原油価格が史上最高の水準に達するなかで、日本を抜いて米国に次ぐ世界第二位の石油消費国となった中国の動向が注目される。中国における旺盛な需要は石油価格の上昇に拍車をかけている一方で、石油価格の高騰が中国の経済成長を制約しかねない要因になってきた。石油の埋蔵量が限られている以上、石油危機を乗り越えるために、中国にとって重要なのは油田の開発と獲得競争よりも省エネルギー化の推進である。これは、世界との摩擦を回避しながら環境問題を改善することにもつながる。
中国は石油を中心としたエネルギー供給源の確保に躍起になっている。中国石油天然ガス集団が2005年8月にカザフスタンに油田の権益を持つカナダのペトロカザフスタンを買収したことは、その好例である。しかし、海外に進出する以上、相手の土俵で資金や経営資源などの面において自分より遥かに優れているメジャーと戦わなければならなくなる。中国側が置かれている不利な立場を考えれば、自ら出資し経営に直接参加するからといって、市場価格より安い値段でエネルギーを入手できるという保証は全くない。最近活発化してきた深海探索や国内における石油備蓄についても、採算性を考慮したうえで取り組むべきである。
「エネルギー安全保障」を考える際には、エネルギー価格の上昇よりも、輸入の途絶がより深刻な問題になる。このような事態を回避するためにも、経済制裁や海岸封鎖の対象にならないように、諸外国と良好な関係を保つことがむしろ重要である。そもそも、中国はグローバルに展開できる強大な軍事力を持たないため、海外投資に伴う権益を守ることも、資源を確実に自国に持ち帰ることも強制的に行うことができない。したがって、中国にとって、エネルギー分野における海外直接投資を行ったからといって、エネルギー安全保障に役立つとは必ずしも言えない。
確かに、台頭する大国が石油をはじめとする資源を確保するためには、戦争を通じて植民地を征服する以外に手段がなかった時代もあった。しかし、今日のようにグローバル化が進んだ時代では、良好な国際関係を維持し、カネを支払うことさえできれば、資源は簡単に入手することができる。しかも、この市場ではすべての国が同じ条件で調達しなければならないため、仮に中国の需要拡大によって石油の価格が上昇したとしても、競争相手もそれを負担しなければならない。したがって、今後も国際競争力を維持できるかどうかは、どれだけコストを下げられるか、すなわち省エネルギー化の進展がカギとなる。
中国政府も省エネルギー化の重要性を認識し、そのための戦略を構築しつつある。具体的に、次の4つの転換が強調されるようになった。まず、エネルギー供給は単に経済発展の基本的な需要を満たすだけではなく、環境にも配慮したものでなくてはならない。第二に、政策の重点を供給の確保からエネルギー効率の向上にシフトしなければならない。省エネを国策として重視し、消耗型、汚染型の粗放型(もっぱら投入量の拡大による)経済成長を改め、建築や交通などの分野を中心に、省エネ型の経済システムを確立しなければならない。第三に、最終消費の段階における価格形成をできるだけ市場に任せると同時に、企業に与える採掘権を有償化することで資源の生産効率を高めなければならない。最後に、国内資源のバランスを保つ政策から国際化戦略に変更し、エネルギーの供給源を確保するために、国内だけでなく、海外の資源と市場をも活用しなければならない。
なお、現在中国が直面しているエネルギーを巡る環境は、1973年に起こったオイルショック当時の日本の状況と類似している。その後、日本は国を挙げて省エネルギー化と環境対策に励み、多くの成果を上げてきた。日本企業にとって、これまで蓄積してきた技術と経験を中国のニーズに応える形で活用すれば、新しいビジネスチャンスが生まれるだろう。
2005年10月14日掲載