中国では、80年代の対外開放以来、40数万人が留学を機に海外に渡っている。その中で、留学先に留まり、いろいろな分野で活躍する人も多い。しかし、世界経済の不況が深まるのとは対照的に中国経済が比較的に好調さを保っている中、こうした(元)留学生の間では帰国ラッシュがにわかに起こっている。大陸に帰国した者は、海外から戻ってきたという意味の「海(外)帰(来)」を捩って、「海亀」(中国語の帰と亀は同じ発音)と呼ばれる。「海亀」に加え、大学など何らかの形で海外に拠点を持ち続けながら、母国との間を行き来する「渡り鳥」(候鳥)も増えている。
海亀と渡り鳥の卵が留学生であることを反映して、その最大の産地は米国になっている。彼らの多くは米国の永住権を持ち、米国の大企業の駐在員として、対中ビジネス展開に大きな役割を担っている。残念ながら、米国組と比べ日本組は、人材が薄いせいか、それとも単にその才能を発揮できる場に恵まれていないせいか、その存在感が薄いといわざるを得ない。
中国政府は経済発展における留学生の役割に大きな期待を寄せており、彼らの帰国を促すために、住宅や給与などさまざまな面において優遇策を打ち出している。また、中国経済が発展するにつれて、海外との所得格差が縮まれば、留学生の帰国が一層加速するであろう。現に、財界、学界、官界など各分野において彼らの存在が目立ち始めており、中国の将来に大きな影響を与えることが予想される。
帰国組はもっとも大きな特徴がなんといっても高学歴であり、中国にとってまさに人材の宝庫である。たとえば、この2年間、北京の中関村を始め、中央政府に認定される53のハイテク・パークだけで、技術者を中心に10,000人を超える帰国者を迎えている。彼らは中国に絶えず最新の技術・知識をもたらし、海外での経験を活かした効率的で大胆な経営戦略によって、業界に新たな活力をもたらしている。学界においても、トップの大学を中心に帰国組が勢力を伸ばしている。この「中国経済新論」でもよく登場し、シカゴ大学の経済学の博士学位を持つ北京大学中国経済研究センターの林毅夫所長はまさにその代表選手の一人である。
一方、若手・中堅の官僚にも海外留学組が増えている。20年後には政府の重要ポストの大半が留学経験のある国際派で占められるようになるであろう。西側の政治、経済、文化のみならず、その価値観もよく理解する彼らが中国を動かし始めた時、政治体制と外交政策を始め、その変化は大きなものになるだろう。
2001年11月9日掲載