企業の社会的責任と新たな資金の流れに関する研究会

第4回研究会

実施報告

  • 日時:2003年6月2日
  • 場所:独立行政法人経済産業研究所1121会議室
  • 参加者

議事録

その他の資料
財団法人三重社会経済研究センター(平成12年3月)
「民間資金の有効な活用方法について-三重県ベンチャーファンド構想-」
大阪府研究開発型企業振興財団(平成11年11月25日)
「ベンチャーズインフラ研究会報告書」
大和証券SBキャピタル・マーケッツ株式会社
「新たなインフラ整備促進に向けたファイナンス-日本型PFIプロジェクトと大阪証券取引所「社会資本整備市場」」

※上記の資料については、事務局までお問い合わせください。

質疑応答

水口:
ESCO事業というのは一般的に投資額に対して何%ぐらいで回るものなのか。

田中:
ある事例では5億円ぐらい初期投資をして、1億円ぐらいの削減効果があったと聞いている。

横山:
リスクをどちらが負うかというところで、現在はESCO事業者が負う契約方式と顧客が負う契約方式の2つあるということだが、今後、ESCO事業者が50%、顧客が50%負担するといった方式の可能性はあるか。

田中:
ESCO事業者は、「我々はパフォーマンス、省エネの実績については全部責任を取る。ただし、顧客の倒産リスクの責任までは負うことが出来ず、その部分は資金供給者に取ってほしい」ということを言っている。しかしながら、具体的にどのようにリスクをシェアしていくか、といった点は事業者も迷っているところだと思う。

植杉:
投資回収が20%というような大きなリターンがあり、リスクは倒産リスクだけ。しかも、公的機関が行えば倒産リスクもない。しかしながら、そうではない例がたくさんあるので、なかなか金融機関がお金を貸さないということだと思うが、具体的に倒産リスク以外の問題は何があるのか。

田中:
公的機関以外で工場を例に取ると、工場での設備投資の単純な回収期間は2年もしくは3年だ。それ以上回収期間が長いものについては投資をしない。つまり、回収期間の長さがネックになっている。この問題に対する支援としては、ある程度設備投資の期間がかかるものについては前倒し、回収期間を短くするという趣旨で、3分の1補助制度などを行なっている。また、ESCO事業をシェアード・セイビングスに入れることで費用を平均化することも効果があると思う。

美原:
ESCO事業については簡単に投資とメリットが計算式では表せないような複雑な契約で、しかもアッパーリミットがあって単純に50:50ということではない。現状は、何とか事業をやっている、何とかうまくいっている、という状態で、大儲けできるような事業ではないということは認識してほしい。また、もう1つの問題は、「どんな省エネ診断をして、どのようにやるのか、本当にそれは達成できるのか」というような見極めについて、現在の金融機関にはほとんど能力がないのではないか。診断の専門家が必要なのではないか。しかし、正確に事業者の能力を評価できれば、相手が公的主体であれば、資金は集まるのではないかと思う。

福永:
その難しさに興味があるので、もう少し噛み砕いてその難しさについて教えてほしい。基本的にはオリジネーション機能のなさというのが、この国の資金の流れの問題だということからすれば、オリジネーションがどうして難しいのかということを証左する1つのケースになると思う。

田中:
そこは、やはり目利きの部分であると思う。省エネ効果というものが、単純に設備投資をしたから出たのか、ESCO事業者のノウハウによるものなのか、ということがまだ客観的に示せていないためかと思われる。

美原:
省エネというのは、どういう要素で構成されているのか、リスクコントロールを誰がどのようにしているのか、という問題があると思う。たとえば、経済産業省のビルにある蛍光灯を節電型に変えれば節約になるが、一方で残業して朝まで蛍光灯をつけていれば節電にならない。この場合、ESCO事業者ではなく、オーナー(経済産業省)がリスクをコントロールしていることになる。ESCO事業者が、外気温度の変化といったベースデータ等に基づき顧客との関係をきちんと整理したうえで、省エネを実現し自らが利益を享受するためには、相当程度の専門的知識が必要となる。金融機関は、リスクがESCO事業者に依存するのか、顧客に依存しているのか、ということなども正確に見極めないと適切に判断できえない、ということもある。

