企業の社会的責任と新たな資金の流れに関する研究会

第10回研究会

実施報告

  • 日時:2003年10月27日(月)18:00-20:00
  • 場所:経済産業研究所1121会議室(経済産業省別館11階)
  • 参加者

議事録

[質疑応答] 佐々木氏のプレゼンテーションについて

水口:
NPO法人アーバンコミュニティ・ジャパンとベンチャーネットワーク・ジャパンは、専門的なサービスを提供するNPOのように見える。そのようなNPOには専従のスタッフが必要となるように思えるが、その点はどうなのか。また、事業型NPOという考え方とコミュニティ・ビジネスという考え方との異同についても確認したい。

佐々木:
ベンチャーネットワーク・ジャパンは、市民の目から見たベンチャー支援のための団体がないという思いから、仲間と3年前に立ち上げたもの。これまで専任はいない形でやってきたが、現在は事務局に専任スタッフが2人いる。専任のスタッフにはアルバイト程度の給料を出しているだけだが、2人とも将来は会社を起こしたいという希望を持っており、人脈やノウハウの習得という給料以外の面のメリットがある。また、アーバンコミュニティ・ジャパンは、良い住宅作りというのはまちづくりであるという考えを持っている住宅会社の経営者から、NPOを作りたいという相談を受け、彼に理事長になってもらって一緒にやっているもの。こちらは一般の事業会社並の給料をもらっている完全専任のスタッフが1人いる。

事業型NPOとコミュニティ・ビジネスとの違いについて、コミュニティ・ビジネスの起業家講座を見ると、コミュニティ・ビジネスの特徴は、地域密着型のビジネスをやりたい、ベンチャーのような成長性ではなく、地域にしっかりと還元できるようなビジネスを行っていきたいということにあるようだ。コミュニティ・ビジネスには、NPO以外にも株式会社、個人事業、有限会社という形があり、コミュニティ・ビジネスのうちでNPOという形態が、事業型NPOということになるのではないか。

足達:
研究会では、日本の個人投資家、特に家計部門が直接金融に対して非常にネガティブではないかという問題意識がある。実際に家計部門に直接金融や株などの話をすると「母親の遺言で絶対に株には手を出してはいけないと言われている」というような問題にぶつかる。そこで、家計の意識を変えることが重要で、投資家教育というのが肝要になると思うのだが、投資家教育により家計の意識を変えるためのヒントはあるか。

佐々木:
意識というのは、結構、根が深いところがあるが、お金を動かすために、墓場には持っていけないお金を社会のために使いたいという多くの富裕層の方から、投資をしてもらうという事例を作ることが必要。そうしたものを我々のネットワークの中で見つけていくというのが今の使命。そのためには、地域性、社会貢献性というものがわかる形でのファンド作りをしていきたい。

そのための課題としては、どのように信用付けをするのかということと、自分のお金が地域にどう活かされるのかということなどを含めた資本主義を理解してもらうための学校教育が必要。

中井:
現在、医療法人が病院の建て替え費用などを調達するための債券を発行し、その債券を地域住民に買ってもらうという直接金融の道を開こうとしている。これまでは、発行主体の信頼性が不透明などの問題があったのだが、今回の取り組みによって、(社)日本医療法人協会が「地域医療振興債」の発行基準を作り、発行主体がそれに従い、信頼性を与えられる形にすることで債券発行を容易にした。来年の1月には「地域医療振興債」第1号が発行される予定である。そうした活動のなかで、「地域医療の振興に役立つ債券発行」は、SRIそのものであって、個人が発行医療法人を日頃からどのように評価しているかによって購入が決まる、また、医療法人側も単に資金調達手法の多様化にとどまらず、財務の公開などを通じて開かれた経営姿勢をとらざるを得なくなってくる、つまり、地域住民の投資によって、地域医療が充実するというよい循環をつくる糸口となると感じている。

