IT@RIETI

no.35: プレビュー:RIETI政策シンポジウム「ブロードバンド時代の制度設計II」

RIETIでは、12月4日(木)に政策シンポジウム「ブロードバンド時代の制度設計II」を、総務省や経済同友会、国際大学GLOCOMの後援を得て赤坂アークヒルズのアークアカデミーヒルズにて開催する。そこで、今週のIT@RIETIコラムでは、本シンポジウムのプレビューとして、予想される論点の紹介をしていくことにしたいと思う。

そもそも、今回のシンポジウムでレッシグ教授を招聘することになった背景として、2001年に開催した「ブロードバンド時代の制度設計I」において教授が展開した、インターネットの根幹を成す「コード層」に対する、電話会社やマイクロソフト、あるいは著作権保持者による囲い込みの脅威という議論(討論のサマリーはこちらで入手できる。)の重要性が、2年あまりを経た現在、ますます増してきているという我々の認識がある。

例えば第一セッション「通信の規制改革」においては、主として日米のブロードバンド普及促進政策について議論を行うが、レッシグ教授は我が国のDSLの急激な伸びによるブロードバンドの普及について、未だに高額料金を支払う必要のある米国の現状と比較して、自身のblogにおいて現状を嘆いている。(なお、この観点からの議論は、CNETに掲載されている池田上席研究員のコラム「ブロードバンド「日本の奇蹟」はなぜ起こったか」を参照されたい。)

インターネットと周波数の問題を扱う第二セッション「電波の開放」でも、レッシグ教授は2001年のシンポジウムの後出版された"The Future of Idea"(邦訳「コモンズ」)での主張や、昨年開催した慶應義塾大学の村井純教授とロバート・バーガー氏との特別セッションにおける発言のように、技術進化による周波数のコモンズを推奨する立場を取る。このアイデアは、実際に米国の周波数政策に影響を与えており、ここでも、レッシグ教授の慧眼ぶりが際だっている。

本シンポジウムではレッシグ教授の他にも、FCC(米国連邦通信委員会)のロバート・ペッパー局長、総務省総合通信基盤局の鈴木茂樹国際経済課長、竹田義行電波部長という、日米の情報通信政策を実際に作り出しているキーパーソンをお招きしている。レッシグ教授の先進的な思想と実際の政策当局者との討論を通じて、日米を通した新しい情報通信政策のヒントが見えてくることを期待したい。

第一セッション:通信の規制改革

  • 司会:池田信夫 (RIETI上席研究員)
  • ローレンス・レッシグ (スタンフォード大学教授)
  • ロバート・ペッパー (米国連邦通信委員会電気通信政策局長)
  • 鈴木茂樹 (総務省総合通信基盤局国際経済課長)
  • 林紘一郎 (慶應義塾大学教授)
  • 中村伊知哉 (RIETIコンサルティングフェロー/スタンフォード日本センター研究所長)

ポイント1:日米の情報通信政策をどう評価するか

第一セッションでは、総務省の鈴木国際経済課長を迎えて、日米の有線分野の情報通信政策について討論を行う。昨今のわが国におけるインターネットの普及については、安価なADSLが2000年から爆発的に普及し、1000万契約に迫る勢いで伸びる一方で、都市部では徐々に光ファイバーへの転換も進みつつあり、先進国の中でも決して遅れをとってはいない。

高速インターネットの普及を目指して推進されたe-Japan計画も、今年の夏に公表されたe-JapanII計画では、普及という段階は過ぎ、具体的なサービス展開にその焦点を移している。このように、我が国の情報通信政策は数多くの批判を浴びながらも、着実に前進しているという評価もできるであろう

しかし米国では、アクセス回線の開放をめぐっての地域電話会社と長距離通信事業者との間のせめぎ合いの中でFCCの情報通信政策は揺れており、安価なインターネットサービスを米国においてどう普及させていくのかについて激しい議論が予想される。

