中国経済新論:実事求是

本格的に回復に向かう中国経済
― 資産バブル化とインフレの懸念も ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

中国の景気は、昨年9月のリーマンショック以降に打ち出された内需拡大策が功を奏する形で、先進国に先駆けて回復に向かっている。金融緩和に伴う流動性の膨張も加わり、早くも資産価格のバブル化とインフレの高騰を警戒する声が聞こえてくる。

内需主導で景気回復へ

中国では、外需が依然として低迷しているが、堅調な内需に牽引され、景気回復が鮮明になってきた。今年第2四半期の成長率は前年比7.9%と、第1四半期の同6.1%を大幅に上回っている。中でも、工業生産(付加価値ベース、一定の規模以上の企業のみを対象)の伸び(前年比)は、第2四半期には9.1%と、第1四半期(5.1%)を大幅に上回っているだけでなく、4月には7.3%、5月には8.9%、6月には10.7%と、月を追って加速している。

外需については、世界経済の減速を受けて、輸出が大幅に落ち込んでいる。上半期の輸出は前年比21.8%減、輸入は同25.4%減となった。もっとも、6月の輸出は21.4%減、輸入は13.2%減と、5月に比べ、輸出は5ポイント、輸入は12ポイントほどそれぞれ下げ幅が縮小しており、好転の兆しが見え始めている。

一方、消費と投資からなる内需は引き続き堅調である。

まず、消費では、上半期の社会消費財小売総額は前年比15.0%増で、価格変動要因を除いた実質伸び率は16.6%と加速している。中でも住宅(前年比31.7%)と自動車販売(同17.7%)が好調で、消費全体を牽引している。

一方、投資については、昨年11月に発表された4兆元に上る公共投資を中心とする景気対策の実施を受けて、上半期の都市部の固定資産投資(名目)が前年比33.6%と高くなっている(全国の固定資産投資は同33.5%)。そのうち、インフラが前年比57.4%、中でも鉄道が同126.5%と、最も高い伸びを示しており、また、景気対策の恩恵を大きく受けている中部(同38.1%)と西部(同42.1%)の伸びが東部(同26.7%)を大きく上回っている。

これを反映して、上半期の経済成長率(7.1%)のうち、外需(純輸出)の寄与度は-2.9%であるのに対して、消費は3.8%、投資(資本形成)は6.2%と高くなっている(図1)。本来、(GDPの固定資本形成の概念に近い)固定資産投資の伸びと投資の対GDP比(41.1%、2008年実績)から判断して、投資のGDP成長への寄与度はもっと高いはずであるが、在庫の減少がそれを大幅に押し下げたと見られる。実際、昨年11月以来、主要産業の在庫の伸びが大幅に落ち込んでおり、この傾向は今年の5月まで続いている(図2)。

図1 対照的となる外需と内需
―主要需要項目のGDP成長率(実質)への寄与度の推移―

図1 対照的となる外需と内需
(注)2009年は上半期のみ。資本形成には在庫の増加(在庫投資)が含まれている。
(出所)『中国統計摘要』2009、国家統計局「2009上半期経済運行情況記者発表会」(2009年7月16日)より作成
図2 進む在庫調整
―主要産業における在庫水準の推移―

図2 進む在庫調整
(出所)中国国家統計局より作成

今後、消費と公共投資が引き続き堅調であることに加え、外需が幾分持ち直すとともに、在庫調整が終了することを受けて、景気は一段と好転するだろう。下半期の成長率は9%を超えると予想され、年間では政府が目標としている8%成長の達成は可能であると思われる。

物価に先行して上昇する資産価格

昨年9月以降、世界的金融危機を乗り越えるために、中国政府は、素早く拡張的財政政策とともに、利下げや、預金準備率の引き下げ、そして融資への総量規制の撤廃など、思い切った金融緩和を行ってきた。これを受けて、マネーサプライ(M2)と人民元貸出の伸びは加速しており、今年の6月にはそれぞれ前年比28.5%と34.4%に達している。これらは、中国経済が二桁成長を謳歌し、景気が過熱していた2003年~2007年当時よりも高い伸びである。

景気回復に加え、流動性の膨張を背景に、資産価格が高騰している。まず、株式市場では、昨年11月の初めに一時1700ポイント前後まで急落した上海総合指数は今年7月23日現在3300ポイントを超える水準まで上昇している。一時、調整局面に入った不動産市況も、持ち直している。70の大中都市の住宅販売価格は、2008年8月から7ヵ月連続して前月の水準を割ったが、2009年3月以降、上昇傾向に転じ、6月には前月比0.8%(年率換算では10.0%)と、勢いが増している(図3)。

図3 急回復に向う不動産市況
―70大中都市住宅価格の推移―

図3 急回復に向う不動産市況
(出所)中国国家統計局より作成

一方、6月の消費者物価指数(CPI)は前年比-1.7%と、今年の2月以来マイナスの状況が続いている。6月の生産者物価指数も前年比-7.8%と落ち込んでおり、いまのところインフレの気配は見られない。しかし、中国ではインフレ率(前年比)は成長率(同)より3四半期遅れて動くことが観測されており、今年の第2四半期の成長率が上向き始めたことを受けて、インフレ率も来年の第1四半期に上昇に転じると予想される(図4)。

図4 GDP成長率とインフレ率の相関関係
図4 GDP成長率とインフレ率の相関関係
(注)推計結果
推計期間 1998年Q1~2009年Q2
(出所)中国国家統計局データに基づき作成・推計

安定成長を持続させるためには、資産バブルの膨張とインフレの高騰を防がなければならない。当局としては、早い段階からこれまでの「超」金融緩和を見直し、「出口戦略」の検討に着手すべきである。

2009年7月31日掲載

2009年7月31日掲載