中国経済新論:実事求是

トランプ版G2の登場で変容する国際秩序と米中関係
-ディール外交に基づく「米中分治」の時代へ-

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー
野村資本市場研究所 シニアフェロー

Ⅰ.はじめに

2025年10月に釜山で行われた米中首脳会談を巡り、トランプ大統領は米国の新たな外交戦略を示唆する表現として「G2」を用い、話題を呼んだ。従来のG2論が米中共治とルール重視を志向していたのに対し、「トランプ版G2」は米中の勢力圏分割とディール(取引)外交を特徴とする。

トランプ版G2の登場による国際秩序への影響は深刻である。まず、多国間主義は後退し、国際連合や、世界貿易機関(WTO)、世界保健機関(WHO)、パリ協定といった多国間制度が空洞化している。その結果、米国の同盟国はこれまで頼ってきた多国間制度や共通の価値観に基づく交渉力を失いつつあり、米国の安全保障上の約束を対価として、防衛費の増額や対中制裁への協力を迫られている。一方で、多くの途上国は両大国のいずれの勢力圏に入るかを余儀なくされている。

米中関係の行方は、「協調と競争の並存」という複雑な様相を呈している。今後、貿易分野では表面的緩和が見られる一方、技術分野では競争が激しさを増し、安全保障分野では不確実性が増大するだろう。さらに、トランプ版G2は制度的保証を欠き、首脳同士の個人的関係のみに依存する本質的に脆弱な構造であり、政権交代や指導者の心変わりで容易に崩壊する危険性を孕んでいる。

Ⅱ.トランプ版G2の登場

2025年10月30日、韓国・釜山においてトランプ米大統領と習近平中国国家主席による米中首脳会談が行われた。この会談に先立ち、トランプ大統領は自身のSNSであるTruth Social上で、“THE G2 WILL BE CONVENING SHORTLY!”(G2がまもなく行われようとしている!)と投稿した(注1)。

この投稿で注目されるのは、「首脳会談」や「二国間協議」といった中立的な表現を用いず、米中を世界で最重要の二国と位置づける「G2」(Group of Two)をあえて掲げた点である。G2は2000年代後半に構想として提起されたが、制度化されることなく消えた。この表現の復活には、釜山の会談を通常とは異なる特別な政治的出来事として演出しようとする意図が感じられる。

さらに、「行われようとしている」という言い回しは、官僚的に調整された外交行事というよりも、首脳自身の判断によって今まさに始まる重大な交渉であることを強調する効果を持つ。このような表現は、外交を制度や手続きというよりも首脳間の直接交渉と取引(ディール)として捉えるトランプ流の政治スタイルと整合的である。

Ⅲ.2025年版国家安全保障戦略で読み解くトランプ版G2

トランプ大統領の今回のG2発言は、当初は即興的なメッセージとして受け止められたが、その後に公表された2025年版国家安全保障戦略(NSS2025)は、G2という用語を明示的には用いていないものの、釜山で示されたディール外交と高い整合性を示しており、本発言をより体系的な戦略文脈に位置づける根拠を与えている(注2)。

この発信の戦略的意図を読み解く手がかりは、NSS2025が中国を「準同格の大国(near peer)」と再定義している点にある。すなわち、中国は打倒すべき敵でも同盟国と結束して抑え込む対象でもなく、米国と完全に同格ではないが、能力と影響力において接近した存在とみなされている。中国は戦略的競争相手であると同時に、両国間の対立激化を回避すべき相手とされている。この理解に基づけば、米国にとって、多国間制度(国際機関や条約・協定を含む)や同盟国との調整を通じた間接的な関係管理よりも、米中首脳間の直接交渉による問題解決が合理的な選択肢となり得る。G2という表現は、こうした戦略的発想を端的に示している。

中国を「準同格の大国」として再定義することは、米国の外交戦略に大きな変化をもたらしている。NSS2025は「アメリカ・ファースト」原則を徹底し、民主主義の輸出や価値観の普遍的拡張を「エリートの幻想」として退ける一方で、製造業の国内回帰、雇用創出、経済的利益の最大化を国家安全保障の中核に据えている。したがって、外交・安全保障政策は、イデオロギー的使命感ではなく、国益と短期的成果を基準に再構成されている。