一方、我が国の情報通信政策を考える際に避けて通れないのが、NTTの今後をどうするのかという問題であろう。実際、IP電話の普及等で、固定電話回線からの収益はこのところ減少しており、NTTの経営は徐々に圧迫を受けている。

その中で、総務省が2001年に導入したいわゆる非対称規制、いわゆるドミナント(支配的事業者)規制が、本当に現段階でも正しい政策なのかは議論を呼ぶところであり、本シンポジウムでも大きなテーマとして浮上することと思われる。

第二セッション:電波の開放

  • 司会:池田信夫 (RIETI上席研究員)
  • 竹田義行 (総務省総合通信基盤局電波部長)
  • ロバート・ペッパー (米国連邦通信委員会電気通信政策局長)
  • ローレンス・レッシグ (スタンフォード大学教授)
  • 田中良拓 ((有)風雲友 代表取締役社長)
  • ピーター・ピッチ (Director, Communications Policy, Intel Corporation)

ポイント2:日本の野心的な電波有効利用政策をどう評価するか

先述のように、レッシグ教授の「コモンズ」構想は、実際にFCCの政策にも影響を与えている。昨年秋にFCCから、RFTF(電波政策タスクフォース) の報告書が公表されている。この文書は、周波数割当について(1)規制当局のコントロール下での割当、(2)ある程度の所有権を設定し、自由に売買させるやり方(ビッグバン方式)、(3)コモンズを推進する(ただし一部で)という選択肢を取り上げ、その後FCC内部では激しい議論が繰り返されてきた。

レッシグ教授はコモンズの有効性を主張すると思われるが、ペッパー局長は、FCC内部におけるさまざまな議論を踏まえてそれに反論を加えると予想される。コモンズ理論は非常に理想的であるが、果たしてそれが本当に有効な割り当て手法なのかについて、シンポジウム当日の午前中のテクニカル・ワークショップで発表される予定の池田RIETI上席研究員の"Spectrum Buyouts: A Mechanism to Open Spectrum"構想と併せ、興味深い討論が行われよう。

一方、我が国で今後進められようとしている電波開放政策は野心的である。総務省の電波有効利用政策研究会で議論が進められている(第一次答申第二次答申)この周波数の利用・割り当てに関する新方針は、周波数の迅速な開放のため、事業者に対しては設備の残存簿価分の補償を行うことで帯域を開放するほか、無線LAN等については事後登録制度を導入するなどの大幅な規制緩和を行うものである。このように電波を政府が法的に「収用」することは、世界的にも前例がない。この計画に対してのペッパー氏の評価も見所のひとつであろう。

いずれにせよ上記のように、日米で様々に模索されている適切な周波数割り当てモデルのあり方が議論の中心に上ってくることは疑いない。

なお、第二セッションには、午前中のテクニカルセッションに引き続き、インテル社の無線技術政策の指導的な地位にあるピーター・ピッチ氏も加わることになっている。IEEE802.11無線LAN技術の標準搭載や、次世代規格IEEE802.11nの開発、ワイヤレス基幹網の構築に貢献すると見込まれるIEEE802.16a規格など、無線インターネット戦略を強力に推進するインテルが、日米双方の無線政策についてどのような意見を述べるのかにも注目が集まるところだ。

以上のように、本シンポジウムは現在の日米の情報通信政策に関わる重要な議題が、各界のキーパーソンの手によって語られる興味深い内容となっている。ご関心をもたれた方は、ぜひ下記のurlからお申し込みをして頂きたいと思う。

申し込みページ:http://www.rieti.go.jp/jp/events/03120401/info.html

なお12月2日の夜にはレッシグ教授が主催するクリエイティブ・コモンズ日本支部が主催する、レッシグ教授との対話イベントも準備されている。(http://www.glocom.ac.jp/top/2003_11_04news.html)

ご関心の向きは、こちらにもぜひ参加されたい。

(IT@RIETI編集部)

2003年11月26日

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2003年11月26日掲載