのはたまらないという企業もあるわけで、そのような企業には従来型の個別融資をしていくということになる。その両方が必要だと思う。

次にスクリーニングの方法だが、政策投資銀行では、3年前から研究をしてきており、独自のスクリーニング評価方法を確立しようとしている。制度ができたら、このノウハウを公開して、使ってもらいたいと考えている。

評価については、特別なものというよりISOなどいろいろな評価項目があるが、それら1個1個の評価、いわゆる基本がしっかりとできているかということを評価させていただこうと思っている。

小鑓:
評価の対象になるのは、50社なのか1000社なのか。

山本:
環境経営学会でやっているのは、トップ100社で、とても高いレベルの評価項目でチェックしている。これは受ける側も相当意識がないと対応できないと思う。これをオリンピックとするなら、政策投資銀行の評価は、インターハイの県予選みたいなもので、基本を着実にやっているかどうかというレベルで評価をしている。ただ、何でもOKかというとそのようなつもりはない。

川村:
実際に、融資する、しないの判断はどこで線引きをするのか。

山本:
詳細は検討中。イメージで言えば、手法的には、たとえば点数配分が違う100項目で200点満点、さらに加点項目を30点くらい作り、合計230点で何点以上というような形でやりたいと思う。

川村:
1000社あったら、その中で相対的に評価するのか、それとも絶対的な評価をするのか。

山本:
何点以上という絶対的評価となる。ただ、その決め方が難しい。国民の目から見て政府金融機関が、あの企業は環境配慮型経営をしているというお墨付きを与えることになるので、そのような評価のレベルでないと問題があり、評価項目自体も含めて、慎重に検討している。

筑紫:
エコファンドやSRIの調査というのは、とても時間とコストがかかる。そこで政策投資銀行が評価をしてくれると、大変助かる。私たちはそれをベースにして、さらに詳しい調査をしたい。

日本の銀行はなぜ環境配慮行動をやらないのかという話について、やはりSRIというのをやっていると、ダブルスタンダードを許さなくなると思う。SRIは、そうした既得権のようなものをオープンにしていくものなので、既得権があって、ダブルスタンダードである方が得という人は絶対にやらないと思う。そういう意味では、都市銀行がやってくれないかなと思っていても絶対にやらないので、待っていたってできない。そこで新しい芽を出して、古い葉っぱを落とすようなに自分たちからやっていくしかないと思う。

そのような意味では、やはりオルタナティブバンクができないことが日本の1番の弱さ。そこで、トリオドスバンクが日本に出てきてくれれば良いと思う。預金がトリオドスバンクに流れたら、初めて日本の銀行は考えるのではないだろうか。

また、都市銀行はなぜだめなのかということについては、環境問題や根底にある社会的な問題に対する知見や自分自身の実感、これは本当に大変ということや本当にこうあってはならないと思う気持ちがないからだと思う。

田中:
銀行の行動についてだが、現実に海外の事例などを見ても、世界銀行はその基準にもかかわらず評判が悪い。しかしそれでも、国際協力銀行に比べればましという状態。国際協力銀行がやっている案件も、ほとんどが人材が少ないために世界銀行に乗っかって一緒にこっそりとやっている。その陰に隠れて銀行も協調融資を行っていくという形で、銀行の名前が出てこない。そこで、どこの銀行がどこに融資したのかがなかなかつかめなくて困っている。NGOの立場からはそこが問題で、批判を受けていないのではなく隠されていると感じている。とにかくリスクを背負ってでもSRIを進めるとしても、どこかの主体がブレイクスルーしないと、この先進まないのではないかという気がする。自分はリスクを背負うという主体が出てこないと進みにくい。その意味では、市民セクターはそういう可能性がある。

そして政策投資銀行の評価の件だが、欧米ではNGOやNPOを入れることで、客観的な評価が高まるので、巻き込んでいる。積極的に取り入れてはどうか。

藤井:
滋賀銀行が担保の土壌汚染評価をなぜ率先してやったのかと言えば、おそらくは、そこにインセンティブがあったからだと思う。顧客に評価されるというインセンティブ。そのインセンティブをCSRやSRIで高めていくことができれば、もっと他にも、こうした動きを促進することになれば良いと思う。

[質疑応答] 研究会論点メモについて

田中:
社会的責任の概念だが、企業が存在していることによって、その活動が外部不経済を作り出しているわけで、その外部不経済の分を取り戻すことが第一前提だと思う。その意味では、外部不経済を内部化することという基準で分けてしまっても良いのではないか。また、オリジネーション機能のところで、もう少しわかりやすい表現になると良いと思う。

植杉:
田中さんのご意見については、それを含める形で、微修正を加え、論点メモについてはセットしたい。