中国経済新論:実事求是

本格化する外資の国有銀行への資本参加
― 根拠の乏しい「安売論」 ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

中国は銀行改革の切り札として、公的資金を導入し、不良債権を処理した上、四大国有商業銀行を株式制銀行に転換し、海外市場に上場させる計画を進めている。その一環として、海外から戦略的投資家を誘致して経営の効率化を図ろうとしている。一方、外国の金融機関も、四大銀行との資本提携を通じて、中国市場への参入を目指しており、四大銀行に対する出資が相次いでいる。

具体的に、2005年6月には、米国のバンク・オブ・アメリカが中国建設銀行に30億ドルを出資し、10%程度の株式を取得すると発表した。その後、英国の王立スコットランド銀行がメリルリンチ証券や香港の実業家李嘉誠氏と組んで、31億ドルを投じて、中国銀行の株式10%を取得すると発表された。さらに、米国のゴールドマンサックス、ドイツの保険大手アリアンツ、そして米国のアメリカン・エクスプレスは共同で37.8億ドルを出資し、中国工商銀行の株式10%を取得すると発表している。邦銀では、今年1月に、誕生まもない三菱東京UFJ銀行が、中国銀行に資本参加するために中国当局と具体的な交渉していると発表している。

しかし、中国における世論の大勢は外資導入の必要性を認めながらも、国有銀行の外資への株譲渡が国有資産の安売りに当たるのではないかという批判的論調が一部で見られる。「安売論」の根拠として、国有銀行の収益と比べて譲渡価格が割安になっていることが挙げられている。例えば、中国工商銀行の場合、2004年営業利益は747億元であったが、現在のレートで換算すると約90億ドルである。30億ドルで工商銀行の株式10%を取得することは、外資系金融機関にとって4年以内に投資金額を回収できることを意味している。工商銀行が上場した後の株価の予想される上昇を合わせて考えれば、外資にとって、収益率はさらに高くなる。また、これまで政府が四大銀行に対して、不良債権の処理や資本注入のために、すでに多くの公的資金を使ってきたことを考慮すると、外資への「安売り」は、まさに国有資産の流失に当たるという。さらに、国内の投資機関が今回の資本参加から除外されたことが、市場経済の前提である公平性に反するという指摘もある。

このような「安売論」に対して、当局や経済学者の間からは、次のような反論がなされている。まず、戦略的投資家から出資を受け入れる際、その目的は主に相手から経営ノウハウを吸収し、銀行の国際競争力を向上させることにあるため、どうしても国内投資家より先進的技術と豊富な経験を持つ外資金融機関を優先させざるを得ない。また、出資側から見ても、四大銀行の不良債権比率が再び上昇しないかなど、資本参加に伴うリスクが高く、これに見合う収益が見込まれなければ、最初から興味を示さないだろう。さらに、戦略的投資家には長期的協力、3年間の株売却禁止、役員派遣義務など、厳格な規定が設けられていることから、外資による投機的投資が防げたはずであるという。

外資導入の成否は、最終的には、これにより国有銀行の経営が改善され株価が上昇するかによって評価されるべきである。こうした基準から、四大銀行に先駆けて外資の資本参加を経て海外上場を果たした中国第五位の国有商業銀行である交通銀行は成功例だと言えよう。交通銀行は、2004年にHSBCの19.9%の出資を受け入れ、2005年6月にH株として香港に上場した。交通銀行の蒋超良董事長は外国資本導入後の交通銀行における変化を、(1)現代的経営理念が浸透し始めたこと、(2)コーポレート・ガバナンスが規範化されつつあること、(3)内部の体制構造が急速に好転していること、(4)競争力が明らかに高まったこと、(5)パートナーであるHSBCとの協力は深化していることにまとめている。これらに伴う業績の改善を背景に、交通銀行の株価は、上場時の初値が公募価格を13%上回り、2006月1月下旬現在、累計で70%ほど高騰している。

交通銀行だけでなく、2005年10月に同じH株として香港に上場した建設銀行も、株価が堅調に推移している。改革の配当としての株価の上昇は、外資以上に、保有率のもっとも高い国有株主に大きな利益をもたらしている。このように、国有銀行と外資系金融機関の資本提携は、双方にとってウィン・ウィンの戦略である。

表 外国資本の中国の四大国有商業銀行への出資状況(2006年1月現在)
表 外国資本の中国の四大国有商業銀行への出資状況
(出所)各種報道より作成

2006年2月15日掲載

2006年2月15日掲載