中国では、投資と経済成長がお互いに促進しあう好循環の下で、不動産価格が高騰するなどバブルの様相を呈している。しかし、最近の当局による引き締め政策をきっかけに、逆に投資と資産価格が低下し、景気が減速するという悪循環に変わることが予想される。バブルが崩壊すれば、中国は90年代の日本のように、企業部門は雇用調整、設備調整、バランスシート調整を迫られることになろう。
日本では多くの大企業が実質上終身雇用制を採っており、そのおかげで雇用調整には長い時間がかかったが、不況が深まっても大量の失業者が発生しなかった。これに対して、中国では労働市場における流動性が高く、景気後退に伴って失業率が大幅に上昇することになる。現在、主に農村部から都市部へ、また内陸部から沿海地域へ流れている出稼ぎ労働者は1億人にも上る。彼らの故郷への送金は経済発展から取り残されている地域の重要な所得源になっているだけに、当局にとって、雇用の維持は単に経済問題に留まらず、社会全体の安定がかかった重要な課題である。
また、最近行われた多くの設備投資は、これまでの好景気が今後も続くという前提に立っている。しかし、景気が減速すると、売り上げが伸びなくなり、企業は過剰設備を抱えることになる。特に、すでに過熱状況が問題視される鉄鋼、セメント、アルミといった建設関連の業種は深刻な事態を迎えることとなろう。自動車産業においても、設備過剰に陥る可能性が高い。トヨタなど日系メーカーをはじめ、世界のトップメーカーはすでに中国で大規模な設備投資を始めている。それに加え、これまで自動車生産とまったく縁のない中国企業も新規参入を目指している。内需がさえない中で、デフレが進行した場合、中国企業は輸出ドライブをかけざるを得ない。しかし、中国はすでに米国の最大の貿易赤字相手国になっており、中国からのいっそうの輸入増は貿易摩擦の激化に拍車をかけることになる。
さらに、借り手である企業の業績が悪化する中で、銀行が抱える不良債権はいっそう増え、貸し渋りが深刻化するだろう。鉄鋼やセメント、アルミといった「過熱部門」における投資の四割は銀行融資に頼っている。来るべき調整局面において、企業の倒産を含めた、大規模な産業再編が予想され、銀行もそのツケの一部を負担せざるを得ないだろう。中国の銀行が抱える不良債権はすでに世界最悪の水準に達しており、バブルの崩壊に伴って、いっそうの悪化が避けられない(表)。日本と同じような金融危機を防ぐべく、政府としても不良債権を処理するために、銀行部門へ公的資金を注入せざるを得ないだろう。しかし、国有銀行とその最大の融資先である国有企業にコーポレートガバナンスが欠如したままでは、公的資金の導入は不良債権を一時的に減らすことができても、その新規発生を止めることができないため、問題の根本的解決にはつながらない。また、四大国有銀行が、近い将来海外の株式市場で上場する計画を立てているが、不良債権問題が深刻化する時期と重なることになれば、その実現は難しくなるだろう。日本の場合、日本長期信用銀行(現・新生銀行)やりそな銀行をはじめとする一部の銀行は、自力での資本市場からの資金調達を断念せざるをえず、結局「国有化」の道を選ばなければならなくなった。
雇用・設備・債務という「三つの過剰」を解決するために、日本は10年以上の歳月を費やしてしまった。そして、中国がこの日本型危機を回避するために許された時間はもはや多くないのである。
2004年6月22日掲載