中国経済新論:実事求是

国有企業の改革の前提となる民営企業の発展

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

温家宝総理は1月12日、国務院常務会議を開催し、「国務院の非公有制経済の発展への奨励と支持に関する若干の意見」の内容を検討するとともに、同意見を原則的に可決した。「非公有制経済の発展を奨励・支持・指導することは、都市・農村の経済の繁栄や財政収入の増加にプラスとなるほか、雇用創出や国民生活の充実、経済構造の改善、経済発展の促進にも役立ち、小康社会(ややゆとりのある社会)の全面的実現や社会主義現代化プロセスの推進でも重要な戦略的意義がある」という見方が提示された。また、「非公有制経済に対する平等な競争環境、法治制度、政策環境、市場環境の提供や、非公有制経済の発展を奨励、支持、指導する政策措置を実施する」ことの必要性が指摘された。ここでいう非公有経済とは主に急成長してきた民営経済を指すことは言うまでもない。これまで民営企業は色々な面において差別されてきただけに、今回の「意見」は彼らにも「内国民待遇」を与えるという政府の方針を明確化させたという意味が大きい。

民営経済の拡大は市場経済を目指す中国にとって自然な流れである。市場経済の発展には多元的な経済主体が必要であり、国有企業しか存在しない場合には、本当の市場経済を成立させることはできない。民間と競合する分野から撤退することも含めて、国有経済の構造調整という視点から、国有企業の株式制改革、ひいては民営化には民間資本の参加が必要である。また、民営経済は大量の就業機会を提供しており、これを通じて、社会と経済の安定的な発展に寄与している。

計画経済の時代、私有財産は諸悪の根源であると見なされていたが、1970年代末期に鄧小平の指導の下で、私有の富を追求する人々の要求に順応して、私営企業を発展させる構想を打ち出した。これらの政策は労働者の積極性と創造力を大いに引き出し、経済の成長の原動力となった。市場経済化が進むにつれて、集団所有から出発した農村部にある多くの郷鎮企業が所有権改革を経て私営企業に転換する一方、国有企業の民営化も進んでいる。

民営企業の成長は次のような形で、民営化を含め、国有企業改革に有利な環境を与えている。

まず、民営企業の発展は、国有企業の余剰人員の受け皿を提供している。民営経済は、計画経済の時代においてはまったく存在しなかったが、改革開放に転換した後、特に1992年の鄧小平の南巡講話以降、急成長を遂げている。1992年時点では都市部における民営経済の従業員の数は838万人しかなかったが、2003年には4,922万人に上昇している(表)。そのうち私有企業(従業員8人以上)の従業員が2545万人、個人経営(従業員8人未満)の従業員は2377万人になっている(中国では、私有企業と個人経営を合わせて、民営企業または民営経済という)。一方、農村部においても、民営経済の従業員の数は1992年の1862万人から、2003年には4014万人(うち私有企業は1754万人、個人経営は2260万人)に上昇している。一方、国有企業における従業員の数はピークであった1995年の1億1261万人から2003年には6876万人まで減っている。このように民営企業の成長は、リストラの対象となった国有企業従業員や農村の余剰労働力を吸収してきた。実際、民営経済は、2003年だけで都市部では654万人、農村部では129万人の計783万人の雇用を新たに創出した。多くの国有企業や郷鎮企業が株式制改革を通じて民間資本を導入していることを考えれば、民営経済の貢献度はこれをさらに上回っているはずである。

表 民営企業における従業者数の推移
表 民営企業における従業者数の推移
(出所)『中国統計年鑑』2004年より作成

また、高成長を遂げた民営企業部門は、次のような方法を通じて国有企業の改革に直接参加している。第1は、株式制に転換する国有企業の一部の株を取得する方法である。この方法は、民営企業が一部の資本参加にとどめる方式と、経営を主導できる割合まで株式を保有する方式の2つに分かれる。第2は、民営企業による国有企業の買収を進める方法である。この場合、旧来の国有企業は民営企業として存続する。第3は、国有企業の所有権を一部購入することによって企業合併を実現する方法である。これにより、旧来の国有企業は消滅する。第4は、国有企業を競売という形で民営企業に譲渡し、競争の激しい産業から退出してもらう方法である。その他、長年の赤字経営で再建の見通しが立たない国有企業に対しては、法律に則って破産させる方法をとり、民営企業はその資産を購入し、より有効に活かすことができる。

さらに、民営企業の台頭により市場競争が激しくなり、国有企業の独占的地位が脅かされ収益性が低下してきた。より厳しい経営環境に置かれているにもかかわらず、飛躍を遂げた民営企業が停滞する国有企業と好対照をなしているというデモンストレーション効果は、国民に改革の必要性を認識させ、保守勢力を抑える大きな力となっている。

このように、四半世紀の改革を経て、中国の民営経済は、国有経済に匹敵する力になってきた。今後の中国経済の発展は、活力のある民営部門と活力のない国有部門の共存という二重構造の解消にかかっている。すなわち、民営企業が引き続き成長していく一方で、まだ競争力のある一部の国有企業が民営化され、競争力のない国有企業は淘汰されていくという形で、経済の中心の「公有制」から「私有制」へのシフトがいっそう進むだろう。

2005年1月20日掲載

2005年1月20日掲載