中国経済新論:実事求是

東莞市で誕生する日本企業専用団地
― 地域間競争で改善する中国の投資環境 ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

中国のWTO加盟をきっかけに、日本企業の対中投資がブームを迎えているが、その対象地域は上海を中心とする長江デルタに集中する傾向が強まっている。長江デルタの台頭という挑戦を受けて、これまでの外資受け入れの最先端に走った華南地域の珠江デルタも、インフラ整備や投資誘致に力を入れて巻き返しを図っている。中でも、行政の末端に当たる市や鎮といった地方政府主導の開発プロジェクトが注目されている。その一例として、私が先月訪ねた東莞市の東坑鎮で建設中の日本企業専用工業団地について紹介したい。

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東莞市は広州と香港の真中に位置し、珠江デルタ工業地帯の要に当たる。1時間以内に2つの国際空港(深圳、広州)に、1時間半以内で国際航路を持つ3つの港(広州の黄浦、深センの塩田、香港の葵涌)にアクセスすることができ、また中国を縦断し香港と北京を結ぶ京九鉄路のルートの上にある。東莞の発展段階を辿ると、80年代は労働集約型の投資から出発して、90年代に入ってから台湾系企業の進出により産業の裾野が急速に広がっている。特にPC生産に必要な部品はほとんど市内で調達できるようになり、東莞市は世界的に見てもIT製品の一大集積地に成長してきた。1万5000社の外資企業に支えられ、東莞市の輸出金額は、深センと上海に次いで全国の市の第三位になっている。

東坑鎮はこの東莞市の中部に位置する人口10.8万人(戸籍上の人口は2.8万、外部からの流動人口は8万人)という小さな町である。鎮政府は外資導入には熱心で、進出企業に対して、「審査・認可」するのではなく、「サービス」を提供する立場で接している。その対応の柔軟さと面倒見の良さが、進出企業の間でも評判になっている。すでに日本企業7社を含めて230社の外資企業が同鎮に進出しているが、現在、さらに4つの大規模な工業団地のプロジェクトが進められている。

その一つは鎮政府と香港資本の平謙国際有限公司が共同で進めている中国初の日本企業専用団地の建設である。同プロジェクトは、100万平米という広い敷地に工場区域、住宅区域、商業区域、自然環境保護区域を設け、80社の中小企業と5万人の従業員を受け入れる予定である。リトル・ジャパンにふさわしいアットホームな環境とサポートが売り物となる。具体的には、生産インフラだけでなく、生活インフラも日本をモデルに整備する上、日本人所長を常駐させ、会社設立・会計・法律関係手続や、労働者の募集、税務などの代行サービスも提供する。日本企業の専用であるだけに、駐在員の間では、ビジネス面の情報交換のみならず、生活面の相互扶助も容易になる。

平謙国際有限公司は、TDKや松下電子部品をはじめとする日本企業と豊富な合弁や提携の経験を持っている。日本工業団地に進出する企業に対して、管理職の派遣を含む人材面での支援に加え、自ら委託加工や合弁の相手になる用意もある。初めて中国に進出しようとする中小企業にとって、同社は良い水先案内人であるだけでなく、信頼できるビジネス・パートナーにもなろう。鎮政府の直接的な支援も加わり、投資に伴うリスクが抑えられることになる。

このように、地域間における誘致競争の結果、中国全体の投資環境が急速に改善してきている。これにより、日本企業は、中国に投資する際、自分のニーズに見合った選択肢が増え、成功する確率が高まってこよう。

※今回の視察ではJL Advisers(ジェイ・エル・アドバイザー)様にご協力をいただきました。

2003年1月24日掲載

2003年1月24日掲載