さらに、NSS2025は米国の「世界の警察官」的役割を縮小する一方で、西半球を米国の勢力圏とみなす、いわば「トランプ版モンロー・ドクトリン(ドンロー主義)」を提示している(注3)。これは暗に、中国がアジアにおいて一定の勢力圏を持つことを米国が事実上容認することを示唆している。

Ⅳ.G2構想の歴史的変遷

トランプ版G2の特殊性を理解するには、G2構想の歴史的変遷を概観し、変化の要因を分析する必要がある。

米中関係を「G2」、すなわち米国と中国という二つの大国が国際秩序の安定において特別な役割を担うという枠組みで捉えようとする議論は、単一の理論や一貫した政策構想として確立してきたものではない。むしろそれは、冷戦終結後の国際秩序の変容、とりわけ中国の急速な台頭と米国の相対的影響力低下という構造的変化を背景に、異なる問題意識のもとで段階的に形成されてきた多様な提案を含んでいる。

「G2」は、2008年にピーターソン国際経済研究所のフレッド・バーグステン所長が、米中が世界経済を共同で導く「責任共有」の枠組みとして初めて提唱した構想である。彼はG2が排他的な大国支配ではなく、包摂的な多国間協力の触媒として機能すべきだと主張した(注4)。

その直後に起こった世界金融危機は、G2構想を政策課題へと押し上げた。2009年、戦略家でカーター政権下の国家安全保障担当大統領特別補佐官を務めたゼブロン・ブレジンスキーは、金融危機や気候変動といった広範なグローバル課題に対し、米中が戦略的対話を通じて解決策を導き出すことを目指す「非公式なG2」を提唱した(注5)。彼は米中が「対等なパートナー」として、グローバル公共財を共同で提供する枠組みを描いていた。

オバマ政権(2009-2017年)は、同盟国への配慮、中国自身の警戒、米国内の政治的抵抗などを理由に、公式にはG2という枠組みを採用しなかった。しかし、実質的には米中協調を模索し、気候変動対策では2014年の米中共同声明が2015年のパリ協定採択への道を開き、米中戦略経済対話(S&ED)という制度化された枠組みが機能した。このように、「実用的多国間主義」ともいうべきオバマ政権の外交戦略は、程度の差があるものの、「米中共治」と「多国間主義」のバランスを志向する点において、バーグステンとブレジンスキーのG2構想と類似している。

同じ頃、中国側は習近平国家主席により、「衝突・対抗の回避」「核心的利益の相互尊重」「ウィンウィンの協力」の三本柱からなる「新型大国関係」を提案した。しかし、米国は「核心的利益の相互尊重」が勢力圏の分割につながることを警戒し、受け入れを拒否した。2013年以降、中国の南シナ海での埋め立てや人工島建設、「一帯一路」構想の推進、東シナ海での軍事活動の活発化により米中関係は悪化し、G2論は下火となった。

第一次トランプ政権(2017-2021年)は中国を「修正主義勢力」と定義し、米中貿易戦争と技術覇権争いが激化した。バイデン政権(2021-2025年)は同盟国との連携強化を通じた中国との「協力的競争関係」を目指し、最先端技術の対中全面封鎖を意味する「小さな庭に高い柵」政策を推進した(注6)。この時期、G2という言葉はメディアから完全に消えていた。

その後に登場する「トランプ版G2」は、当初のG2構想と異なり、勢力圏とディール外交を重視し、既存の多国間制度を補完するよりも、それを代替しようとするものである。

これまでの各種のG2構想は、二つの軸を用いて整理できる(図表1)。第一の軸は「米中共治」対「米中分治」である。「米中共治」は両大国が協力してグローバル公共財を供給する責任を共有することであり、「米中分治」は双方が勢力圏を分け合い、互いの支配権を認め合うことを指す。第二の軸は「ルール志向」対「ディール外交」である。「ルール志向」は既存の国際機関や条約・協定を尊重する姿勢であるのに対し、「ディール外交」は首脳同士の取引によって問題解決を図ろうとする。これに沿って整理すると、G2を巡る議論は、バーグステン/ブレジンスキーのG2構想、オバマ政権の実用的多国間主義、習近平国家主席の新型大国関係、トランプ版G2という順に、「米中共治×ルール志向」の極から「米中分治×ディール外交」の極に向かってきたのである。

