中国経済新論:実事求是

中国の一人勝ち・日本の一人勝ち

関志雄
経済産業研究所 上席研究員

世界経済が低迷している中で、中国が相対的に好調を続け、世界経済におけるプレゼンスを高めている。これを背景に、「中国の一人勝ち」という議論が連日のように新聞の紙面を賑わしている。しかし、中国はいまだ一人当たりGDPが1000ドル未満の発展途上国であることを考えれば、「一人勝ち」という表現を中国に当てはめることは必ずしも妥当でないように思われる。

サッカーのワールドカップ・トーナメントに譬えれば、中国は一次予選(WTO加盟)を通っただけで、本大会の出場(OECD加盟)の資格さえまだ得られていない。現状では、中国は人口が日本の10倍に当たるにもかかわらず、GDP規模はその4分の1に留まっている。東アジアに占めるGDPシェアは中国の15%に対して、日本が65%となっていることをあわせて考えると、「中国の一人勝ち」というよりも、いまだ「日本の一人勝ち」の状況が続いているといっても過言ではないであろう。

日中間に依然として厳然たる経済格差が存在しているにもかかわらず、なぜ日本は中国を勝者として認め、自ら敗北宣言をしてしまうのであろうか。中国経済の高い成長率に目が奪われ、その実力を過大評価している面もあろうが、本当の理由は経済停滞が長期化し、回復の見通しが立たない日本自身の自信喪失に求めるべきであろう。ボクシングの試合に譬えれば、これまですべてのラウンドを勝ち続けた日本が、1ラウンドを落としただけで、いずれKO負けを喫するのではないかとパニックに陥り、戦う意欲を失っている。日本は早くこうした自暴自棄の心理状態から脱しなければ、中国に後れをとることが現実となる日も近いかもしれない。

明治維新以来、日本は工業化の過程において、一貫してアジア各国をリードしてきただけに、「世界の工場」として中国が登場することから受けたショックは大きいであろう。しかし、冷静に考えて見れば、中国をはじめとするアジア各国の追い上げは、域内における南北格差の縮小を意味し、アジア地域の安定に寄与するはずである。言うまでもなく、この発展段階の収斂は、日本をはじめとする先発組の成長率の低下ではなく、中国をはじめとする後発組の高成長によって達成することが望ましい。現に、高度成長期を経てNIEs諸国・地域の一人当たりGDPがOECD諸国の水準に達し、日本がアジアにおける唯一の先進国である時代が終った。しかし、日本が構造改革に励めば、経済の相対的地位の低下は、国民生活の上昇と両立できるはずである。昨今のアジア金融危機が示唆するように、近隣諸国の貧困と混乱よりもその繁栄と安定のほうが日本の国益になることは言うまでもない。

2001年11月30日掲載

2001年11月30日掲載