IT@RIETI

no.6: 役所の中身を知る方法-情報公開請求のススメ

田中 良拓
国際大学GLOCOM客員研究員/(有)風雲友代表取締役

以前、役所の中で働いていたときはあまり考えなかったが、民間人になってから、一般の人にとって、役所の中身がブラックボックスであることを実感する。開かれた政府等の標語を聞いたり、情報公開法が近年できたり、行政の透明性を高める方向に社会は進んでいるが、まだまだ道半ばと評価せざるを得ないと思っている。私の場合、米国の役所に勤務した際、日本の役所は透明性が格段に低いことを比較として強く実感したが、日本の中だけにいるとどうもその実感が湧かないようだ。

報道機関などは頻繁に利用しているようだが、上述の情報公開法を利用し、国民の権利として、特別な理由がなくても役所に行政文書の開示請求ができることを皆さんは知っているだろうか。このように役所の中身を知る権利が皆さんにもあるのだから、是非一回請求を行うことをお勧めするが、実はそう一筋縄で知りたい情報を手に入れられるわけではない。でも、こういう事実を一人でも多くの人が実体験しないと、本当の行政の透明性は産まれないと思う。

それでは、実際に情報公開請求をするとどの位まで役所の中身を知ることができるかを、私が同僚と行った実例を紹介し、皆さんへの参考としたい。

今回、情報公開請求の対象として、平成13年度補正予算「e!プロジェクト」実証実験の公募を選んだ。(首相官邸HP資料)このe!プロジェクトは、e-Japan構想の一環として、公共分野における最先端のIT化の実現のために政府が考案したものだが、なぜこれを私が選んだかと言えば、この公募結果の決定過程がどうも不透明で、何か嫌な匂いのようなものを感じたからである。補正予算で公募を行う場合、公募の正式発表から提案の締切期限まで2週間位しかなかったりするが、この期間でどうして公募で要求されている提案書を書けるのだろう、という実態がとても多い。

e!プロジェクト実証実験の公募は、総務省経済産業省、国土交通省の3省から行われたが、複数省の情報公開実態を比較としてつかむためにも、総務省と経済産業省に同じ内容の行政文書の開示を請求した。

私が開示請求したのは、「外部有識者による公募提案書類審査」に関する資料である。外部有識者は、どんな人でどんな評価を行っているのかが、Web等では公表されていないので、外部有識者のリストと彼らが行った応募案件に対する評価結果に関する資料を請求したのである。

ここで、忘れてはいけないことは、開示請求した資料の開示に最低1ヶ月は要することである。また、役所側がさらに1ヶ月延長することが可能で、今回も開示までに実際2ヶ月を要した。

やっとのことで、経済産業省から入手した資料を見ると、応募案件に対する評価結果に関する資料では、当選した案件の「題名」程度しか開示されていない。後は、全て黒塗りされているのだ。そして、外部有識者のリストに至っては、「リストは存在しない」との回答だった。結局、情報公開請求しても、Webで公開されている情報程度しか公開されなかったのだ。そもそも、外部有識者のリストが存在しなければ、彼らへの評価お願いに関する事務手続きもできないはずで、存在しないはずはないのだが、ないと言われたらこちらはどうしようもないのである。

それでは、経済産業省が提示した不開示の理由を見てみることにする。「外部有識者の身元や評価結果の機密性が保持されないと、自由な意見や貴重な情報の提供に影響を及ぼす恐れがある。」という旨の内容となっていた。仮にこの理由が正当だとしても、外部有識者の身元情報だけを不開示にすれば、評価結果のコメントを開示しても、この問題は生じないはずである。同時に、このような役所の論理は以前にもよく聞いたのを強く覚えている。

審議会などの会合が昔は密室で行われていたのを、一般傍聴を可能にし議事録を公開すべきだという議論があった際、外部公開されると自由な議論ができないというのが、密室会合を擁護する役所の論理だった。確かに半分主張することもわかるのだが、結局、時代の流れとともに、審議会の内容は外部公開されてきている。この事例を応用すると、情報公開に対する上述の経済産業省の論理も、今は正しくても数年後は誤りになるのではと思っている。

さて次に、上述したとおり、経済産業省と同じ内容の資料を総務省にも開示請求したのだが、その結果を見て経済産業省と比較してみると面白いことが見えてくる。総務省から開示された応募案件に対する評価結果については、外部有識者等の身元情報だけを不開示にして、評価結果のコメント等の開示、リストの開示を行っていた。おまけに、落選した応募案件の内容も開示されたので、どこの会社がどのような実証実験をしようとしていたかも手に取るようにわかってしまったのだ。

こう総務省と経済産業省の情報公開法の運用が異なり、その結果開示内容が違うと、経済産業省の不開示の理由だけでなく役所全体の開示・不開示の判断は何だと、いよいよ信用できなくなってしまう。常識的に考えて、この程度なら開示するだろう、と思う情報でも、「不開示」あるいは「存在しない」となるのだ。ちょっと多くの書類の開示請求をすると2ヶ月も要することを考えると、闇雲な請求方法では、いつになっても欲しい情報にたどり着かないのだ。要するに、どんな資料が存在するのか、どういう方法で開示要求する箇所を特定するのか、というノウハウが、一般の人が役所の中身を知るために必要となるのだ。言い換えれば、今の役所のように、整理されていない情報が山のように存在するとき、どの情報があるかどうか自体の情報が大切になってくるのであり、この情報を持たない限り、欲しい資料を的確に開示請求することもできないのである。

最後に、実は、情報公開請求しても、上述の「リストは存在しない」のような対応への次なる手段として、不服申し立てがある。経済産業省の今回の対応を理解できない私は、不服申し立ても行ったが、まだその結果は出ていない。冒頭に述べたが、情報公開請求は国民の権利なので、このようにして役所の中身をちょっとだけ知る方法があるが、こう興味本位で情報公開請求されたら役所の職員はかなわないだろうと、私も役所の元同僚の顔を思い浮かべながら思う。情報公開法は、これに沿って作業をする官僚にとっても問題のある法律なのだが、この事実も皆さんの頭の片隅においてもらえればと思っている。

2003年3月26日

This work is licensed under a Creative Commons License.

2003年3月26日掲載

この著者の記事