中国経済新論:実事求是

迫られる外資と内資企業の所得税率の一本化

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

中国は、外資導入をテコに経済発展を加速させるために、税制面をはじめ、外資企業に多くの優遇策を講じてきた。しかし、内外環境の変化により、内資と外資企業に適用する所得税率の一本化の機が熟している。

中国では、内資企業は「企業所得税暫行条例」、外資企業は「外商投資企業所得税法」に従い納税する。この二つの法律の税率は同じく33%であるが、外資企業、内資企業にそれぞれ適用される優遇政策により実際の税率は異なってくる。内資企業の税率が一律33%であるのに対し、特定の地域(沿海経済開放区、経済特区、経済技術開発区など)、または業種(インフラ、ハイテクなど)に投資する外資企業の場合、15%または24%の優遇政策が適用される。また、条件さえ合えば、外資は「二免三減」(最初に利益を計上した年度から1年及び2年目は免税、3年から5年目は半額免除)などの優遇措置を享受することができる。実際、中国に進出している外資企業のほとんどが何らかの形で優遇税制の恩恵を受けている。

このような優遇税政策は、改革開放当初の投資環境あまり良くなかった頃には、外資を誘致するためにやむ得ない選択であったが、市場経済化が進むにつれて、その弊害も顕在化してきている。

まず、税制面において外資を優遇することは、逆に内資企業を差別することを意味し、公平性という市場経済の大原則に違反している。外資より高い税金を払わなければならない内資企業は、競争において不利な立場にあり、発展の可能性が制約されることになる。特に、WTO加盟を経て、外国企業に課せられていた金融などサービス業種への参入規制や、輸出義務、現地調達の最低比率、外貨バランスの要求といった従来の差別待遇が撤廃されながら、税制面では優遇され続けることに対して、内資企業の間では不満が高まっている。

また、巨額に上る外資の流入とそれに伴う輸出の増大は、国際収支黒字を拡大させ、諸外国との貿易摩擦と人民元の切り上げ圧力をもたらしている。そもそも、改革開放初期に大量に外資を導入したのは、国内の資金不足を補うためであったが、現在では、中国は世界一の外貨準備保有国となり、外資を受け入れる狙いは、先進的技術と経営ノウハウの導入に変わってきている。それに合わせて、税制をはじめとする外資政策の重点も「量の拡大」より「質の向上」に移っている。

さらに、外資への優遇税制を享受するために、多くの中国企業が、香港など海外でペーパー・カンパニーを設立し、外資に成りすまして対中投資するようになる。実際、直接投資の流入の中で、このような「迂回投資」のウェイトは相当高いと見られる。このように、外資への優遇税制は内外資の間の不平等だけでなく、内資同士の間の不平等をももたらしている。

30年近くの改革開放を経て、道路、交通、電力といったインフラ設備をはじめ、中国の投資環境が改善され、巨大な市場としても注目されるようになった。こうした中で、内資企業と外資企業に適用する税率を一本化する環境が整いつつある。直接投資の急減を懸念する商務部と地方政府の反対が依然として強いが、財政部の主導で法律の改正に向けて作業が進んでいる。

現段階では、外資への優遇税率をなくし、所得税の税率を25%前後に一本化する案が有力である。2007年の人民代表大会で法案が提出・審議され、2008年に実施される見通しである。既存の外資企業に対して5年間の過渡期間を与え、この間に支払った増税分を還付する方法などが検討されている。

内外資企業の所得税率が一本化されてからも、優遇税制自体がなくなるわけではないが、地域間の均衡発展と産業の高度化の配慮から、優遇の対象は、従来の沿海地域と外資企業から、内陸地域とハイテク産業にシフトしていくことになる。日本企業が中国ビジネスを展開する際、このような税制の変更を織り込んで戦略を立てなければならない。

2006年5月29日掲載

2006年5月29日掲載