中国経済新論:実事求是

大型中国企業の新規上場で飛躍する香港の株式市場

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

近年、多くの中国企業が、海外上場を目指している。その狙いは、投資拡大のための資金調達に加え、(1)国際市場における企業のイメージを向上し、販路を拡張する、(2)海外証券市場の厳しい監督・管理を通じて、コーポレート・ガバナンスを整備し、企業の競争力を高める、(3)直接的・間接的に海外企業の経営管理ノウハウを学ぶことである。このようなニーズに対して、世界の各主要市場の間で中国企業を誘致する動きが活発化しているが、香港は、中国の大手銀行の相次ぐ上場に象徴されるように、この競争において優位に立っている。

香港は、地の利を活かして、中国企業に重点的に投資する多くの機関投資家の拠点となっており、言葉を含めて中国のことを熟知している人材も豊富である。他の市場と比べ、香港で上場している中国企業は、数と規模の面において遥かに大きく、これを反映して、市場の流動性が高く、中国企業の株が活発に取引されている。また、香港は、資本規制がなく、利子やキャピタル・ゲインに対する課税のない国際金融センターとして、世界中から資金が集まってくることも、中国企業にとって、非常に魅力的である。

香港で上場している中国企業は、「H株企業」(中国本土で登録し、中国の政府機関または個人に支配される)、「レッドチップ企業」(海外で登録し、中国の政府機関に支配される)、そして、「H株以外の中国民間企業」(海外で登録し、中国の個人に支配される)の三つに分類される。2006年末現在、その数は、H株企業が141社、レッドチップ企業が90社、H株以外の中国民間企業が136社の計367社に上っている。この数は、メインボード(主要市場)に加え、ベンチャー企業に資本調達の場を提供することを目的とし、1999年に創設されたGEM(Growth Enterprise Market、中国語では「創業版」)に上場している企業を含んでいる(ただし、GEMは市場規模がまだ小さく、時価総額はメインボードの1%未満である)。

2006年に香港取引所での株による資金調達額は、674億米ドル(そのうち企業の新規上場(IPO)による分は429億米ドル、増資の分は245億米ドル)に達している。これは、ニューヨーク(1032億米ドル)とロンドン(952億米ドル)に次いで世界三番目、IPOに限れば、ニューヨークをも抜いてロンドンに次ぐ二番目の規模となっている(表1)。その主役となった中国企業による資金調達の規模は、全体の70%に達している。1993年7月に中国企業の香港上場第1号として青島ビールが上場してから2006年末までの累計で、1886億米ドルに上っている。

実際、最近話題になっている中国工商銀行(2006年10月)、中国銀行(2006年6月)、中国建設銀行(2005年10月)といった世界的にも大型のIPOをはじめ、これまでの香港市場で行われたIPOのトップテン(資金規模順)は、すべて本土の企業である(表2)。中でも、中国工商銀行は香港でのH株と上海でのA株として同時上場した際、調達金額は計219億米ドル(うち香港は160億米ドル、上海は59億米ドル)に上り、1998年のNTTドコモの181億米ドルを抜いて、世界最大規模となった。

表1 2006年における主要市場での資金調達
表1 2006年における主要市場での資金調達
(出所)World Federation of Exchanges
表2 これまでの香港市場でのIPOトップテン
表2 これまでの香港市場でのIPOトップテン
(注)金額は1米ドル=7.8香港ドルにより換算。
(出所)香港取引所

中国企業を中心とするIPOや既上場企業の増資による株の発行量の拡大に、株価の高騰(ハンセン指数が2006年末に前年比34.2%上昇)も加わり、香港の株式市場の規模が急成長している(図1)。香港取引所の2006年末の時価総額は前年比62.6%増の1兆7150億米ドルに達し、そのうち、中国企業のシェアは約半分である。その結果、香港は、ドイツとトロントを抜いて、世界第六位の証券市場となった(表3)。中国の経済発展という特急列車に乗った香港市場の規模が、ニューヨーク、東京、そしてロンドンに並ぶ日は、もはや遠くない。

図1 香港市場の時価総額の拡大に寄与する中国企業
図1 香港市場の時価総額の拡大に寄与する中国企業
(注)年末値。メインボードとGEMを含む。
(出所)HKEx Fact Book 2006より作成。
表3 世界株式市場の時価総額トップテン
表3 世界株式市場の時価総額トップテン
(出所)World Federation of Exchanges, 2006 Market Highlights.

2007年3月30日掲載

2007年3月30日掲載