中国経済新論:実事求是

2020年の人口センサスで見た中国経済の課題
― 労働力の減少と地域間の移動を中心に ―

関志雄
経済産業研究所

Ⅰ.はじめに

中国では、2021年5月11日に2020年に実施された「全国人口センサス」(日本の国勢調査に相当、以下では「人口センサス」)の結果が発表された(注1注2)。これにより、中国における人口規模や、人口の年齢構成、男女別構成、地域分布、農村部と都市部の間または地域間の移動状況などの実態が明らかになった。今回の人口センサスは第七回に当たり、その結果と2010年に実施された前回の結果と比較すると、少子高齢化や、人口移動の活発化など、この10年間の人口動態の変化を確認することができる(図表1)。

図表1 中国における「第七回全国人口センサス」の調査結果
―前回との比較―
図表1 中国における「第七回全国人口センサス」の調査結果―前回との比較―
(注)
1. 各項目の対象には、中国大陸31省・自治区・直轄市と現役軍人が含まれ、中国大陸在住の香港・マカオ両特別行政区・台湾地区の住民と外国人は含まない。
2. 現役軍人(2010年には230万人、2020年には200万人)と常住地域が確定できない人口(2010年には465万人)が各地域のデータに含まれていないため、各地域のシェアの合計は100%にはならない。
(出所)中国国家統計局「第七回全国人口センサス公報」より筆者作成

Ⅱ.総人口の減少が視野に

「第七回人口センサス」によると、2020年の中国の総人口は14億1,178万人と、2010年の13億3,972万人と比べて、7,206万人増えた(5.4%増)(注3)。2020年までの10年間の年平均伸び率は0.53%で、2010年までの10年間の0.57%を若干下回った(注4)。

人口の男女別構成で見ると、2020年の男性は7億2,334万人、女性は6億8,844万人と、それぞれ総人口の51.2%と48.8%を占めた。人口性比(女性100人に対する男性の数)は105.1と、2010年とほぼ同水準だった。2020年の出生性比は111.3と、2010年と比べて6.8下がったものの、依然として105(±2)という正常の水準を大きく上回った。このことは、将来的に多くの成人男性が結婚できないことを意味し、出生率を抑える要因となる。

中国では、一人っ子政策が段階的に緩和され、2016年に二人っ子政策が全面的に実施されるようになった。これを受けて、新生児の数は2016年には1,800万人、2017年には1,700万人を超え、それまでと比べて、それぞれ200万人と100万人ほど増えたが、2018年以降再び減少に転じ、2020年には1,200万人にとどまった。新型コロナウイルスの流行の影響もあって、2020年に合計特殊出生率は1.3と、長期的に人口を一定のレベルに維持するための人口置換水準を大きく下回り、総人口が低下傾向に転じるのはもはや時間の問題である(注5)。中国の人口経済学の第一人者で、元中国社会科学院副院長でもある蔡昉氏は、この転換点が2030年までに到来すると予測している(注6)。

Ⅲ.少子高齢化の進行で失われた人口ボーナス

人口の年齢別構成を見ると、中国では、産児制限の緩和を受けて少子化に一定の歯止めがかかったが、高齢化が一段と進んでおり、生産年齢人口は縮小してきている。

「第七回人口センサス」によると、2020年の0-14歳の年少人口が2億5,338万人(総人口の17.9%)、15-59歳の生産年齢人口が8億9,438万人(同63.4%)、60歳以上の老年人口が2億6,402万人(同18.7%)だった。老年人口の内、65歳以上の人口は、1億9,064万人(同13.5%)に達した。人口の平均年齢は38.8歳だった。

2010年と比べると、2020年の年少人口が3,092万人増え(シェアが1.3ポイント上昇)、生産年齢人口が4,524万人減り(同6.8ポイント低下)、老年人口が8,637万人増えた(同5.4ポイント上昇)。年少人口の増加は、一人っ子政策の緩和を受けて出生率が一時的に上昇したことを反映しており、今後も続くかどうかは疑問が残る。出生率の大幅な上昇がなければ、生産年齢人口のシェアの低下と老年人口のシェアの上昇という傾向は定着するだろう。

