中国では、北京や上海などの一級都市を中心に、住宅価格が高騰し、バブルの様相を呈している。これに対して、政府は、住宅ローンと購入資格への制限強化など、抑制策を打ち出している。これを受けて、住宅市場は調整局面を迎えており、このことは、2017年の中国経済と一次産品価格を見通す上で、マイナス材料になりそうである。
中国では、2015年年央以来、株価の急落とは対照的に、住宅価格は急騰してきた。特に、一級都市において、上昇のペースは極めて速い。前年比の伸びで見ると、ピーク時には深圳では63.4%(2016年4月)、上海では39.5%(同9月)、北京では30.4%(同9月)に達した(図1)。住宅価格/世帯所得比から判断して、一部の都市では住宅価格はすでにバブルの域に達している。2015年の住宅価格/世帯所得比(世帯所得は年間値)は、深圳が27.7倍、上海が20.8倍、北京が18.1倍をはじめ、主要都市では高くなっている(図2)。これらは、1980年代後半のバブル期の東京の水準を上回っている。
住宅バブルの膨張を抑えるために、2016年に入ってから、北京、天津、深圳、広州、上海など主要都市では、住宅ローンと購入資格への制限が強化されてきた。2016年10月4日以降、深圳で実施されている政策はその典型である(深圳市政府「わが市の不動産市場の安定的かつ健康的発展をさらに推進することに関する若干の措置」、2016年10月4日)。
住宅ローン制限
- 購入世帯が住宅を所有しておらず、商業住宅ローン記録・積立金住宅ローン記録もない場合、初めて住宅を購入する際、頭金は30%以上。
- 購入世帯が住宅を所有しておらず、商業住宅ローン記録・積立金住宅ローン記録がある場合、住宅を購入する際、頭金は50%以上。
- 購入世帯が住宅をすでに1軒所有している場合、2軒目の住宅を購入する際、頭金は70%以上。
購入資格制限
- 深圳市戸籍世帯の場合、住宅の購入は2軒まで。
- 深圳市戸籍を有する独身成人(離婚者を含む)の場合、住宅の購入は1軒まで。
- 深圳市での5年以上の納税証明書若しくは社会保険納付証明書を提出できる非深圳市戸籍住民の場合、住宅の購入は1軒まで。
- それ以外の非深圳市戸籍住民の場合、購入禁止。
これらの政策が功を奏して、住宅市場は調整局面に入りつつある。すでに、住宅販売面積と一級都市の住宅販売価格の伸び(前年比)は、2016年4月にピークを打った後、鈍化している。住宅販売面積と一級都市の住宅販売価格は、住宅開発投資の有効な先行指標であり、両者とも伸び率が鈍化していることを受け、住宅開発投資の伸び率も2016年10月をピークに減速に転じている(図3)。
中国における住宅投資は、GDPの約1割を占めている上、変動が大きいことから、景気を大きく左右する。住宅開発投資の前年比の伸び率は、2015年の0.4%から2016年1〜11月には6.0%に上昇し、単純計算で、GDP成長率への寄与度も0.04%(0.4%×10%)から0.60%(6.0%×10%)に上昇した。しかし、2017年には、中国における住宅開発投資が減速すると予想され、それを受けて、成長率も低下していくだろう。
中国における住宅投資の変動は、主に鉄鋼とその関連産業への需要を通じて、一次産品の国際市況に大きな影響を与えている。実際、オーストラリア準備銀行が発表するRBA商品価格指数は、中国における住宅開発投資との連動性が高く、2016年には急回復した(図4)。しかし、2017年には、予想される中国における住宅開発投資の減速は、鉄鋼需要の鈍化を通じて、鉄鋼生産の川上に当たる鉄鉱石や石炭の価格を抑えるだろう。
住宅市場の調整の影響は国内外の実体経済にとどまらず、資金の流れにも及ぶだろう。中国では、資本移動が制限され、投資家にとって運用対象が限られていることから、資金は株価が低迷するときには住宅市場へ、逆に住宅市況が冴えないときには株式市場に戻るという傾向が見られる。今後、住宅価格の低下は資金の株式市場への回帰を促す形で、株価上昇のきっかけになるかに注目したい。