中国経済新論:実事求是

警戒すべき不動産バブル
― 価格上昇は実需かそれとも投機によるものか ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

中国の不動産市場は、当局がマクロ政策での引き締め基調を強めているにもかかわらず、好調を続けている。10月27日に発表された国家発展改革委員会と国家統計局が共同で行なった不動産市場調査の結果によると、2004年第3四半期において、35の主要都市の不動産販売価格と土地取引価格は前年同期比で、それぞれ9.9%と11.6%上昇した。こうした中で、現在の不動産市場がバブルに当たるかどうかを巡って、白熱した論争が展開されている。特に、10月28日に当局が利上げに踏み切ったことを受けて、不動産市況が今後も上昇し続けるかそれとも調整局面に入るかが注目される。

利上げが発表された同じ日に、建設部政策研究センターは、不動産価格の高騰は所得水準の上昇と、都市化の進展による「実需」によるもので、バブルに当たらないという主旨の報告書を発表した。その中で、都市部世帯の2割が、一世帯当たりの住宅面積で現在より20平方メートル増加するだけで需要量は5億平方メートルを超えるという楽観的見通しを提示している。しかし、このような計算によって示されているのは、あくまでも「潜在的需要」であって、「実需」と混同すべきではない。実際、同報告書は、官庁発のものとしては異例といっていいほどに、中国のマスコミから「業界の利益を代弁するためのプロパガンダである」という批判を浴びている。

本来、住宅に対する「実需」は、購買力と採算性によって裏付けられたものでなければならない。購入者本人が利用する場合、住宅に対する需要は販売価格(またはローンの返済額)の収入に対する比率によって表される購買力に制約されることになる。一方、家賃収入を狙う投資の場合、家賃で見た投資の利回りがどの程度資金調達コストである金利水準を上回るかに依存する。

購入価格と一世帯の可処分所得の比率でみると、上海の場合では、80平方メートルの住宅の価格は年間の可処分所得の27.5倍に当たる(中国社会科学院劉建昌研究員による試算)。国際比較を行ってみるとドイツで11.4倍、イギリスで10.3倍、フランスで7.7倍、アメリカで6.4倍となっており、日本ですら11倍前後となっており、上海市の現状はすでにバブル状態であるといわざるを得ない。程度の差はあるものの、中国の都市部のマイホームは、庶民にとって高嶺の花になっている。

一方、冒頭で引用した不動産市場調査によると、2004年第3四半期の家賃の上昇幅は前年同期比2.1%に留まっており、不動産価格の上昇幅(9.9%)よりはるかに低くなっている。このことからもわかるように、賃貸料収入で見た不動産投資の利回りが急速に低下している。それにもかかわらず、投資のための不動産購入が衰えていないことは、キャピタル・ゲインが期待されるからであり、不動産市場における投機色が強まっていることはもはや否定できない。不動産価格の上昇率と家賃の上昇率の乖離幅から判断して、バブルの膨張は上海、青島といった沿海都市にとどまらず、瀋陽、武漢といった内陸の都市にも及んでいる。

実需や投機といった従来の要因に加え、今回の不動産価格が上昇する背景には、景気の循環要因もある。インフレが高まっているにもかかわらず、金利が低水準にとどまっているため、インフレによる預金の目減りというリスクをヘッジするために一部の資金が預金から不動産に流れているのである。また、当局の引き締め政策の一環として土地の供給が厳しく制限されるようになり、このことも、土地価格の上昇に拍車をかけている。しかし、このような状況がいつまでも続くと思えない。引き締め政策は今後も維持され、その手段も行政措置から、利上げに代表される間接手段に漸次切り替えられると思われる。現に、10月末に当局が利上げに踏み切り、金利がさらに上昇する余地が残っている。その一方で、土地の供給に対する制限も緩和されるだろう。その結果、不動産市場における価格調整は避けられない。

このように、中国における不動産市況はすでに警戒水域に入っている。残念ながら、1980年代後半の日本の経験からも分かるように、バブルは、はじけて初めてその存在が認められるものである、中国が一刻も早くソフトランディングに向けた対策を採り、日本の轍を踏まないことを祈りたい。

図 賃貸料を大幅に上回る不動産価格の上昇率
図 賃貸料を大幅に上回る不動産価格の上昇率
(注)45度線から上方乖離幅が大きいほど、バブルの度合いが強いことを示す
(出所)中国発展改革委員会

2004年11月16日掲載

2004年11月16日掲載