また、私はもう1つの活動としてNPO楽学生活協会による投資家教育を行っている。これは、リスクをとりたがらない日本人がお金の仕組み・社会の仕組みを学ぶことによって、自分の判断で自分の投資行動を決定できるようになることをめざしている。ただリスクにおびえるだけでなく、他人任せでない価値判断を下せることが目標である。回り道のようだか、子供時代のお小遣い教育から始めており、学校教育に頼るだけでなく、家庭内で親子で取り組むべき問題であると考えている。

水口:
リスクについては、どのように教育されているのか。

佐々木:
一般的なリスク、リターンの関係を説明するような教育とは違う形で、地域に対する投資の重要性を前面に出しながら行っている。

福永:
ファンドを作る際に、どのような法制、組織体系で行っているのか。

佐々木:
不動産のファンドについては、日本国内で倒産隔離のための中間法人を設けて、その中間法人が投資目的会社を作り、そこでファンドを組成するという流れで行っている。

[質疑応答] 跡田氏のプレゼンテーションについて

川村:
SRIの活性化に向けて、強制ではなく導くという御主張について、英国の年金法改正での、「機関投資家はSRIをやるかどうか、どのようにやるかをステートメントで述べよ」という形式をどのように評価されるのか。

政策の方向性として、コミュニティ・ビジネスの育成とファンド設立とあるが、これは並立的なものなのか、それともコミュニティ・ビジネスを育成するためのファンドという意味なのか。

また、コミュニティ・ビジネスについて具体的に何をイメージされているのか。

跡田:
第1点目については、英国の手法はある意味では強制だと思う。今すぐに会計基準などの法律やルールを変えるのではなく、企業側の認識が変化し、本質的に必要だということで、やらざるを得ないという方向へ広がっていくことが望ましい。

第2点目については、マザーファンドを作り、マザーファンドがコミュニティ・ビジネスに対して出資するというイメージ。

コミュニティ・ビジネスのはっきりしたイメージはないが、コミュニティの問題解決のためにコミュニティの資源(人、金、施設等)、を使うということが一番狭い意味での定義なのではないか。

川村:
「あすのはね」のようなSRIファンドがあるが、そうしたものはコミュニティ・ビジネスを育成するファンドではないという理解か。

跡田:
1つのマザーファンドと考えたら良い。ただ、今は地域に根ざしたマザーファンドを作っていった方が、コミュニティ・ビジネスには出しやすいのではないかと思う。例を出せば、東京都なら1つでもいいかもしれないが、関西だったら大きいファンドを1つ作っておいて、兵庫県の北部地域に対してもう少し小さいファンドを用意して、資金を回していくというようなことを考える必要がある。

熊野:
官と民の境界線をどこに、どのように引くかという点が課題。たとえば、政府の規模を縮小したあとに、地域の住民が政治的なプロセスや行政のプロセスを通じて、利便性を戻すよう働きかけることがある。

政府部門を縮小しても政府機能を補完する部門が自生し、その自然治癒力により効率的な社会が作られる、といったことを示すメカニズムはあるのか、または海外の事例にはあるのか。

跡田:
競争入札の完璧な制度を入れて、あらゆる分野に関して官、民、あるいはNPOがやるのが良いのか、ということをコストとサービスの質で入札をさせて考えていくという、サッチャー以来、英国で行われてきたやり方が、方向としては唯一あると思う。現在のところ、日本では全くないのだが、今後、議論や具体的なアイディアが出てくるのではないか。

水口:
コミュニティ・ビジネスというのは事業収入によってその事業が回っている。NPOというのは事業収入も多いかもしれないが、寄付収入によっても、事業が回っていると定義するならば、新しい資金の流れという時に、投資と寄付によるお金の流れを分けて考える意味があるのではないか。

