中国経済新論:実事求是

「実事求是」二周年によせて
― 現実を見据えて、そして、より望ましい日中経済関係を目指して ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

この「実事求是」というコラムを私の個人ホームページである『中国経済新論』に立ち上げてから、二周年を迎えることができた。これは読者諸兄をはじめとした皆様の有形無形のご支援のたまものであり、感謝の念に耐えない。私は中国経済、そして日中経済関係の姿を直接日本の読者に発信することを通じて、日中間に横たわる不信の解消に努めてきた。これまでの私の主張がその目的に対して少しでも貢献できたのではないかと、確かな手応えを感じている。

二年前の今頃は、日本のマスコミに、日本経済の不振の原因が中国にあるという論調が横行していた。中国脅威論を煽るかのように、ある主力新聞では、連日、日本経済と企業がいかに絶望的で、逆に中国の経済と企業がいかに強いかに焦点を当てた記事で紙面が埋め尽くされていた。このような感情論を排すべく、私は日中経済関係を冷静に分析し、このコラムを通じて、政策提言を行ってきた。中国の台頭と日本の産業空洞化、中国発デフレ、人民元の切り上げなど、取り上げたテーマは多岐にわたっているが、共通していることは、中国の躍進は13億人の中国人にとってもちろんのこと、日本人にとっても望ましいことであるという信念である。特に、日本と中国が競合関係ではなく、補完関係にあるという実証研究の結果に立って、両国は比較優位に沿った分業体制の構築を通じて、ウィン・ウィン・ゲームを目指すべきであるという主張を貫いている。

この主旨がようやく理解されるようになったせいか、日本においても、中国がWTO加盟を境目に日本と競合する「世界の工場」という側面だけでなく「世界の市場」としての側面も注目されるようになった。多くの日本企業が、中国の躍進をビジネスチャンスとして捉えるようになり、貿易や直接投資など、対中ビジネスを拡大させることを通じて、収益を増やしている。国内の景気回復が鮮明になってきたことも加わり、中国脅威論はようやく収束に向かいつつある。この二年間を振り返ってみると、このコラムに、どれほど世論を変える影響力があったかは不明だが、少なくともマスコミより先見性を持っていたことは明らかである。

「実事求是」の日本語版がスタートして間もなく、全く同じ内容の中国語版と英語版も公開されるようになった。特に、中国語版は広く読まれており、中国の研究者からも、「啓発を受けている」、「是非続けてほしい」など、激励の言葉を頂いている。また、日中関係に関連する議論を中心に、「実事求是」の記事が中国の新聞や雑誌にも頻繁に転載されるようになった。中国の現状をできるだけ客観的に日本の読者に伝えるためにできたこのコラムが、中国でも反響があったことは、私にとって意外な収穫であった。中国において、日中関係の正しい見方を伝えるために、現在、「実事求是」の中国語版の記事をまとめた単行本の出版計画が進められている。

さて、私は2001年4月に民間のシンクタンクである野村総合研究所から独立行政法人としてスタートした経済産業研究所に三年間の出向という形で着任したが、来年3月にいよいよ任期満了の予定である。「実事求是」が三周年を迎えられるように努力しているところだが、まだ乗り越えなければならない課題がたくさんある。そもそも、「実事求是」は、誰でも無料でアクセスできるという意味で、一種の公共財に当たる。幸い、私の現在の研究拠点である経済産業研究所は、公的資金で運営されているため、研究プロジェクトの採算性よりその公共性を優先できたのである。このコラムを継続させるためには、供給面では各関係者の理解と資金面の支援に加え、需要面でも読者の皆さんから引き続きの応援が欠かせない。これまでと同様のご愛顧をお願い申し上げる次第である。

2003年9月22日掲載

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