中国経済新論:実事求是

セーフガードの発動:する側とされる側の言い分

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

昨年の日本の農産物3品目に関するセーフガードの暫定措置の発動に続き、今年に入ってから米国の鉄鋼製品に関するセーフガードが発動された。日本はセーフガードを発動する側からされる側に立場が変わったが、一貫性のある論理の展開ができているのだろうか。

ブッシュ大統領は、今回の外国の鉄鋼製品に対するセーフガード発動に関し、次のように述べている。「米国への海外からの鉄鋼輸入が急増し、それによって国内鉄鋼業界の倒産や失業の増大が深刻化している。そこで鉄鋼メーカー及びその労働者等の急激な調整プロセスをより円滑なものにするための一時的な措置として、今回の決定が位置づけられる。これはWTOのルールに乗っ取ったものである。」同時に米国政府は、世界的に過剰な設備を整理し、補助金などによって生じている鉄鋼市場の歪みを是正していく方針を示し、この一時的なセーフガード措置が,長期的には自由貿易を妨げるものではないと主張している。

これに対して日本側は、「今回の措置はWTOルールで求められる要件を満たしておらず、他国への影響やWTO体制の維持強化の観点からも看過できない。そもそも米国鉄鋼産業が抱える真の問題は、膨大な退職者年金・医療費負担、非効率な生産設備能力の存在等による、米国鉄鋼産業自身の競争力の欠如であると理解している。これらの問題を解決することなく、安易に輸入に原因を求め、セーフガード措置を講じることは、本質的解決とはならないと考える」と反発している。

まだ記憶に新しいが、このようにセーフガード措置に明確に反対している日本は、2001年4月に、自らネギをはじめとする農産物を対象にセーフガードの暫定措置を発動した。そのときに、「中国などからの輸入が急増している農産物3品目(ネギ、生シイタケ、イグサ)について、輸入急増による価格下落で生産農家が打撃を受けているとし,農業における生産,経営の合理化をその間に進める。今回の措置はWTO協定に基づくものである」と主張した。

これに対し中国対外貿易経済合作部からは、「今回の措置は事実根拠に欠け、WTOのルールに違反する。そもそも農産物3品目の生産が不振であるのは,生産構造自体が合理的ではなく競争力がないためであり,日本の産業が比較優位性を欠いている必然の結果で決して短期間の輸入増加がもたらした結果ではなく,今回の措置で本質的な問題の解決はできない。こうした事実を無視してこのような措置を取ったことで中国の輸出業者や生産者,農民の利益が損なわれただけでなく,日本の関連業界や多くの消費者の利益をも損ない,更にはWTO体制に反して保護主義を助長していくものである。」と批判されている。

このように、セーフガード発動に関して、関係している国や業種の違いにかかわらず、発動する側の言い分は常に一致し、される側の反論も共通している。すなわち、各国は、自国(の政治力を持つ利益団体)の利益を守る必要があるときに、WTOに認められる権利としてセーフガードを発動し、逆にセーフガードのされる側の立場に回されると、相手国のWTO違反を訴えるというパターンが一般的である。自由貿易を標榜し、その利益を享受してきた日本の対応も例外ではないようである。自分の都合のいいように、自由貿易に賛成したり反対したりすることは明らかにダブルスタンダードに当たることを日本の当局は理解しているのであろうか。

2002年4月5日掲載

2002年4月5日掲載