企業の社会的責任と新たな資金の流れに関する研究会

第7回研究会

実施報告

  • 日時:2003年8月21日(木)18:00~20:00
  • 場所:独立行政法人経済産業研究所1121会議室
  • 参加者

議事録

[質疑応答] 小宮氏のプレゼンテーションについて

川村:
民活認定事業の認定件数の推移を見ると、平成3、4年ごろがピークで、その後、少なくなっている。この理由については、PFIとの関係が推測できるが、どうか。

小宮:
一度減っているが、その後平成7、8年に増えている。ここは法律の対象施設を新たに追加したなどの要因があり、PFIとの関係があるかどうかということを判断するのは難しい。しかし、PFIに民活から移ったということはあるかもしれない。

足達:
民活法のそもそもの着眼や発想について事業性の観点から見ると、民活法対象事業は補助を入れたり、公的な資金を流したりすることで、独立で採算が合うということが前提で作られていると理解して良いか。

小宮:
その通りだと思う。事業性が元々なければ、民間は入ってこないだろう。補助金などは、呼び水的なインセンティブとして設けている。事業自体は収益性は低いが、民間のノウハウを入れれば十分に持続していくと考えている。

足達:
今問題を抱えている施設をどのように再生させるかという点での資金の流れの作り方や手当ての仕方という発想はあるのか。

小宮:
民活法の進む1つの可能性として、検討していきたいと思っている。

田中:
社会資本として蓄積していくという点で、長く使える建物として造っているか否かについての基準はあったのか。欧州では同じ建物を400、500年に渡って使っているので、後の世代の人々が再度投資をしなくて済む。しかし日本の場合は、30年、50年で壊れるので、各世代が商売の中で投資をしなければならない。これが日本が経常的に貧しい構図だと思う。たとえば、水とコンクリートの比率で、水をどの比率まで認めるのかというクライテリアが必要だったのではないかと思う。せっかく、社会資本を蓄積するために投資したのに、それが社会資本につながっていかないという問題を起こしてしまうのではないか、という懸念があり、それに対する1つの基準が欲しかった。

小宮:
明確な基準があったかどうかというのは、はっきりしないが、そこまで細かい基準は多分なかったと思う。

藤井:
ファイナンスについて、資料では5%補助と7割まで政策投資銀行プラスNTTからの出資・融資があるが、残りはすべて債務保証付きの民間ファイナンスということになるのか。

小宮:
その通りで、民間からの借り入れが多い。

藤井:
大阪の第3セクターの話を聞いたことがあるが、特別調停の場合にその民間金融機関の債権放棄等も入っている。その場合は、もし民間からの借り入れに債務保証が付いていれば、すべて公的負担になってしまうのか。

小宮:
大阪の例は、詳しいところまではわからない。

藤井:
バブル期に計画した中期見通しの甘さが根源となって、もうエグジットなくしては採算も改善することはあり得ないという事例も資料の中にはある。制度的に改める場合、既存のものも新規のものも、都道府県ベースで官民のプロジェクトをその事業だけを支援して採算を弾く従来のパターンではだめだということが経験的にわかってしまったので、これ以上、単純延長するのは無理だと思う。より公益のものにするとか、需給の審査等の体制、あるいは評価について、どのように今後考えていくのか。

小宮:
個人的には、今後、基本的に単純延長ではないと思っている。少し方法を変えることやソフト事業を入れていくなどはあり得ると思う。本当にこれが必要な施設なのかどうかという問題も当然あるので、その辺りのことも今後検証していきたい。

横山:
民間事業者の要件には何があるのか。この民間事業者という主体について、今後、企業の社会的責任を果たすという考え方を導入することが考えられるのか。

小宮:
現在は、民間事業者であれば、特定施設を整備しようという方であれば、誰でも可能。特に何か要件があるわけではない。今後考えていく際には、その辺りのことも必要となってくると思う。

田中:
基準は特にないということであるが、民間借り入れに対しては債務保証するということになると、その仕組みを使って、自己資本がほとんどない事業者が、自転車操業をやりたくて駆け込むというようなモラルハザードが発生するのではないか。

小宮:
その点は、最大70%まで融資というのはあるが、資金面でのモラルハザードについては、認定する際の項目として、当然しっかりとチェックしていくことだと思う。また、政策投資銀行の融資があるが、政策投資銀行としてもその点をしっかりチェックしてもらっている。

横山:
いわゆるグリーン調達と同じように公的に融資の決定権を持っている場合、どのようなミニマム・リクワイメントをその関係する事業者に求めていくのか、ということは重要。またこの民活のフレームやスキームの中で、何を目的としているのかということを、時代的な背景も変わってきているので、もう一度法律の見直しとともに考える必要がある。企業の社会的責任の概念の下で求められる良い事業主体の像が明らかになったならば、そういうものに適用範囲を広げていくことも考えてほしい。

足達:
良いことをしている企業、この企業はポジティブなことをしている企業だからよりこのフレームに招こうということと同時に、そのような民間の思惑にどう配慮するかということも民活法の今後の課題だと思う。

山本:
この民活法ができた時代というのは、社会資本を整備しようという発想から法律ができた。しかし、今は、ソフトや施設をどのように運営するかという方が大事。だからこそ、CSRという考え方がでてきている。当時は、公共が出資者として加わるから施設は公益的な形で維持されるという発想だったが、公共が入ったために経済的な面が上手くいかないという局面が多々あった。そこで、この研究会との関連で言えば、サービスの仕方の部分で公益的・公共的な発想が、行政だけではなくて、一般の企業にも求められているという点で、民活法のこれまでの考え方を反省しながら、もっと良い方向にもっていくということが、この研究会の1つのヒントになると思う。