植杉:
お金を出す側についてお尋ねしたいのは、ESCO事業者には、とても大きな企業がやっている場合とそうでない場合がある。このときに、大きな企業がお金を調達するのとそうでないのとでは、違いがあるのではないかと思う。何が違うかと言えば、大きな企業にはパフォーマンスを見極める能力があるのではないか、と思うが、そのような非対称性の違いみたいなものはあるのだろうか。

美原:
大手企業でも子会社がやっていることが多いので、大手企業が直接やっていることは少ないと思う。

田中:
大手企業にもいろいろ資金調達で困難な面があり、ファンドであるとか事業に着目した資金調達ができればよいというように考えるようになってきている。

福永:
今お話のあったファイナンスというのは事業に着目をしているのか。プロジェクト・ファイナンスなのか、コーポレート・ファイナンスなのか、どちらなのだろうか。ESCO事業について当初は、プロジェクト・ファイナンスをイメージしてきたが、お話を聞くうちにコーポレート・ファイナンスなのではないか、もしくは企業ごとにノウハウがあってその結果としてのファイナンスとも感じた。

美原:
基本的にプロジェクト・ファイナンスでできると思う。この場合、金融機関は顧客の与信を見る。公的主体であれば問題はない。ただし、事業者のトラックレコード、能力、見極め能力、あるいは事業の形態のあり方などを見ていく、しかし、これは金融機関にとっては埋没費用がかかるので、顧客にとっても一定の事業規模があればプロジェクト・ファイナンスは成立しうると思う。

植杉:
今のままだと市場規模は650億円ぐらいなので、それだとマーケットにはなりえないのではないか。

美原:
そんなことはなく、数億円規模からできると思う。埋没費用が高い場合には、それを吸収できる能力が今のESCO事業の採算性に合うかどうかというテストだけだ。あるいは、複数の企業案件というものをグループ化してみて、ゾーンで考える形で省エネ効果というものを地域全体で考えて、それを一括請負するなど、いくつも複雑なスキームが考えられる。

瀬越:
過去、新エネルギーやESCOのキャッシュフローベースの議論をしたことがある。ベンチャーに投資をするのと、ESCO事業者、独立系の事業者に投資するのは、ビジネスモデルとしては全く同じである。そこでシミュレーションをした結果、シェアード・セイビングスの話をベースに考えると、その会社に投資しても大きく成長するシナリオは描ききれなかった。なぜならば、ファイナンスに問題があるからだ。自分がファイナンスをして資産を保有するという観点からすると成長曲線は描ききれない。踊り場に達すると、そこから先の成長は相当減速して、資産の保有リスクが高まっていく。このようなことを考えていくと、資金調達という観点からすると余り選択肢がないのではないか。また、ESCO事業というのは、プロジェクト・ファイナンスに向くと思う。また、美原さんが言うように目利きが重要だと思う。なぜならば、ファイナンスして実際の効率をどこに求めるかというのは、資金を調達してそのお金をどう使うかという点も含めて、全体的な議論ができないからだ。

田中:
その通りだと思う。米国では一時期急にシェアード・セイビングスが膨れたが、今はギャランティーが多くなっていると聞いている。また、7割以上が公的部門であると聞いている。日本でも公的部門による取り組み、マーケット創造というのをどのようにしていくのか、ということも、もう1つの大きな課題だと思う。

横山:
リスクのマネジメントのスキームが、公的部門でなくて、民間部門を通して資金が流れたときに、現在の公的部門で見られるようなリスクテイキングやリスクプーリングの仕組みが何らかの形であるのだろうか。SRIの研究では、この点についてどのようなことが考えられているのか。

植杉:
いろいろな形でのリスクマネジメントに対する公的部門の関与の形があるだろう。たとえば、英国の年金法改正によってどのようなものに対して投資をしているか、ということについて、ディスクローズすることを義務づけている。また、さきほどの喜多見さんからご説明いただいた大阪府の例もディスクロージャーに対してお金を出していくという形だと思う。このように、リスクのあるお金をどのように連れてくるのかというような議論はできると思う。