図表1 「米中共治vs米中分治」と「ルール志向vsディール外交」から見たG2論の変遷
図表1 「米中共治vs米中分治」と「ルール志向vsディール外交」から見たG2論の変遷
(出所)各種資料より筆者作成

Ⅴ.国際秩序の行方

トランプ版G2の登場による国際秩序への最大の影響は、多国間主義の後退とそれに伴う国際公共財の不足である。

トランプ政権は外交・経済政策において二国間取引を重視する姿勢を一貫して示しており、多国間制度に対しては距離を置く立場を取り続けている。それを象徴するのは、世界保健機関(WHO)とパリ協定からの離脱である。また、世界貿易機関(WTO)については、上級委員会の機能停止が長期化する中で、その回復に向けた積極的な関与を行っておらず、多国間貿易体制の実効性低下を事実上容認する姿勢が継続している。

その結果、多国間制度は形式上存続しつつも、その実効性を徐々に失う可能性が高まっている。具体的に、国際連合において、米国の拠出金削減や、安全保障金を介さないパワー・ポリティクスの優先により、紛争調停や平和維持という中核機能が弱体化している。また、貿易分野では、紛争処理が二国間交渉によって代替されることで、共通ルールの拘束力が後退している。気候変動や公衆衛生といった地球規模の課題についても、米国が制度的枠組みから距離を取ることで、国際協調の維持が困難になってきている。こうした変化は、多国間制度を媒介として多様な主体を調整過程に組み込むという従来の包摂的な国際秩序が崩れていくことを意味する。

トランプ版G2の登場による国際秩序へのもう一つの影響は、同盟国や途上国など、第三国の戦略的自律性の低下である。

これまで米国の同盟国は、多国間制度や共通の価値観に支えられ、国際交渉で一定の交渉力を維持してきた。しかし新たな秩序はその前提を根底から覆そうとしている。アメリカ・ファーストの姿勢が強まる中で、米国は同盟国に対して安全保障上の約束を見返りに追加負担を迫り、米中対立の場面では対中制裁などへの協力を取り付けようとしている。

また、米中が互いの勢力圏を承認し合う「分治」の時代において、多くの途上国がこれまで展開してきた「経済は中国、安全保障は米国」というバランス外交がもはや困難となる。両大国から「敵か味方か」と二者択一を強いられ、どちらか一方の勢力圏に入ることを余儀なくされる。

さらに、多国間制度の空洞化に伴い、同盟国であれ途上国であれ、第三国にとって最大の防衛手段である国際法は弱体化している。国際問題を解決するためのルールに基づく調整が機能不全に陥り、二国間の直接的な力関係が優先されることで、各国の戦略的自律性は大きく制約される。

Ⅵ.米中関係の行方

トランプ版G2の下での米中関係は、単純な「緊張緩和」でも「対立激化」でもなく、「協調と競争の並存」という複雑な様相を呈している。

経済分野における米中関係は、取引による部分的な緩和と、構造的競争の継続が同時に進行することになる。トランプ版G2の下では、経済関係が一方向的に改善するというよりも、分野ごとに異なる論理が重層的に働く状況が形成されると考えられる。

貿易関係においては、短期的には緊張が緩和されるだろう。トランプ政権が重視するのは、貿易赤字の削減や目に見える成果であり、中国が米国産農産品、LNG、航空機などの購入を拡大する場合、米国側が関税措置で譲歩することはあり得る。しかしながら、「不公正な競争」の原因とされる中国における国有企業への補助金、産業政策、市場アクセスの非対称性、強制的技術移転といった問題は、いずれも短期的な取引によって解消される性格のものではなく、根本的な是正は見込みにくい。トランプ政権下では、数値化可能な成果が優先され、中国に対する制度改革や構造調整への要求は後回しにされる傾向が続くと考えられる。

技術分野では、競争が激しさを増すだろう。半導体、人工知能、量子コンピューティングといった戦略的技術分野における対中技術封鎖の必要性が、共和党と民主党の両党の共通認識となっている。一方、中国側も米国を追い越すことを目標に、挙国体制の下、科学技術の自立・強化を目指し続けると予想される。米中間の技術競争は、経済合理性のみならず軍事・地政学的要素とも結びついているため、妥協の余地が限られている。