農村部において、若年層を中心とする労働力の大規模な流出を背景に、高齢化は都市部よりも進んでいる。2020年に農村部における60歳以上の人口のシェアは23.8%、65歳以上の人口のシェアは17.7%と、それぞれ都市部より8.0ポイントと6.6ポイント高かった。農村部では、年金制度の整備が遅れていることを考えると、高齢化問題が都市部より一層深刻である。

老年人口のシェアが上昇する一方で生産年齢人口のシェアが低下することは、労働力供給の減少を意味する。その上、生産年齢人口と比べて老年人口の貯蓄率が低いため、このような人口動態の変化は、家計部門を中心に、国全体の貯蓄率の低下を招きかねない。それに伴う資金不足による投資(資本ストックの拡大)の鈍化は、労働力の減少とともに、潜在成長率を抑える要因となる。中国の潜在成長率は、2010年までの10%程度からすでに6%程度に落ち込んでいると見られ、今後、一層の低下が予想される。

労働力の量的縮小とは対照的に、国民の平均教育水準の上昇に伴い、労働力の質の向上が見られる。大学以上の学歴を有する人口のシェアは、2010年の8.9%から2020年に15.5%に上昇した。また、この10年の間に、15歳以上の人口の受けた平均の教育年数は9.08年から9.91年に上昇した一方で、非識字率は4.1%から2.7%に低下した。生産年齢人口が縮小し、「人口ボーナス」が「人口オーナス」に変わったことを受けて、「人材ボーナス」は、供給側から経済成長を支える要素としての重要性が増している。

Ⅳ.経済活動に合わせて人口の重心も北から南へ

中国では、西部と東部の格差が縮小する一方で、南北格差が広がる中で、人口移動の方向は、従来の「西から東へ」から、「北から南へ」と変わってきた。これに鑑み、中国における経済活動と人口の分布を見る上では、東部、中部、西部、東北部という従来の地域分類に加え、北部vs.南部という観点が求められる(注7)。

従来の地域分類では、人口の東部への集中が続いている。「第七回人口センサス」によると、2020年の各地域の総人口に占めるシェアは、東部が39.9%、中部が25.8%、西部が27.1%、東北が7.0%だった(注8)。2010年と比べると、東部と西部がそれぞれ2.1ポイントと0.2ポイント上昇した一方で、中部と東北部はそれぞれ0.8ポイントと1.2ポイント低下した。

北部と南部という分類で人口分布を見ると、中国経済の中心が北から南に移りつつあることに合わせて、人口が同じ方向で移動していることがわかる。実際、2010年から2020年にかけて、南部の人口のシェアは57.4%から59.1%に、GDPのシェアは57.1%から64.6%に上昇したが、北部の人口のシェアは42.1%から40.8%に、GDPのシェアは42.9%から35.4%に低下した(注9)。また、各省の過去10年間のGDP(名目)の変化への寄与率は、人口の変化への寄与率と同様に、「南高北低」という傾向が顕著である(図表2)。

図表2 各省の人口とGDPの変化(2010年~2020年)に対する寄与率
―顕著になった南高北低の傾向―
図表2 各省の人口とGDPの変化(2010年~2020年)に対する寄与率―顕著になった南高北低の傾向―
(注)
(出所)GDPは中国国家統計局、人口は「第七回全国人口センサス」より筆者作成

人口変動の大きい広東省と東北部(遼寧省、吉林省、黒竜江省)を比較して見ると、2010年から2020年にかけて、前者の人口は、2,171万人増え、1億2,601万人に達したのに対して、後者の人口は1,101万人減り、9,851万人と、1億人の大台を割った。また、2020年に、広東省における生産年齢人口のシェアは68.8%と、東北部(遼寧省が63.2%、吉林省65.2%、黒竜江省66.5%)を上回った一方で、老年人口のシェア(12.4%)は東北部(遼寧省が25.7%、吉林省23.1%、黒竜江省23.2%)を大きく下回った。