議論がずれてしまうかもしれないが、今回イトーヨーカ堂の稲岡さんが出席されているので、CSRやSRIについて、イトーヨーカ堂ではどのような取り組みをされているのか、ということを教えていただきたいと思う。

稲岡:
企業がSRIの投資対象としてどのように評価されたり、格付けされるのか。SRI投資の流れがこれからどうなっていくのかということに非常に興味がある。実は株安の中で長期投資の流れが非常に強く広がっている。たとえば、さわかみファンドは短期的なパフォーマンスよりも長期的なパフォーマンスを見ていて、ファンドへの支持も集めている。そのさわかみファンドが組んでいるポートフォリオの上位銘柄は、SRIの常連企業である。そういう意味で、企業の株主に対する企業価値というものは、財務的な部分は当然なことながら、CSRやSRIのような非財務的な部分もきちっと押さえておかないといけないのかなと感じている。また、日本でもそうだが、欧州や米国の機関投資家は、SRI的なマインドが強いのではないか。そうしたグローバルスタンダードみたいなものが広がっているように思える。

植杉:
朝倉さんは、今のお話に関連して、欧米でのどういうような長期投資を増やすことへの取り組みがあるのかということやSRIを国策として進めているというような動きについて、どのようにお考えになっているのか?

朝倉:
米国と欧州では、SRIの取り組み方が違う。米国は民間主導的で教会等が団体の性格や組織の理念みたいなものを投資運用に打ち出していくことで取り組みが進んだが、欧州では社会的、政策的なインフラを整備していく形でSRI市場の拡大について取り組まれている。

グッドバンカーでは、英国の大手調査機関から日本株の調査を請け負っているが、「日本ではこういう文化的背景や社会の形があって、それでこういう企業評価をしなければ正しい評価はできないのではないか、企業価値を見たいのであればこうしたらどうか」というような私どもの考える日本企業の価値というのを彼らに伝えるということをしている。

日本型CSRのようなものを世界に発信していきたいとは思うが、海外ではSRI市場を生成する上で、非常に大きな役割を果たしている年金基金が、日本ではまだ取り組みが進んでいないということで、資金的なバックアップも乏しいと思う。受け皿作りの部分で、努力をしていかなければならないと思う。

ただ、SRIの国際化が進む中で、日本だけが世界的に見て、SRIの空白地帯になることはないので、もう少し日本型CSRみたいなものを日本の企業の方と意見交換をしながら情報発信をして、よりよいものを作ってきたいと考えている。

福永:
今日の議論は、公的関与の役割はどのようなものがあったか、というものであると思う。その議論と稲岡さんや朝倉さんのお話とは、政策論を考えていく上では、共通している切り口だと思う。この研究会の重要な切り口としては、国民が広くコミットメントするような形で新しい資金の流れを作っていこうというものである。そこに新たなオリジネーションが生まれるはずだし、新たなリスク支援が生まれるはずだというところで、切り口は全く一緒のはずだと思う。

皆さんが見ていて何が資金供給のボトルネックになっているのかということを御提示いただけると、それが我々の行政のフィールドになってくるのかなというような印象を受けている。

植杉:
この研究会自体はもともと「企業の社会的責任」というところから話が始まっている。ただ、本当にどういうところを変えたいかということは、「新たな資金の流れ」というところであり、そこで何ができるのかということを私たちは本当に知りたいと思っている。また、私たちは公的な主体として何ができるのかというところにまさに関心があり、そこを最終的な議論の出口にしたいと思っている。

水口:
新しい資金の流れというときに、新しい資金の流れがありさえすればいいのではなくて、どこに流れるのかということも非常に重要だと思う。

朝倉さんのお話に関連して、欧州で英国やフランスが政府としてSRIを助成していく、底上げしていこうというときに、理想的な社会像のようなものについて、何か具体的な方向性みたいなものを彼らとして持っているのだろうか、という疑問がある。
また、喜多見さんのお話に関連して、地域であればどんな事業でもいいということなのか、あるいは地域の中でも、たとえば雇用を増やすような事業によりシフトするとか、事業で何か特にスクリーニングする要素があるのかどうか、それとも地域の中の事業であればどんな事業でもいいということなのか、ということについて教えてほしい。

