中国経済新論:実事求是

25周年を迎える中国の改革開放
― 公有制の終焉に向けて ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

中国では、78年に行われた共産党第11期中央委員会第三回全体会議(三中全会)において、鄧小平の主導の下で、改革開放による現代化路線が打ち出されてから、今年でちょうど四半世紀になる。この間、中国は社会主義という建前を維持しながら、資本主義に向けて疾走してきた。しかし、経済の実態が益々社会主義の本来の理念から乖離したため、現状を追認し、また新たな改革の方向を打ち出す度に、社会主義の内容は修正を余儀なくされた。今年の10月に行われた第16期三中全会においても、所有制改革を中心に社会主義の発展的解消が図られた。

伝統的社会主義は、「労働に応じた所得分配」、「計画による資源配分」、「国営企業を中心とする公有制」という3本の柱からなるものであり、「資本を含む生産要素による所得分配」、「市場による資源配分」、「私有財産」に特徴付けられる資本主義と相反するものである。ロシアと対照的に、中国は資本主義を短期間で実現しようとするショック療法を採用せず、時間をかけて漸進的改革を進め、社会主義の3本の柱を順を追って資本主義の柱に入れ替えたのである。まず、1978年から1992年までの「放権譲利」(下級政府や企業に権限を委譲し利益を分ける)を実施し、1993年以降の市場経済化の段階を経て、民営化を中心とする所有権改革の段階に入っている。

改革の第一段階に当たる1978年から1992年では、「労働に応じた所得分配」という原則が漸次に放棄された。農業部門では、「大鍋飯」式の人民公社が解体され、家族単位の請負制が導入され、工業部門においても「放権譲利」の下で、利潤の追求が認められるようになった。各経済主体の自らの利益への追求は中国経済に活力をもたらした。しかし、この段階では、国有企業と計画経済は依然として中国経済の主役であり、私有財産はもちろんのこと、市場経済もあくまでも必要悪としてしか認められていなかった。

92年の鄧小平の南巡講話を受けて、同じ年に行われた第14回共産党大会では、「社会主義市場経済」の建設が改革の目標として定められた。市場環境の下で、民営企業が急成長してきたが、多くの国有企業が激しさを増す競争に耐えられず、経営は悪化の一途を辿っており、彼らに融資している国有銀行が抱える不良債権の問題も深刻化している。国有部門の赤字と不良債権は最終的に財政の負担となることと、民営企業が生産性や収益性などの面において国有企業よりずっと優れていることが明らかになるにつれて、当局ももはや民営化に踏み切らざるを得なくなってきた。中小企業から始まった民営化の過程は、大企業にも及びつつある。

民営化を加速させるべく、2003年10月に行われた第16期共産党の三中全会で採択された「社会主義市場経済体制の若干の問題の完備に関する決定」では、従来の国有企業の代わりに、持株制を公有制の主体的形式とした。ここでいう「持株制」とは、国有資本、集団資本、非公有資本などが資本参加する「混合所有制経済」である。国有資本による持株企業は状況の違いに応じて、絶対的な持株制、相対的な持株制を実行しても構わないという方針も打ち出されている。従来のイデオロギーを打破することにより、外資企業や民営企業の国有企業への資本参加が加速するであろう。

今回の「決定」では「公有制の主体的地位を堅持する」という文言が残ってはいるが、指導部が公有制の定義を広げることによって、「社会主義」という「名」を保ちながら、資本主義という「実」を取ったのである。新たに公有制の主体的形式という地位が与えられた持株制には、解釈によって資本主義国における株式会社に当たる純粋な民間企業も含まれている。従来の定義に従えば、中国はすでに「もはや社会主義ではない」という段階に達していると言っても過言ではない。しかし、「決定」による定義を拡大解釈すれば、中国はもちろんのこと、米国と日本を始めとする資本主義国も、「公有制の主体的地位」を堅持する社会主義国になる。

2003年11月10日掲載

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