中国経済新論:実事求是

なぜ韓国は中国を脅威と見なさないか

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

中国の経済発展を機に、日本において中国発デフレ論など「中国脅威論」が騒がれるようになって久しい。これに対して、隣の韓国は中国との経済交流を活発化させ、中国の台頭を積極的にビジネスチャンスとしてとらえている。韓国と日本は産業構造が類似しておりまた中国と地理的に近い点においても共通しているにもかかわらず、なぜそれほど違う反応を示すのだろうか。

中国と韓国は1992年に国交を正常化させてから、貿易と直接投資が急速に拡大してきた。2002年韓国の対中貿易総額は412億ドル(韓国側の統計による)に達し、韓国にとって中国は貿易規模ではアメリカ、日本に次いで第三位の位置を占めている。一方、2002年の対中直接投資は17億2000万ドル(韓国側の申告ベース)で、韓国の対外直接投資のうち34%を占め、アメリカへの投資を抜いて第一位になった。現地の再投資を含む中国側の統計によると、2002年の韓国の対中投資はこれをさらに上回る27億ドルとなっている。韓国は対中貿易と投資は、絶対額こそ日本に及ばないものの、対GDP比で見れば、いずれも日本を大幅に上回り、日本以上に中国経済と緊密に結ばれていることが分かる(表)。

表 韓国と日本の対中貿易と直接投資の比較(2002年)
表 韓国と日本の対中貿易と直接投資の比較
(出所)輸出入とGDPは韓国および日本の公式統計、対中直接投資は中国側統計(実行ベース)による

韓国の対中貿易規模の大きさは単純に最終財のみを取り引きしているということではなく、直接投資にかかわる部分が非常に大きい。特に、韓国から中国への輸出品目は原材料、部品や資本財が多く、中国へ進出した韓国企業へ供給されていると考えられている。韓国企業の対中進出が、初期は中小企業による労働集約型産業が多くを占めたものの、90年代後半からは現代、三星、LGといった大企業グループが中国進出を進めるに至った。この動きと併せて、韓国では就労人口が工業部門から情報分野をはじめとするサービス部門にシフトしている。このように、韓国は衰退産業を中国に移転する一方、新しい産業に育成に力を入れることを通じて、空洞化なき高度化を遂げつつある。

日本以上に中国経済との結びつきを強めてきたにもかかわらず、韓国においては、中国の発展はむしろチャンスであると考える楽観論の方が主流であり、中国脅威論は現れていない。その原因の一つとして考えられているのは韓国の対中貿易収支が一貫して黒字であり、日本のそれが赤字であることである。しかしながら、アメリカが中国に対して年間1000億ドルに上る貿易赤字を計上しているにもかかわらず、中国の台頭を国内の空洞化に結びつく議論が皆無であることを考えると、この議論はあまり説得的とはいえない。

むしろ、このような形で日本に中国脅威論が噴出し、韓国では楽観論が見られているのは、それぞれの置かれた現在の経済状況が影響していると考えられる。日本はバブル崩壊以降、「失われた10年」を経て経済回復への展望はまだ開かれないのに対して、韓国が構造改革を徹底させ通貨危機を乗り越えてからはIT分野の発展なども手伝って好調を続けている。2002年の韓国の成長率は6.4%と、中国の8.0%には及ばないものの、日本の0.3%を大きく上回っている。この経済のパフォーマンスの差は対中関係という鏡を通じて、自信の度合いの差として、そのまま映されているのではないだろうか。

2003年4月18日掲載

2003年4月18日掲載