中国経済新論:実事求是

なぜ中国における投資効率が悪いか
― 立ち遅れた金融改革 ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

中国の好景気は投資に牽引されている。投資がGDPを上回るペースで伸びていることを反映して、投資比率も上昇傾向にある。2003年の中国における投資のGDPに対する比率は42.7%と、1993年に記録した史上最高の水準(43.5%)に迫っているだけでなく、他の国と比べても群を抜いている。好調な投資は需要側のみならず、生産能力の拡大を通じて供給側からも中国の経済成長を支えている。特に、過熱とされる鉄鋼、セメント、電解アルミの三業種におけるそれぞれの投資の伸び率は2003年に96.6%、121.9%、92.9%となったのに続き、2004年第1四半期にも107.2%、101.4%、39.3%の伸びとなっている。その一方で、投資の増大に伴って、その効率、ひいては採算性が低下するのではないかという懸念が高まっている。

投資効率をマクロ的に捉えるときに、「資本係数」が有効な指標になる。資本係数は投資比率を実質経済成長率で割ったものであり、その値が小さいほど、投資効率が良いことを示している。2001-2003年の平均では、中国はGDPの40.5%を投資に投じ、8.0%の成長率を遂げたことから、資本係数は5.1(40.5/8.0)と計算される(表)。すなわち、成長率を1%高めるために、GDPの5.1%相当を新たに投資しなければならないことになる。90年代以降、中国の資本係数は上昇傾向にあり、投資効率の低下を示している。その上、中国の資本係数は、1991-2003年の平均で見て4.1と、日本や韓国、台湾の高度成長期の時と比べても高くなっている。1960年代における日本の成長率は現在の中国を上回る10.2%に達していたのにもかかわらず、投資比率は32.6%に留まり、これを反映して資本係数も3.2と低くなっている。1980年代の韓国と台湾においても、資本係数はそれぞれ3.2と2.7であり、1990年代以降の中国よりはるかに低い。

最近の投資過熱の原因について、通貨当局は次のように分析している(「2004年第1四半期中国貨幣政策執行報告」)。まず、2002年秋の党大会以降の人事交替を受けて、地方政府はいっそう実績を上げるべく、高成長を求めて、一斉に投資へと走った。また、国有企業は事業に失敗しても債務免除を受けるなどソフトな予算制約の下で過大投資をしようとしている。さらに、各地方政府は民営企業や外資企業に多くの優遇条件を与え、投資のコストを人為的に抑えている。これらは、投資効率低下の直接的理由でもある。

このような状況を助長しているのは、政府による介入が多いために、金融部門が国民の貯蓄を有効に投資に転換させる役割を果たしていない為である。中国では資本市場の規模はまだ小さく、企業の資金調達は銀行に頼らざるを得ない。しかし、銀行部門の中枢になっている四大銀行は、融資先の大部分を占める国有企業と同様、コーポレートガバナンスが欠如したままとなっており、株主(抽象的存在としての「国家」)の利益を最大化するように行動しているわけではない。そもそも、貸出金利は、融資の対象となる国有企業を救済するために低水準に設定されており、資金の価格として資源を最も収益率の高いプロジェクトへと誘導する役割を果たしていない。また、融資の中から不良債権が発生しても、関係者が責任を取ることもほとんどない。

プリンストン大学のポール・クルーグマン教授は10年ほど前に発表した「まぼろしのアジア経済」(『中央公論』、1995年1月号)の中で、「東アジアの奇跡」と呼ばれるようになったアジア各国の高成長が、生産性の上昇より、投入量の拡大によって達成されたものであり、したがって、持続できるものではないと鋭く指摘した。その後、予言が的中する形で、タイやインドネシア、韓国を中心にアジア経済危機が起こった。中国はアジア諸国のこの経験から学ぶべきである。危機を回避し、経済成長を持続させるために、成長のエンジンを投入量の拡大から生産性の向上に改めなければならない。そのために、金融制度と国有企業の改革を通じて、資金の有効利用を図らなければならない。

表 中国の資本係数:高度成長期の日・韓・台との比較
表 中国の資本係数:高度成長期の日・韓・台との比較
(出所)各国統計により作成

2004年6月18日掲載

2004年6月18日掲載