中国経済新論:実事求是

外需の回復で二桁成長へ
― 杞憂に過ぎない下振れリスク ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

中国では、2008年9月のリーマン・ショックを受けて、輸出が大幅に落ち込み、景気減速を余儀なくされたが、政府によって素早く採られた拡張的財政・金融政策が功を奏する形で、先進国に先駆けて回復してきた。中国のGDP成長率(前年比)は昨年第1四半期の6.2%を底に上昇傾向に転じ、第2四半期には7.9%、第3四半期には9.1%、第4四半期の10.7%、今年の第1四半期には11.9%と、景気のV字型回復を示している。

当初、景気回復はインフラを中心とする投資と、民間消費といった内需によって牽引されたが、ここに来て輸出も持ち直してきている。2009年のGDP成長率は、政府が当初目指していた8%という目標をさらに上回る8.7%となったが、これを需要項目別の寄与度に分解すると、内需では、消費は4.6%、資本形成(投資)は8.0%といずれも前年の水準を上回っており、特に、2008年11月から実施されるようになった4兆元に上る景気対策の効果を反映して資本形成が高かった(図1)。その一方で、海外市場が低迷し、輸出が大幅に落ち込む中で、外需の寄与度は-3.9%となり、景気の足を引っ張った。これに対して、今年第1四半期の各需要項目のGDP成長率への寄与度は、資本形成が6.9%とやや低下したが、消費が6.2%と上昇したため、内需全体の寄与度は昨年を上回り、外需の寄与度も-1.2%と、マイナス幅が大幅に縮小している。

図1 需要項目別のGDP成長率(実質)への寄与度の推移
図1 需要項目別のGDP成長率(実質)への寄与度の推移
(注)2010年は第一四半期のみ。資本形成には在庫の増加(在庫投資)が含まれている。
(出所)中国国家統計局『中国統計摘要』2009、中国国家統計局サイトより作成

その中で、消費の寄与度が目立って高くなっている。消費の堅調さは社会消費財小売売り上げの推移で見ても確認できる。ただし、ここでは、金額(名目)ベースではなく、物価の変化(インフレ)を除いた実質ベースで見るべきである(図2)。確かに名目ベースで見ると、小売売り上げの伸び率は、2008年の第3四半期の23.2%をピークに低下している(2010年第1四半期には17.9%)が、これは主に、インフレ率の低下を反映したもので、実質ベースで見ると、リーマン・ショック以降の小売売り上げの伸びはむしろ加速している。日本の一部のマスコミでは、金額ベース小売売り上げの伸びが鈍化していることを理由に、中国における消費が弱く、景気回復の妨げとなっていると論じているが、これは事実誤認に他ならない。

図2 社会消費財小売売上:名目Vs実質
図2 社会消費財小売売上:名目Vs実質
(出所)中国国家統計局より作成

内需のもう一つの項目である資本形成の成長率への寄与度が今年の第1四半期にやや低下していることは、4兆元に上る景気対策の効果が薄れてきたことを示している。同対策は2010年末まで実施される予定だが、昨年の公共投資の規模が大きかったため、伸びの鈍化は避けられない。幸い、景気回復とともに、民間投資が今後増えると予想され、投資全体の下支えとなろう。

外需では、リーマン・ショックを受けて大幅に落ち込んだ輸出は、ドルベースで見て、昨年の第4四半期に前年の水準を上回るようになり、今年の第1四半期には伸び率が前年比28.7%に加速している(図3)。一方、今年の第1四半期の輸入の伸びは、昨年第4四半期の22.3%をさらに上回り、64.7%となった。中国では、加工貿易の割合が高く、輸出を増やすためには、まず部品や中間財などを海外から輸入しなければならないため、輸入は輸出より約1四半期リードする先行指標となっている。第1四半期の輸入が急増していることは、第2四半期の輸出の伸びがさらに高まってくる可能性を示唆している。

図3 回復に向かう輸出入
図3 回復に向かう輸出入
(出所)中国国家統計局より作成

今年3月に開催された全国人民代表大会とその後の記者会見において、温家宝総理は、世界経済が二番底に陥る可能性に言及し、中国の成長目標を8%に据え置くなど、景気について極めて慎重な見通しを示した。しかし、実際、IMFなどの国際機関が相次いで主要国の成長率の見通しを上方修正したように、世界経済は危機の状態から脱し、着々と回復に向かっている。中国においても、内需に加え、外需が成長のもう一つのエンジンなることで、2010年の成長率は年間の数字として3年ぶりに二桁台に乗る可能性が高い。

景気の急回復を受けて、インフレ圧力の上昇と不動産価格の高騰など、過熱の兆候が顕著になってきた。これに対して、当局は金融政策のスタンスを引き締めに転換しつつあり、中でも不動産関連融資の抑制に乗り出した。このような適切な政策が実施されることにより、中国経済は安定成長に向けて軟着陸するだろう。

2010年4月28日掲載

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