「中国の奇跡」と呼ばれるようになった改革開放以来の中国経済における急速な発展は、計画経済の時代に築いた基礎に基づいたものであると主張する一部の学者がいる。しかし、この40年にわたって、計画経済の時代に工業基地であった東北部が低迷し続ける一方で、後発組でありながら市場化と対外開放を率先して進めてきた広東省などの躍進が示しているように、「中国の奇跡」はむしろゼロから再出発した結果であると理解すべきであろう。

Ⅴ.出稼ぎ農民の移住で進む都市化

中国における人口の地域別分布の変化は、主に多くの農村部出身の労働者が、職を求めて都市部に向かったことを反映している。「第七回人口センサス」によると、2020年の都市部の人口は9億199万人と、全体の63.9%(=常住人口で見た都市化比率)を占めた一方で、農村部の人口は5億979万人と、36.1%を占めた。2010年と比べると、都市部の人口は2億3,642万人増えたのに対して、農村部の人口は1億6,436万人減少し、常住人口で見た都市化比率は14.2ポイント上昇した。

しかし、2020年の戸籍で見た都市化比率は、45.4%(公安部主催の記者会見、2021年5月10日(注10))と、依然として常住人口で見た都市化比率を大きく下回った。このことは、多くの出稼ぎ農民が都市部に移住しても農村戸籍のままになっていることを示している。2020年の流動人口は2010年の2億2,143万人から3億7,582万人に増え、その内、農村部から都市部に移った人は2億4,900万人ほどに達した(注11注12)。

現行の戸籍制度に制約され、大量な出稼ぎ農民やその家族は都市部に移住してからも多くの差別を受けている。彼らは、都市戸籍を持っていないゆえに、教育、就業、医療、住宅などの面において、色々な差別を受けている。出稼ぎ農民の「市民化」が遅れた結果、中国における格差の象徴として、従来の農村部vs.都市部に加え、出稼ぎ農民vs.都市住民という二重構造が現れている。

Ⅵ.求められる少子高齢化対策と戸籍制度の緩和

このような人口動態の変化を背景に、中国政府にとって、少子高齢化と人口の流動化への対応が重要な政策課題となっている。産児制限から奨励への転換、定年延長、年金改革、都市戸籍取得の緩和などが主な対策となる。

まず、少子高齢化対策について、2021年から始まる第14次五ヵ年計画において、①高齢者向けサービスと子育て支援を充実させると同時に、適正な出生率の実現を促す、②法定定年年齢を段階的に引き上げる、③多層的社会保障制度を充実させ、基本養老保険(年金)の加入率を95%に引き上げる(2020年の実績は91%)などが盛り込まれている。

その中で、適正な出生率を実現するためには、産児制限の一層緩和が必要である。現に2021年5月31日に開催された政治局会議において、夫婦一組につき子供3人までを認める方針が決まった。それに加え、出産を奨励する政策の実施も求められる。諸外国の経験を参考にすれば、保育所の整備など子育て支援策の一層の充実、居住や子供の教育のコストの抑制などを通じた適齢層の結婚・出産の希望の実現、多子世帯への一層の配慮、夫婦共働きでも育児が可能になる働き方改革などがその主な内容となろう。

また、平均寿命と従来の定年年齢(男性は60歳、女性幹部は55歳、女性労働者は50歳)との差が広がる中で、定年延長は、労働力の供給を増やす有効な手段である。中国の若者は、大学や大学院への進学率が上昇しており、働き始める平均年齢がどんどん遅くなっている。定年年齢が変わっていないため、平均生涯勤続年数が短くなってきている。高学歴の人材を生かすためにも、定年延長が求められる。

さらに、年金制度改革が必要である、現行の制度では、都市で働く企業就労者、自営業者、公務員、外郭団体職員などが加入する「都市職工年金」と都市戸籍の非就労者と農村住民が加入する「都市・農村住民年金」に分かれている。前者と比べて、後者は年金給付額が低く、特に農村住民の場合、老後の生活に十分な保障を与えていない。また、年金制度全般が積立金不足の問題に直面しており、今後、長期にわたって政府による財政補助が必要である。年金財政の収支バランスを改善するために、定年延長に合わせて、年金保険料納付期間を延長する一方で、年金給付開始年齢を引き上げる必要がある。