またリスクとリターンの関係で、リターンは小さいが、リスクも小さければ、社会的責任を果たすことにお金を流そうと思う人が多くでてくるのではないか。そのように考えると、間接金融の方がお金を出しやすい、つまり、銀行が国債ばかり買わないで、銀行自身が社会的な行動を取るように変革していく方が社会全体から見ると早いのではないかということも考えられるのではないか。

跡田:
NPOを定義付ける要素の1つに「Voluntary」つまりボランタリーの投入がある。その意味において、ボランタリーな寄付や会費、その他の資金的な出資が入っていることは定義上の問題として必要条件である。また、ボランティアが労働を提供するという形もあるだろう。コミュニティ・ビジネスに関する資金収入は、事業収入にだけ限定されるものではない。NPO的な性格を持ったコミュニティ・ビジネスもあり得るので、事業収入だけではなく、NPOと同じような寄付収入などのボランタリーの投入の可能性もある。

リスクとリターンの関係については、リスクが低くリターンも低いという領域がコミュニティ・ビジネスの領域である可能性は高い。そこに間接金融が十分入り得ると思う。

佐々木:
間接金融の可能性について、現状のコミュニティ・ビジネスにたとえば信用金庫などが、間接金融の役割を果たすべきだという議論になると思うが、かなり厳しいのではないか。経済が正常な状態になれば、可能性はあるが、現在、金融庁からの指導もあり、収益性を追求しなければいけない状況で、社会的責任に基づき、収益性の低いコミュニティ・ビジネスなどへ投資するのは厳しい。

そのような状況に関わらず、直接金融ができる理由は、事業をしている人の顔が見えるからである。誰がやっているのか、その事業が地域のためになる、地域の付加価値になるというような点に共感してお金を出してもらうには、直接金融という形しかあり得ない。

横山:
社会的責任投資が外部便益を生み出す投資活動や企業活動だとすると、その外部便益をいかに内部化するのかという仕組みを考えることが重要。たとえば、受益と負担を結びつけるような形で言えば、コミュニティ・ビジネスは当事者間交渉のような解決方法であり、補助金はピグー的な内部化の方法といえる。また、ボランタリーな形のものを公共財の自発的供給のような形に委ねたり、または政府がコミットしているベーシックな部分のルールを明示化するなどの規制によって投資が起きやすいような形にするということが考えられる。跡田先生が言うように強制ではなく、導くというのは、非常にコストがかかる。

個人的には、自発的にできないものに対して公の役割があると思う。つまり、もう少し公がルール作りのためのガイドラインを示すなど、明確な方向付けをすることが現在の日本にとっては必要。

跡田:
理論的には、きちんとしたルールを政府が作る方が社会的なコストは低くなる。しかし、これは政府が合理的であるという前提が成り立つ場合である。日本の場合、これまで国民の期待が、政府をオーバーに走らせてきてしまった。たとえば、社会的責任投資について、行政が法律や基準を作れば、しっかりとした法律を作るかもしれないが、民間の企業に対して、規制を加えるような方向になるかもしれない。強い方向で干渉し過ぎてしまわない形で民間の方がコストをかけて実行するという方が望ましい。

田中:
日本には、寺子屋や講のような共益セクターもあるので、そのようなセクターを認識することも重要。また、リスクとリターンの関係では、お金が戻って来なければ誰も投資しないが、安心のような別な形でリターンが戻ってくるのであれば、投資はあり得るのではないか。そして外部不経済の内部化の問題については、NPOにやってもらうという形で活動を支援することも外部不経済の内部化という形で捉えられるのではないか。

最後に、配当を求めない株式というのは発行することは可能なのか。もしできないのであれば、そうしたものを制度化することも1つのアイディアなのではないか。

跡田:
リターンを求めない株式を発行すること自体は問題ない。逆に寄付を集めるときに、エコマネーのようなエコ配当を出すというのは問題があると聞いている。また、共益性という点は確かに重要。

横山:
共有という概念つまり持分が決まっている所有権ではなくて、入会における総有のような共同所有の考え方の方がより重要である。