中国経済新論:実事求是

2006年の中国経済展望
― デフレと人民元切り上げ圧力の共存 ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

中国では、2005年の成長率が9.4%に達すると見られ、相変わらず高成長が続いている。しかし、原材料の価格急騰と生産過剰による企業収益の低下や、不動産と株の価格の低下、貿易摩擦の激化などを背景に、2006年の中国経済は減速局面に入り、成長率も8%を下回るだろう。一方、中国の対外不均衡が拡大し、外貨準備が増え続ける中で、人民元への切り上げ圧力はいっそう高まるだろう。

原材料価格の急騰と生産過剰により、加工や消費財部門における企業の収益が悪化している。投入価格が上昇しているにもかかわらず、消費財価格は落ち着いており、投入価格の上昇が産出価格に転嫁されていない。これは、2003年以降の投資ブームの結果、鉄鋼・セメント・非鉄金属など、多くの業種において、生産能力の過剰が顕在化していることを背景としている。在庫が増えている中で、これらの製品の価格は上昇するどころか、むしろ急落している。企業は経営環境の急速な悪化に直面して、生産と投資を控えなければならないだろう。

不動産バブルの退治を目指して、2005年春から当局は、住宅ローン金利の引き上げ、不動産売買に関連する課税措置の強化など、一連の政策を相次いで導入した。これを受けて、上海をはじめ、主要都市では不動産市況が調整局面を迎えている。一方、非流通株放出計画の実施をきっかけに株価も2001年6月のピーク時の半値近辺で低迷している。資産価格の低下は、消費に水を差すことになろう。

一方、中国の貿易黒字が膨らむ中で、貿易摩擦が激化しており、中国を取り巻く輸出環境も厳しくなっている。実際、中国の輸入(ドルベース)の伸びは、輸出のそれを大幅に下回っている。2005年1~11月では、輸出が前年比で29.7%伸びているにもかかわらず、輸入の伸びは17.1%に留まっている(石油価格の急騰を考慮すれば、実質ベースで見た輸入の伸びはさらに低くなっている)。中国の貿易は、海外から機械や中間財などを輸入し、加工した製品を再び海外に輸出する形態が主流になっていることを考えれば、最近の輸入の変調は今後輸出が鈍化する可能性が大きいことを示唆している。

中国の貿易不均衡が急速に拡大している中で、米国をはじめとする欧米諸国から人民元の切り上げを求める声が高まっている。それに応じる形で、2005年7月21日に中国は人民元を2.1%切り上げると同時に従来のドルペッグという為替制度を管理変動制に改めた。しかし、当局は切り上げのペースを抑えるために大規模な介入を続けている。その結果、中国の外貨準備が従来とほとんど変わらないペース(毎月200億ドル程度)で増えており、2006年初には、中国が日本を抜いて世界一の外貨準備保有国になるだろう。市場と外国政府からの二重の圧力を受けて、中国当局としても、切り上げのペースを速めざるを得ないだろう。

図 サプライチェーンに沿って低下する価格上昇率(2005年11月)
図 サプライチェーンに沿って低下する価格上昇率
(出所)中国国家統計局データより作成

2005年12月27日掲載

2005年12月27日掲載