舵取りが困難となるマクロ経済政策の運営
2008年は、中国の台頭を象徴する北京オリンピックの開催の年として歴史に刻まれるだろう。しかし、対外収支黒字の拡大とそれに伴う流動性の膨張は収まる気配を見せず、マクロ経済の運営はむしろますます困難な局面に差し掛かっている。
2007年の経済成長率は2003年以来五年間連続して二桁台に達すると見られる。その一方で、株や不動産といった資産価格はバブルの域に達しており、インフレ圧力も高まっている。こうした中で、当局はある程度の成長率の低下を覚悟しながらも、金融政策の引き締めを一段と強め、また人民元の切り上げの加速を容認するようになった(図1)。このような傾向は今後いっそう鮮明になるだろう。
注目されるインフレと資産バブルの行方
中国では、近年、人民元の上昇を抑えるための為替市場への介入が、マネーサプライの急拡大、ひいては流動性の膨張をもたらしている。これを背景に、不動産価格と株価をはじめとする資産価格が高騰した。特に、株式市場では、非流通株改革の進展も加わり、上海総合指数は、第17回中国共産党大会が開幕した2007年10月15日に6000ポイントを突破し、2年あまりで6倍となった。その後、サブプライムローン問題に端を発した世界経済の減速懸念や、ペトロチャイナをはじめとする、上海市場での相次ぐ大型IPO(新規上場)を背景に、株価は調整局面に入っているが、現在の株価は、株価収益率(PER)が依然として50倍を超えており、割高感がまだ払拭されていない(図2)。その上、2009年以降に、国が保有している大量の「非流通株」の市場への売却が解禁されることによる需給関係の悪化懸念も加わり、株価の更なる下落のリスクを見ておく必要がある。
一方、流動性の膨張を背景に、インフレも加速している。2007年11月のCPI(消費者物価指数)の上昇は前年比6.9%と、11年ぶりの高い水準となっている。現段階では、インフレの大部分は食料品価格の上昇によるものだが、今後、石油価格の上昇の影響や、インフレ期待を反映した賃金上昇が、さらにインフレを押し上げるだろう。天安門事件が起きた1989年のように、インフレの高騰は社会を不安定化させる要因になりかねないだけに、それを抑えることは当面のマクロ経済政策の最優先課題となる。そのために、当局は、金利を引き上げるなど、金融引き締めのスタンスを強めながら、市場への介入を控え、人民元の上昇のペースを速めている。予想される世界経済の減速も加わり、2008年8月のオリンピック開幕を待たずに、中国経済は、景気の転換点を迎える可能性が高い。
迫られる景気調整
1964年の東京オリンピック時の日本のように、中国も2008年の北京オリンピックに向けて関連事業に集中的に投資したので、開催後その反動で景気が悪くなるという見方が多い。確かに今の中国の発展段階はちょうど、東京オリンピック頃の日本に対応すると見られるが、中国の人口は日本の約10倍であるということを考慮すると、今の中国の経済規模は、東京オリンピックの頃の日本の10倍ぐらいはあると理解してよい。したがって、オリンピック後については、オリンピック関連の投資がなくなることで、北京周辺の地域においては若干の調整は必要になるかもしれないが、国全体で成長率が何パーセントも押し下げられるほどの規模にはならない。
むしろ、インフレの高騰とバブルの崩壊が、より懸念される材料となる。本来、当局はもっと早い段階に人民元の切り上げを始めとする流動性対策を徹底させなければならないのに、無理して調整をオリンピック後まで引き延ばそうとした。それ故に、より大幅な調整が予想される。
もっとも、中国は、発展段階の面では先進国との格差が依然として大きいため、後発性のメリットを発揮できれば、当面10%に近い潜在成長率を維持することができるはずである。たとえバブルがはじけても、そのまま高度成長期の終焉を迎えるのではなく、東京オリンピック後の日本のように、比較的短期間の調整期を経て、再び回復に向かうだろう(図3)。
2007年12月26日掲載