2008年9月のリーマンショック以降、中国当局は、景気対策の一環として、利下げや、銀行融資に対する総量規制の撤廃など、思い切った金融緩和策を実施した。その結果、2009年に入ってから、マネーサプライと銀行の貸出が急増した。「超」金融緩和策は、2008年11月に打ち出された4兆元に上る内需拡大策とともに、景気回復と株価の上昇を促している。
しかし、その一方で、貸出の急増に伴って不良債権が増加するリスクが高まっており、これを防ぐために、今年の夏以降、それまでの「超」金融緩和策が見直され始めている。これを受けて株価が一時急落したが、現在のインフレ率はまだマイナスとなっており、当面、本格的引締め策が採られる可能性は極めて低いことから、景気回復とともに、金融相場から業績相場へ移行するという形で、株価は上昇するだろう。
本格化する景気回復
中国の実質経済成長率(前年比)は、今年の第1四半期に6.1%と底を打ち、第2四半期は7.9%、第3四半期には8.9%まで回復している。外需が落ち込んでいるものの、投資と消費といった内需の項目が堅調に推移している。1-9月期では、全社会固定資産投資(名目)は前年比33.4%伸び、中でも、鉄道運輸業の伸びは同87.5%に達している。小売売り上げ(名目)も前年比15.1%上昇している。インフレ率がマイナスである(1-9月期には前年比-1.1%)ことを合わせて考えれば、実質ベースの小売売り上げの伸びは17.0%と、名目の伸びよりさらに高くなっている。
今年の第1四半期から第3四半期までの平均成長率は7.7%となっているが、次の理由から、第4四半期の成長率は9%台に乗り、通年では中国政府が目指している8%という目標が達成できる可能性は極めて高い。まず、比較の対象となる昨年の第4四半期の成長率はリーマンショックを受けて6.8%に減速しており、ベースが低い分だけ、今年の第4四半期には高い数値が出やすい。また、9月の工業生産(付加価値ベース)の伸びは13.9%と、第3四半期全体の12.4%を上回っており、この差の分は第4四半期の工業生産、ひいてはGDPを押し上げる要因となる。さらに、輸出の先行指数となる輸入は、今年の9月に前年比-3.5%と、8月の-17.0%と比べてマイナス幅が大きく縮小しており、輸出は今後回復に向かうことを示唆している。
現在の中国における景気回復はまだ初期段階にある。来年、世界経済の成長率がマイナスからプラスに転じると予想されることを合わせて考えれば、中国の成長率は今年を上回る9%に達するだろう。
金融・為替政策の出口戦略への模索
景気回復が本格化する中で、今年の夏以降、貸出の前月比の増加分が縮小してきていることに象徴されるように、これまで採ってきた「超」金融緩和策の「出口戦略」への模索が始まっている(図1)。これを受けて、株価が8月に一時調整局面に入ったが、貸出の急増を放任すると、将来不良債権問題の深刻化が避けられないことを考えれば、当局が採った措置は成長を維持させるために必要であると評価すべきである。
もっとも、「超」金融緩和策が見直されつつあるとはいえ、9月の貸出は、前年比で見て、依然として34.2%という高い伸びを見せている。本格的金融引締め策がいつ採られるかが注目されているが、これまでの経験から判断して、消費者物価(CPI)の上昇率が4%を超えることは、一つの目安となる。現在のインフレ率がまだマイナスの水準にとどまっていることに加え、インフレは成長率より約3四半期遅れて動くことから判断して、その時期は早くとも来年の後半になるだろう(図2)。
金融政策に加え、これまで採られてきた対ドル安定という為替政策も、やがて見直されるであろう。中国は、2005年7月にドルペッグ制から管理変動制に移ったが、2008年夏以降、人民元の対ドルレートが6.85元前後で安定しているように、危機対応の一環として実質上ドルペッグ制にもどっている。1997-98年のアジア通貨危機の時に、人民元が強い切り下げ圧力にさらされながらも、当局は対ドル安定の政策を堅持し、危機を乗り越えた。この成功体験は、今回の米国発の金融危機においても活かされている。しかし、景気回復とともに、インフレの上昇が予想され、世界的金融危機が収まれば、2007年頃のように、当局は再びインフレを抑えるために人民元の対ドル上昇を容認せざるを得ないであろう。実際、このような認識が市場でも広がりつつあり、これを反映して、最近、人民元の先物に当たるNDF(一年物)レートの現物レートに対するプレミアムが拡大してきている(図3)。
―現物Vs.先物(NDF)―
依然として上昇する余地の大きい株価
上海総合指数は8月の調整局面を経て、10月中旬に再び3000ポイント台に回復しており、昨年11月の安値と比べて70%以上上昇している。こうした中で、「中国の株価はすでにバブルの域に達しており、バブルが崩壊するのではないか」という懸念の声が聞こえてくる。
現在の上海市場の株価が割高かどうかを判断する際、株価収益率(PER)とAHプレミアム指数が目安となる(図4)。
まず、現在の上海市場のA株PERは25倍前後と、バブルの絶頂期であった2007年10月の70倍超を大きく下回っている。中国は新興国であり成長性が先進国と比べて遥かに高いことを合わせて考えれば、現在の株価水準は企業収益の割には決して高いとは言えない。
また、59の銘柄が上海市場(A株)と香港市場(H株)で同時に上場しているが、中国本土では非居住者による証券投資を制限するなど、資本規制が敷かれているため、両市場での株価は必ずしも一致していない。H株市場はファンダメンタルズを重視する海外の機関投資家が主体となっているのに対して、A株市場は中国国内の個人投資家が主体となっており、H株市場と比べて、投機性が強い。バブルの絶頂期にA株のH株に対する相対価格を示すAHプレミアム指数は一時200%を超えたが、現在120%まで縮小しており、A株の割高感は大幅に解消されている。
今後の株価の行方を考えるときに、景気回復の持続性と当局の金融政策のスタンスがカギとなる。2009年の成長率が9%程度に達し、本格的引締め策は来年後半まで実施されないというわれわれの予想を前提にすれば、低金利、低インフレ、景気回復という株価上昇に有利な環境は当面続くだろう。
2009年10月30日掲載