中国経済新論:実事求是

ユニクロ人気が意味するもの

関志雄
経済産業研究所 上席研究員

今や国民の8割がフリースを持っているという、ユニクロ人気が続く中、その背景にある日中間の経済協力の成功が注目されている。

10月に発表されたファーストリテイリング社の2001年8月決算によると、売上高は前年比83%、経常利益は同71%の伸びを示し、1000億円の大台に乗った。2000年8月期の売上高106%、経常利益327%増と比べると、伸び率こそ鈍化しているものの、依然圧倒的な強さを誇っている。

このユニクロ人気の源泉を探ると、そこには、中国の安価な労働力と日本の優れた技術力と生産システムをうまく組み合わせることによって、両国が持つ潜在的補完関係を発揮したことが背景にあると考えられる。ユニクロでは米国のGAPに代表される、SPA(製造小売業)と呼ばれる新しいビジネスを採り入れ、自国で企画・商品化した製品を、中国で委託生産し、日本へ輸入し販売するといった生産体制が採用されている。この形態においては、自前の工場を持たず、生産はすべて現地企業に委託するため、提携した企業同士のネットワークのみが重要になる。直接投資と比べると、ユニクロにとっては、現地での生産リスクが小さくなることに加え、提携企業を競争によって選別できるという、大きなメリットがある。

こうした新しいビジネス方式は、日中両国にとって、経済厚生を高める役割を果たしている。まず、中国にとっては、労働者の雇用に加え、日本の高い生産技術を享受することができる。ユニクロが他のSPAと違う点は、単に工場に生産を委託するだけでなく、生産現場にまで入り込んでいる点である。それによって、シーズンに応じた生産調整をきめ細やかに行い、生産と販売すべてを取り込んで一貫した管理を行っている。このため、ユニクロ方式は、ただの輸入ではなく、中国にも技術移転のメリットを供与する、開発輸入の形態に当てはまる。ユニクロは、従来の「Made in China」製品が持っていた、「安かろう、悪かろう」というイメージを刷新した点でも大きな貢献をしたといって良かろう。

日本においても、こうした生産管理や製品企画をする人材から、販売に携わる人材まで、雇用創出に貢献している。この点は、一般的な直接投資が、日本の雇用喪失につながることと比べ、対照的である。さらに、消費者に良品安価な製品を提供し、消費拡大に貢献しているのみならず、競争の増大を通じて、他の企業にも改革の圧力をかけるという効果もある。

一方、デフレ不況下にある日本では躍進著しいユニクロに対して、一部でバッシングも生じている。アナリスト達は、米国のSPA最大手であるGAPの失敗とユニクロを重ね合わせ、先行きを厳しく予想している。確かに、8月に続いて10月、11月にも既存店の売上高は前年割れをしており、出店数も減速感を生じ、これまでの高成長のペースが続くという予想はしづらい。ただし、ファーストリテイリング社が公表した、2002年8月の業績予想は、経常利益20%増となり、これまでの急成長からは鈍化しているものの、むしろ安定期に入ったと受け止められるものである。このような状況を、「ユニクロ神話の崩壊」と決め付けるのはまだ早計であろう。

本来、勝者の努力が報われ、敗者が退場を含め、懲罰されることは市場のルールである。しかし、最近の日本では、公的資金の導入を始めとする「負け組」となった企業への救済には熱心だが、「勝ち組」の企業に対しては逆に足を引っ張ろうとする動きが見られる。このような社会主義を思わせる悪平等を是正しなければ、日本経済は再建される見込みがない。

2001年12月7日掲載

2001年12月7日掲載