[質疑応答] 永沢氏のプレゼンテーションについて

水口:
コミュニティビジネスの基準を示しているが、たとえば、その事業が社会にどのぐらい役に立ったかなどの基準は示されていないが、その判断基準を作ることはサポートセンターでも難しかったということか。また、コミュニティビジネスの概念について、純粋なビジネスではない分野に参入するわけだから、年収300万円ぐらいが限度になるという話だが、そうすると働く人に非常に高い能力を要求するということは無理が出てくると思う。その点はどのようにクリアすべきだと考えているのか。

永沢:
社会性をもとにしてコミュニティビジネスについての基準作りの点では、概念的な形で何度か作ったことはある。コミュニティビジネスという世界で、たとえば、お金を借りるための基準作りの中で反映されるなどの使途がない限りは、単なる概念的にその基準を作ってもいけないだろうと、金融機関を含めて検討をしているが、完成していない。

また、年収300万円というのは、まずはそこを目指そうという基準で、全員が300万円でがんばろうという話ではない。現状で考えると、300万円ぐらいを目指すのが一般的には妥当ラインかなということで、第1ステップとして示した。

川村:
永沢さんの考える成功事例を具体的に教えてほしい。

永沢:
比較的に成功事例に挙げられるのは介護サービス事業。特に、地域にかなり密着している事業が成功をしているといえる。大企業を否定するわけではないが、マニュアル化されて、遠方からケアマネージャーが来る、在宅介護に来るというケースよりも、地域に住んで顔の見える範囲の中で地域のいろいろな事情がわかっている人が在宅介護に来るケースの方が安心感という部分で、サービスを受ける側のニーズとマッチする。同じようケースに保育サービスなどもある。

植杉:
具体的な事例と並んで興味があるのは数量的にコミュニティビジネスはどのような影響を経済的に与えるのかという点。たとえば、内閣府や経済産業省が推計をしている話を聞いたことがあるが、他にそのような推計をしている機関や団体はあるのか。

永沢:
比較的にまとまっているのは、財団法人神戸都市問題研究所で、コミュニティビジネスの枠組みで大規模にアンケートを実施したり、数字の類型を出している。他に大規模にコミュニティビジネスの枠組みで調査しているものはない。

横山:
資金が不足しているということについて、貸し手としてどういう主体がお金を出しているのかというデータはあるのか。

永沢:
個々にヒアリングをしているレベルだが、介護保険の適用業者のように株式会社等でもできるような事業母体がやっているケースは、通常の国民金融公庫や信用金庫、地域の金融などで借りられるケースがかなりある。しかし、社会貢献性が強すぎて事業として成り立ちにくく、収入の見込みがないようなものは、中心メンバーが自己負担したり、家族や友人から借りて資本を集める、または会費という形で、ある一定の人数の方から小額でお金を集めるという形でやっているのが現状。

田中:
未来バンクの場合だと、コミュニティビジネスの形態にも基本的には融資を行う。福祉関係は、これまで全部補助金で成り立ってきたところが多いので、金を返すという発想が乏しいように思える。

コミュニティビジネスに融資するのはなかなか厳しい。なぜならば、借り手が覚悟を決めてやっているかどうかということに不安を感じるからだ。ボランティアで私は良いことをしているのだから、これ以上の負担を背負わされるのはたくさんだ、という人たちには融資ができない。その人がもしビジネスに失敗したら、自分の家屋敷を取られても構わないというところまでの覚悟がないと融資ができない。なぜならば、貸す方も焦げ付けば家屋敷を取られてしまうからだ。そういう意味では、今は発展途上で、その覚悟を決めるのは年収100万円や300万円はいささか少なすぎて、もう少し基盤ができてこないと、融資対象としては厳しい。

千島:
永沢さんがおっしゃる質の高い人たちが、新たにNPO等コミュニティビジネスを担う組織に入ってくることによって、どういうイメージでそのコミュニティビジネスは発展していくと考えられるか。

永沢:
質というのはビジネスをやっていく中でのマネジメントであるとか、ビジネスを成立していくための能力という意味。たとえば、ビジネスとして補助金、助成金を頼らずに事業として成立するようなリーダーシップのある団体や個人が引っ張っていかないと、概念で終わってしまう。また今後、ビジネスとして成立できる団体が1つでも2つでもリーダーシップを持ってくれば、それに追随していって、1つの流れが出てくる可能性もある。

田中:
コミュニティビジネスが進展することで雇用の流動化を生み、従来非稼働層だったところに雇用がほとんど流れていくと、若年の雇用者などが減って、収入の全体レベルを下げるという結果を招いてしまうというようなこともあると思うが、その点についてはどう考えているのか。

永沢:
コミュニティビジネスの世界では、最低ラインとして300万円を目指そうとしている。その中で、単純な差し引きで、足し算引き算というものが考え方の1つとしてあるのではないか。

田中:
確かに、自治体はお金に困っていて、図書館をコミュニティ図書館と言い換えて、主婦のボランティアを置いて、人件費を10分の1に落としている例が非常に多くなってきている。雇用のレベルで見ると、総パート化と同じ形を招いてしまっていて、社会に対する貢献度としてはどうだろうと疑問に思う。

横山:
その点は重要な指摘だと思う。「雇用ポートフォリオ」とか民間企業がかなりそういう努力をしてきているわけで、すべて外注、パート化ということが社会の基盤としてどうなのかということについては、いろいろと議論があるだろう。これは雇用契約の質や形態のあり方という意味で、企業の社会的責任として考えられるのであれば、この研究会においても重要な示唆となるだろう。