一方、戸籍改革について、2014年3月に発表された「国家新型都市化計画(2014-2020年)」には、都市の規模に応じて異なる戸籍政策を実施する方針が盛り込まれた。具体的に、①中小都市の戸籍取得の自由化を推進する一方で、人口500万人以上の都市については人口規模を厳格にコントロールする、②2020年までに1億人の農村部からの移住者を市民化させる、③住民カード制度を実施し、居住年数などの条件に基づき、公共サービスの提供をすべての住民が享受できるようにする、というものである。これらの目標はおおむね実現できたが、500万人以上の都市の戸籍取得をどう緩和していくのかが、今後の焦点となる。更なる戸籍改革は、労働力を農業部門から工業・サービス部門への移動を促すことを通じて国全体の生産性を向上させるためだけでなく、出稼ぎ農民への差別をなくし、中国が目指している「共同富裕」を実現するためにも必要である。

脚注
  1. ^ 2020年11月1日零時が基準となる。
  2. ^ 特に断りのない限り、本文で引用されるデータは中国国家統計局「第七回全国人口センサス公報」および同記者会見(いずれも2021年5月11日)による。
  3. ^ 総人口には、中国大陸31省・自治区・直轄市と現役軍人が含まれ、中国大陸在住の香港・マカオ両特別行政区・台湾地区の住民と外国人は含まない。
  4. ^ 少数民族に適用される産児制限が漢民族より緩いことを反映して、漢民族よりも少数民族の人口が増えている。2020年の漢民族の人口は12億8,631万人と、2010年と比べて4.9%増えたが、各少数民族の合計人口は1億2,547万人と、2010年より10.3%多かった。その結果、少数民族の総人口に占めるシェアは8.5%から、8.9%に上昇した。
  5. ^ 日本の人口置換水準は2.07(2015年)と推計される(厚生労働省政策統括官「平成29年我が国の人口動態」、2017年3月)が、中国の場合、出生性比が日本より遥かに高いため、人口置換水準はそれを大きく上回っていると見られる。
  6. ^ 蔡昉「両側から見る-人口高齢化は中国経済にどのような影響を与えるか」『比較』2021年第2期、2021年4月。
  7. ^ 省・直轄市・自治区に沿って分類すると、東部(10省・直轄市)は河北省、北京市、天津市、山東省、江蘇省、上海市、浙江省、福建省、広東省、海南省、東北部(3省)は遼寧省、黒竜江省、吉林省、中部(6省)は山西省、安徽省、江西省、河南省、湖北省、湖南省、西部(12省・直轄市・自治区)は、内モンゴル自治区、陜西省、寧夏回族自治区、甘肅省、新疆ウイグル自治区、チベット自治区、青海省、重慶市、四川省、雲南省、貴州省、広西チワン族自治区。また、南部(15の省・直轄市・自治区)は江蘇省、安徽省、湖南省、湖北省、四川省、雲南省、貴州省、広東省、広西チワン族自治区、福建省、江西省、浙江省、海南省、重慶市、上海市、北部はそれ以外の省・直轄市・自治区を指す。
  8. ^ 図表1の注2を参照。
  9. ^ 図表1の注2を参照。
  10. ^ https://www.mps.gov.cn/n2253534/n2253535/c7877332/content.html
  11. ^ 流動人口は、半年以上、戸籍が登録された郷・鎮・街とは異なる場所に居住している人口を指す。ただし、各市の区内で、戸籍登録地と居住地が異なる場合は対象外となる。
  12. ^ 2020年の中国における一世帯当たり人員は2.62人と、2010年の3.10人と比べて0.48人減少した。このことは、少子化と核家族化が進んでいることに加え、単身赴任の多い出稼ぎ農民を中心に流動人口が増えていることを反映している。
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2021年6月7日掲載