中国経済新論:実事求是

人口大国・中国の光と影

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

(『あらたにす』新聞案内人 2011年5月24日掲載)

2011年4月28日に、「中国の第六回全国人口センサス」の結果が発表された。10年前に行われた前回の調査と比べると、年齢構成や、学歴構造、人口移動など、中国の人口動態の変化が明らかになる。各省の域内総生産(GDP)統計を合わせて見ると、地域間の所得格差の実態も伺うことができる。

人口の基本的特徴

中国の2010年の人口(香港、マカオ、台湾を含まない)は13億3,972万人に上り、世界の人口の約2割を占めている。この数の多さが、時と場合によっては「潜在力」ともてはやされ、また、「脅威」と見なされるのである。1980年から導入された「一人っ子政策」の影響で少子化が進み、人口増加率(年率)は、1990-2000年の1.07%から、2000-2010年の0.57%に低下している。人口の流動化と核家族化の進行も加わり、一世帯当たりの人員数は10年前の3.44人から3.10人に減少している。中国の2010年の人口は次のような特徴を示している。

①男女別構成:男性51.27%、女性48.73%、人口性比:女性100人につき男性105.2人
人口性比からも分かるように、中国には「男尊女卑」という儒教の思想がいまだ生きているようである。男の子欲しさに二人目を産んだが、「一人っ子政策」違反となるため出生登録されない「無戸籍」の人口は総人口の1%に相当する1,300万人に達している。また、結婚適齢期を迎える男子が結婚相手を見つけるのは難しくなってきている。

②民族別構成:漢民族91.51%、少数民族8.49%
漢民族の割合は10年前と比べて0.08ポイント低下しているが、依然として圧倒的に高い。2008年にチベット、2009年に新疆ウイグル自治区で相次いで暴動が起こったことに象徴されるように、少数民族問題は、中国にとって、政治と社会の不安定要因になりかねない。

③年齢別構成:0-14歳16.60%、15-59歳70.14%、60歳以上13.26%
10年前と比べて、0-14歳の年少人口の割合は6.29ポイント低下しているのに対して、60歳以上の人口の割合は2.93ポイント上昇している。今後、高齢化が急速に進む一方で、これまで上昇してきた15-59歳の生産年齢人口の割合は逆に低下傾向に転じると予想される。高齢化は、一般的に先進国で見られる現象だが、中国は豊かにならないうちにこの段階を迎えるという厳しい試練に立ち向かわなければならない。高齢化社会の到来に備えて、社会保障制度の整備が急務となっている。また、生産年齢人口の割合の低下は、経済成長に有利な「人口ボーナス」が逆にそれに不利な「人口ペナルティ」に転換することを意味する。

④学歴別構成:大学以上8.93%、高校・専門14.03%、中学校38.79%、小学校26.78%、その他(未就学児含む)11.47%
近年、大学の入学定員が大幅に増えたことを受けて、大学以上の学歴を持っている人の割合は10年前(3.61%)の約2.5倍に上昇しており、高学歴化の傾向は、今後、いっそう顕著になるだろう。また、義務教育の普及により、非識字率(15歳以上の非識字人口の全人口に対する比率)は、2000年の6.72%から2010年には4.08%に低下している。全体的に見て、人的資本の質の向上は顕著である。

人口と所得の地理的分布

次に、人口の地理的分布の変化を見ると、人々がより豊かな生活を求めることを反映して、人口は、農村部から都市部へ、西部、中部、東北部から東部へと流れていることが確認できる。

①都市と農村別構成:都市部49.68%、農村部50.32%
都市部の人口の割合は10年前と比べて13.46ポイント上昇しており、それに伴う住宅やインフラ投資の拡大は、経済成長をけん引するエンジンとなっている。一方、農村部の人口は減っているとはいえ、まだ全体の半分を占めている。農民のことを理解できないと、本当の中国が理解できないと言われるほど、中国はいまだ巨大な農業国である。2010年の農村部の一人当たり純収入は都市部の一人当たり可処分所得の31.0%にとどまっており、この所得格差に象徴される三農(農業、農村、農民)問題の解決は、「調和の取れた社会」を目指す中国政府にとって、依然として最重要課題である。

②行政区別構成(人口の多い順):広東省7.79%、山東省7.15%、河南省7.02%
広東省の1億430万人をはじめ、この上位三省の人口はいずれも9,000万人を超えている。GDP規模では、広東省(全国の10.5%)、江蘇省(同9.5%)、山東省(同9.1%)という順になっているが、一人当たりGDPでは、東部の直轄市が上位を独占しており、上海市が最も高く(73,297元)、天津市(70,402元)、北京市(70,251元)が続いている。これに対して、最も低い西部の貴州省(13,221元)は上海の5分の1にも満たない。

③地域別構成:東部地域37.98%、中部地域26.76%、西部地域27.04%、東北地域8.22%
労働力の大規模な移動を反映して、人口が東部に集中している。これまでの10年間、全人口に占める東部地域の割合は2.41ポイント上昇しているのに対して、西部地域、中部地域、東北地域の割合はそれぞれ1.11ポイント、1.08ポイント、0.22ポイント低下している。域内の移動も含めると、居住地と戸籍が乖離する「流動人口」は2億6,139万人に達している。農村部から都市部への出稼ぎ労働者がその大半を占めており、彼らとその家族を都市部に定住させるために、戸籍制度の改革が欠かせない。

2010年の各地域の一人当たりGDPを比較してみると、東部は45,317元(1元=12.6円、57万円強)と最も高く、東北部(33,866元)、中部(23,950元)、西部(22,429元)という順になっており、東部と西部の間では、倍以上の開きがある。

都市部と農村部の間、各行政区の間、そして、東部と他の地域の間に存在する大きな所得格差は、人口移動の誘因になるが、その一方で、人口移動により、地域間の所得格差が是正されることが期待される。

2011年6月1日掲載

2011年6月1日掲載