投資・金融分野では、部分的な開放と相互警戒が並行して進む状況が続くとみられる。中国は金融サービスやヘルスケアなど非戦略的分野での市場開放を進める一方、エネルギーや通信、インフラといった分野では慎重姿勢を維持する可能性が高い。米国側でも、ハイテクや安全保障にかかわる分野において、中国企業による対米投資を制限する一方、それ以外の分野において、規制が緩くとどまるだろう。

Ⅶ.懸念される構造的不確実性

トランプ版G2の最大の問題点は、次のような構造的不確実性にある。

第一に、この枠組みは制度的裏付けを欠き、米中関係の管理が首脳個人の判断と首脳間の関係に大きく依存している。官僚機構や多国間制度を通じた恒常的な調整メカニズムが存在しないため、政策の継続性や予見可能性は著しく低い。トランプ政権下では、外交方針が大統領の発言や交渉結果によって急変する可能性が常に存在し、中国側にとっても長期にわたる安定的な期待形成は困難である。

第二に、政権交代リスクがこの不確実性を一層高めている。2028年の米大統領選挙で民主党政権が成立した場合、価値観外交や同盟国重視路線が復活し、対中強硬姿勢が再び前面に出る可能性は否定できない。同様に、中国においても、習近平体制以後の指導部がトランプ大統領との合意を引き継ぐ保証はなく、国内の民族主義的世論やエリート間のパワーバランスが対米政策を制約する可能性がある。

第三に、制度化された危機管理チャネルの欠如は、誤算や偶発的衝突のリスクを高める。台湾海峡や南シナ海における米中軍の接近遭遇は、意図しない軍事的エスカレーションにつながる潜在的危険性を孕んでいる。

このように、トランプ版G2は米中対立を制度的に管理する枠組みではなく、両国の短期的利害を調整するためのその場しのぎの策として理解されるべきである。首脳同士の取引外交は一時的な緊張緩和をもたらし得るが、制度化されたルールや第三国を調整過程に組み込むメカニズムを欠く以上、二国間関係と国際秩序の安定性を担保するものではない。

こうした環境の下で、第三国は、自衛策として、米中二大国への依存度を抑えながら、多国間主義を堅持し、価値や利害を共有する国々との連携を強化していく必要がある(注7)。日本は、EUとともに、この「第三の軸」の中核を担う存在となり得るかが問われている。

野村資本市場研究所『中国情勢レポート』No. 26-01、2026年2月6日からの転載

脚注
  1. ^ Donald J. Trump, “THE G2 WILL BE CONVENING SHORTLY!” Truth Social, October 30, 2025.
  2. ^ The White House, National Security Strategy of the United States of America, Washington, DC: The White House, November 2025.
  3. ^ この立場の変化は、北米周辺の地政学上の要衝への関心を高めている。たとえば、デンマーク領で北極圏に位置するグリーンランドは、資源や航路の戦略的価値を背景に、米国内で同島の取得をめぐる議論が浮上している。パナマ運河についても、トランプ政権は「支配権の回復」と「中国の影響力排除」というスタンスを明確に打ち出している。
  4. ^ Fred C. Bergsten, “A Partnership of Equals: How Washington Should Respond to China's Economic Challenge,” Foreign Affairs 87, No. 4: 57-69, 2008.
  5. ^ Zbigniew Brzezinski, “The Group of Two that Could Change the World,” Financial Times, January 13, 2009.
  6. ^ The White House, National Security Strategy of the United States of America, Washington, DC: The White House, October 2022; Jake Sullivan, “Remarks by National Security Advisor Jake Sullivan on the Biden-Harris Administration's National Security Strategy,” The White House, October 13, 2022.
  7. ^ この認識は、カナダのマーク・カーニー首相が2026年1月20日、世界経済フォーラム(ダボス会議)で行った演説「原則と現実主義:カナダの進む道」において示されたミドルパワーの戦略論と整合的である(Mark Carney, “Davos 2026 – Special Address by Mark Carney, Prime Minister of Canada,” World Economic Forum, January 20, 2026. <https://www.weforum.org/stories/2026/01/davos-2026-special-address-by-mark-carney-prime-minister-of-canada/>)。同演説でカーニー首相は、大国間競争の激化と多国間制度の弱体化を前提に、ミドルパワーが特定の大国や二国間取引への依存を避けつつ、制度・ルールを共有する国々との連携を通じて戦略的自律性を確保すべきであると論じた。
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2026年2月12日掲載