中国経済新論:実事求是

ワークシェアリング
― 解消に向かう中国・導入を目指す日本 ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

日本では、不況が長引く中で、雇用を維持するために、大企業を中心にワークシェアリングの導入が検討されている。これに対して、半世紀にわたって国有企業を中心にワークシェアリングを実行してきた中国では、その解消を目指している。こうした労働市場の変化からも、社会主義に傾斜する日本と市場経済に向けて邁進する中国の好対照な姿が浮び上っている。

計画経済の時代の中国における国有企業では、5人の仕事を10人で分かちあうというワークシェアリングが一般的であった。これは、経済効率の犠牲の上に立っていることは明らかだが、社会の安定に寄与し、平等を優先させる社会主義のイデオロギーにも一致していた。しかし、改革開放以来、郷鎮企業や外資系企業など、非国有企業の参入により、市場での競争が激しくなり、国有企業の業績が益々悪化している。財政または国有銀行による融資という形での赤字の補填も限界に達しつつある中、政府はもはや国有企業のリストラに真剣に取り込まなければならなくなってきた。

幸い、急成長している非国有企業は新たな雇用機会を創出し、一部の国有企業から職を失った労働者に受け皿を提供している。それでも、国有企業の脱ワークシェアリングのペースには及ばず、失業者が急増している。現在、公式の統計では、登録している失業人口は600万人(失業率は3.1%)だが、一時帰休(下崗)の従業員を合わせて考えると、1700万人に達していると推計される。失業問題は、国民の最大の関心事となっており、社会の安定を維持するために、失業保険や年金など社会保障制度の整備が緊急な政策課題となっている。改革は常に痛みを伴うが、このように、労働市場の改革も例外ではない。しかし、問題の解決を先延ばそうとすると、そのコストがさらに大きくなることを中国の指導部は十分に認識している。

これに対して、日本ではワークシェアリングの導入は今年の春闘でも注目された。ワークシェアリングは一時的緊急避難措置としてその効果が期待されているが、中長期的には、市場経済の後退と政府の介入を招きかねないという副作用が予想される。ワークシェアリングを採用する企業は、常に従業員に生産性より高い給料を支払わなければならず、これは企業の競争力を損なう。このシステムを持続可能なものにするために、競争の相手である他の企業も同じようなハンディを負わなければならず、業界全体の協調体制が求められている。さらに、日本企業は世界中の相手と競争しなければならないので、国内企業だけ協調しても限界がある。そうなると、企業は雇用の維持と国際競争力の維持という大義名分の下で、政府の支援を求めるであろう。現に、自民党の労働政策推進議員連盟はワークシェアリングへの公的助成を提案するなど、こうした前兆が見られ始めている。

日本では、ワークシェアリングの成功例として、よくオランダをはじめとするヨーロッパの国々の経験が取り上げられているが、失敗例としての中国における国有企業の教訓も忘れてはいけない。そうしないと、将来、日本は進行中の中国における脱ワークシェアリングの経験を参考しなければならない日が来るかもしれない。

2002年3月29日掲載

2002年3月29日掲載