中国経済新論:実事求是

緩やかな調整局面に向かう2007年の中国経済

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

2006年の中国経済は、好調を続け、経済成長率が10.4%と4年連続で二桁台に乗ると見られる。これまでの高成長は、供給面では投資を中心とする投入の拡大、また需要面では、投資に加え、輸出に頼っているが、生産能力の過剰と対外貿易摩擦が激化する中で、景気が調整局面に差し掛かっている。

2003年以来の投資ブームを受けて、鉄鋼をはじめ多くの業種において生産能力の過剰が顕著になっている。これは、物価の上昇を押さえる面もあるが、加工型の業種では、石油などの原材料価格の上昇を産出価格に転嫁できないため、収益が悪化し、新規投資を控えなければならない。その一方で、国内の生産が国内の需要を上回っているため、中国企業による輸出ドライブは、貿易黒字の拡大を通じて、貿易摩擦の激化と人民元の切り上げ圧力をもたらしている。

生産能力の過剰に対して、政府は、新規投資を抑える政策を相次いで打ち出している。まず、金融政策の面では、2006年に貸出の基準金利が二回にわたって計0.54%引き上げられた上、また、法定預金準備率も三回にわたって計1.5%ポイント引上げられた。それに加えて、中央政府が、地方に調査チームを派遣し、産業政策に沿わず、また土地の譲渡を巡って不正があったとされる投資プロジェクトに対して、厳しい取り締まりを行っている。こうした中で、2006年9月に上海市の社会保険基金の資金流用事件に関与したとして市のトップである市党委員会書記の陳良宇が解任されたが、中央の経済引き締め政策などに抵抗する地方の指導者に対する見せしめという狙いもあると見られる。こうした政策の効果は、投資プロジェクトの着工数が落ち込むなど、2006年の後半にかけて現れ始めている。

12月上旬に開催された「中央経済工作会議」では、成長のスピードよりもその質の改善に重点を置くという2007年の経済政策の方針が打ち出されている。内外の不均衡を是正するために、まず、需要面では、(1)投資の増加を合理的に抑制し、投資構造の調整に向けて努力すること、(2)また民間消費、とりわけ農民の消費拡大に重点を置き、国民収入分配制度の調整を速め、農村と都市低所得者層の収入水準と消費力の向上に向けて努力すること、(3)輸入を積極的に拡大し、国外での投資協力(対外直接投資)を積極的に拡大することを目指す。その一方で、供給面では、すでに第11次五ヵ年年計画(規画)に盛り込まれている(1)科学的発展観を全面的に実行すること、(2)調和の取れた社会の構築を速めること、(3)経済構造の調整と経済成長モデルの転換に力を入れること、(4)資源の節約と環境保護に力を入れること、(5)改革開放と自主革新の推進に力を入れることなどが再度、強調されている。

2007年秋に、中国共産党の全国代表大会(第17回)が五年ぶりに開催される予定である。中央に限らず、地方においても人事の季節を迎える。従来であれば、所管地域における経済成長率と外資導入の実績が、地方幹部の昇進の最も重要な評価基準になるため、党大会の年には、投資ブームが起こる傾向が強い。しかし、今回、「中央経済工作会議」が示した方針に従って、人事評価の基準も成長の「量」から「質」に変わってきていることから、投資の抑制効果が期待される。

一方、米国経済をはじめ、世界経済も緩やかに減速すると予想される。人民元の切り上げの加速を合わせて考えれば、これまで好調な輸出も鈍化せざるを得ないだろう。投資と輸出の減速が見込まれる中で、民間消費の急拡大も期待できず、2007年の成長率は、8%台に低下するものと見られる。

2006年12月27日掲載

2006年12月27日掲載