中国経済新論:実事求是

いっそう冷え込んだ中国の自動車市場
― 始まった各社の投資計画の見直し ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

2001年のWTO加盟を経て、中国では自動車生産が急拡大し、2003年には444万台(前年比36.6%増)とフランスを追い抜き、世界第4位の自動車生産国に躍進した。日本のトヨタ、ホンダ、日産をはじめとする外資系メーカーの進出や設備増強といった供給要因に加え、資産家階級の成長と好景気も需要側からこの自動車ブームを支えた。中国の自動車市場の更なる拡大を見込んで、日本をはじめとする主要メーカーが、積極的に中国での増産計画を推し進めている。しかしながら、販売台数はともに2004年3月にピークを迎えた後に減少傾向に転じ、ブームはにわかにかげりを見せた。こうした中で、各社は減産を余儀なくされ、投資計画の見直しも迫られている。

10月の自動車販売台数は40万5千台、そのうち乗用車は17万8千台と、3月のピーク時と比べて、それぞれ25.4%と21.1%の急減を見せており、乗用車の生産台数に至っては4割も減っている。自動車が売れなくなった最大の原因は投資の過熱を解消すべく当局が引き締め政策を強める中で、景気の行方が不透明になってきたことであろう。それに加えて、最近になって自動車ローンの審査が厳格化されたこと、さらには近来の原油価格の上昇によって自動車を所有するための維持管理費が割高になったことが挙げられている。また、2005年以降に輸入数量割当が撤廃されるため、消費者が実施を待つ形で様子見を行っているという見方もある。需給ギャップが拡大している中で、自動車の販売価格が急落している。北京亜運村汽車交易市場のデータを用いて、2003年と2004年の双方の価格を調べることのできた55車種についてみると、この一年間で、乗用車の価格は8.9%ほど下がっている。また、これらの車種のうち、価格の上がっているものは一つもなかった。その上、最近は原油価格や鋼材価格の上昇が自動車の生産コストを高めているため、メーカーにとって、利幅はさらに薄くなっている。

しかし、自動車市場の低迷にもかかわらず、現時点でも中国における各自動車メーカーは積極的に生産能力の拡大を進めている。これらの計画に沿った形で投資がなされていった場合、2007年時点で中国国内の生産能力は1100~1200万台に達すると見られている。国内の需要だけでこれを吸収するためには毎年平均で40%の需要の伸びが必要になる。ところが、いくら楽観的見通しに立っても、2007年時点の予測として考えられている需要は約700万台に過ぎない。これでも年平均で17%の成長率が見込まれていることになるが、この予測をもとにすると3年後には年400~500万台にのぼる需給ギャップが生じる計算になる(朱敏・国家信息中心経済予測部、「わが国の自動車産業の発展環境に関する分析」、『中国経済時報』、2004年11月25日)。

むろん、数百万台におよぶ需給ギャップが生じた場合、各企業が計画をそのまま続行するとは考えにくい。自動車市場の低迷が長引けば、何らかの計画修正がなされることになろう。すでに、上海GMや上海フォルクスワーゲンは7月の中旬に在庫調整と見られる操業の一時停止を行っている。また、フォルクスワーゲンは2004年12月期において中国事業での営業減益は避けられないとの見方を示しており、さらには11月になって中国への事業を見直し、今後2年間の投資額を22%減らすことを発表した。

ただし、日本の自動車メーカーは中国進出の勢いを抑える様子を見せていない。トヨタ、ホンダ、日産の三大メーカーはこの3年間で現在の約70万台から約150万台へと中国での生産能力をほぼ倍増させる計画を発表している。これらのメーカー以外も、2004年下半期以降になってから三菱自動車は中国での合弁生産会社への出資比率を引き上げることを発表し、スズキも合弁事業での生産拡大計画を発表している。供給過剰が避けられない情勢となった今、日本企業も投資計画の再検討を余儀なくされることになるだろう。

図 自動車の販売台数(2000年1月-2004年10月)
図 自動車の販売台数(2000年1月-2004年10月)
(出所)中国自動車工業協会の発表数値より作成

2004年12月14日掲載

2004年12月14日掲載