中国経済新論:実事求是

メイド・イン・チャイナの本当の実力
― 区別すべきメイド・バイ・チャイニーズとの違い ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

最近、中国からの輸入が増加し、またユニクロに代表されるように「メイド・イン・チャイナ」に対するイメージが大幅に改善している。確かに中国は「世界の工場」としてその地位を着々と固めつつあるが、「先進」工業国になるには、まだ乗り越えなければならない課題が山積している。

まず、中国は輸出に占める付加価値の低い労働集約型製品のウェイトが高く、典型的「新興」工業国(NIE)の輸出構造を持っている。これは、機械などの技術集約型製品を中心とする先進国の輸出構造と異なっている。確かに、中国製品はハイテクに分類される一部のIT製品においても世界市場におけるシェアを伸ばしてはいるが、未だ付加価値の低い汎用品に集中している。例えば、テレビの場合、日本はハイビジョンなどの高級品、中国は標準型にそれぞれ特化しており、その単価は一桁も違う。

また、中国は加工貿易が中心であることを反映して、メイド・イン・チャイナの製品には、中国の国内総生産(GDP)に計上されないメイド・イン・ジャパンを始めとする多くの外国の部品が含まれている。中国公式の統計によると、100万ドルの輸出を増やすにはその半分に当たる50万ドルの部品といった中間財の輸入が必要である。しかも、ハイテク製品であるほどこの輸入コンテンツの比率が高くなっている。例えば、一台の「メイド・イン・チャイナ」というレッテルが貼られているコンピュータに、1000ドルの値段がついているとしよう。しかし、その中身は、インテルのCPU、マイクロソフトのウインドウズのOS、日本や韓国製の液晶ディスプレイなど依然として輸入に頼る部分が大きく、本当に中国でつけた付加価値は、ほんの一部に過ぎない。

さらに、中国の輸出の約半分が外国企業の手によって行われているため、彼らに対して配当金や利息、技術使用料などを払わなければならない。外国企業と資本関係のない中国企業でさえ、海外からの委託加工でつくった製品が、輸出の大半を占めている。このように、中国の輸出の内、外国に支払う中間財の輸入代金と投資収益を除けば、輸出金額で示されているメイド・イン・チャイナの規模と、実際の中国の国民総生産(GNP)に計上されるメイド・バイ・チャイニーズの間には非常に大きなギャップが存在している。

中国は外国企業を頼るあまりに、世界の工場と言われながら、未だ世界で通用する自前の技術も、ブランドも持っていない。その上、中国企業は資金や人材、経営管理などほとんどすべての面にわたって外国企業に劣っている。その結果、輸出競争力を安い労働力に求めざるを得ず、実際、中国の輸出に占める付加価値の大半は労働コストとなっている。中国の平均賃金は未だ月100ドルに満たず、日本の30分の1程度であることを考えると、メイド・イン・チャイナの製品に含まれるメイド・バイ・チャイニーズの付加価値が非常に低いことが分かる。

このように、中国の賃金水準が低いから中国製品の競争力が強いという世の中の常識は労働集約型製品に限って言えば正しいが、産業全体には必ずしも当てはまらない。中国の低賃金は、むしろ同国の労働生産性が低いことを反映していると理解すべきである。日本にとって中国が本当に手ごわい競争相手になるのは、むしろ生産性の上昇を反映して、その賃金水準が日本に近づく頃である。

2002年4月26日掲載

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