喜多見:
大阪の事例については、大きな理念は地域の資金を地域の産業にということだが、この場合はベンチャーにということで、特に東大阪とか、あのあたりは結構いい企業があるので、そういったところにできるだけ流してもらえるような仕掛けということで作った。また具体的には個別の出資の契約としてそこの担保を取ったわけだが、制度自身としては一般制度として作った。

水口:
具体的なベンチャービジネスの選び方自体はファンドマネジャーに任せているということで良いのか。

喜多見:
当初は政策的な価値の高いアーリーステージとかシーズ段階あるいは長期投資が必要なものづくり系に対して投資をするようなスキームで考えたが、府民もしくは大阪府以外の一般投資家を巻き込むということがあり、投資家の保護と投資先企業の公益的な観点という2つをてんびんにかける必要が出た。その結果として、未公開企業ということは前提であるが、段階とか分野とかの制約というのは設けずにリターンが確保できるようなところにお金を流す形でのスキームにした。

朝倉:
欧州では、EUにしてもいういろいろな国や文化の集合体で、非常に複雑な構造を持っており、そうした社会を国が統治していくことが難しくなっているのではないかと思う。そこで、SRIをやりなさいというような言い方はしないで、どちらかといえば企業がディスクローズをしなさい、それも通常の今までのボトムラインではなくて、環境だったり社会だったりというような側面に関しても情報開示をしていきなさいというような方向で政策を進めていると思う。単なる理想の社会像を言っているのではなくて、自分たちがそれに対してどのように取り組んで、それを自分たちの企業競争力にどう結びつけているのか、社会に対してどういうリターンがあるのかということを開示していきなさい。それがいいと思うのは投資家が自分で決めることであると。このようなグッドキャピタルの循環を形成していこうとしているのではないかと思う。

足達:
大きな政府だったり社会的な結束だったり、そういうものに対する感度というか、求める力は米国よりも強いと思う。その中で昔のように財政赤字を出して大きな政府を作るわけにはいかない。しかし国の中の格差だとかEUの中の格差あるいはアフリカとの関係みたいなときに、大きな格差をつけることは逆に社会を不安定にさせるマイナスだということを彼はよくわかっている。そこで考え出したのが実はCSRという魔法の杖だったと私は言っている。企業にこれは競争力になるということを、その気にさせて、従来は政府が公的な税金を使ってやらなくてはいけない役割を、担ってもらう。また、投資家も巻き込み、そして企業もその気にさせて雰囲気を作っていると思う。

稲岡:
英国でやったのは、「CSRやSRIを投資基準に入れているところはそれを開示しないさい」と言っただけで、それをやっただけで大きく変わった。それすら、日本ではできていない。

欧州は、非常に中道主義的なところがあると思われ、米国とは随分違うのだが、日本とはぴったりだと思う。たとえば、厚生年金なども、そのようなガイドラインを少しでも入れれば、大きく変わるであろうし、文字通り資金の流れも大きく変わると思う。

川村:
この研究会の目的は、「いい会社にお金を流そうとするのかどうか」というところにあるのかどうかを整理しないといけないのではないか。そうであれば、年金などの大きなお金がSRI的なものに向けて行けば良いと思う。ただ、そこにその他のorganizationが入ってくる場合は、一見同じようであるが、実は違うところを向いているということもあるので、きちんと整理する必要性があるだろう。

中井:
私は、今病院債発行を考えている。なぜなら、地域の住民がの自分たちの病院は自分たちのために生き残ってほしいと思っても、病院は経営が大変なうえ、20年か30年に1回病院の立替資金が必要となる。そこで資金の調達の一手段として少人数私募債発行という形態での病院債を考えた。しかし、実際にその債券を地域住民が買ってくれるのかどうかという問題がある。なぜならば、個人がリスクテイクするということが日本においてはとても難しいからだ。そこで少なくとも償還が確保される保証みたいなものが必要で、それをどの程度までの仕組みが作れるのか、こうした検討がないと、いつまでたっても誰も投資しない状況が続くのではないか。