貿易黒字大国といわれてきた日本の黒字が変調を見せている。貿易黒字は、今年9月に前年同月比18.3%減となり、10カ月連続で減少した。この背景には、短期的には、世界的な景気低迷を背景にIT分野中心に輸出が伸び悩んでいるという要因が大きい。しかし、貿易黒字の減少は、年ベースでみると、ここ3年間一貫して減り続けており、98年と比較すると、2001年には全体で60%程度の水準にまで落ち込むと推定される。このため、日本の貿易黒字の減少には、より構造的な要因が背景にあるのではないか、との懸念が強まっている。
その一つとして、中国経済の躍進が、日本の経常黒字減少の主因ではないか、とする見方がある。たとえば、10月15日の「日経ビジネス」では、「特集:翔ぶ『世界の工場』中国」の中で、「輸出大国ニッポンが沈む」という衝撃的な記事を載せている。それによると、繊維製品に加え、オーディオ、テレビ、パソコンなどの機械機器を中心に、1980年代後半から中国からの輸入はほぼ二桁成長を続けている。今年前半には日本の輸入に占めるシェアは15%を超え、1位のアメリカの18.8%に接近した。この背景には、中国の改革開放政策の進展を受け、低賃金労働力と原材料コスト低減を求め、日本企業が生産拠点を中国に移す動きが本格化したことがある。また、工業化の推進を受けて、日本の輸出市場も中国に侵食されてきている。アメリカの輸入における冷蔵庫やオーディオといった製品のシェアは、既に中国が日本を追い越している。
確かに、日本の対中貿易赤字は、近年増加傾向にあり、2000年に続き、2001年も年間20%近く増えると推定される。しかし、日本の貿易黒字は1998年のピーク時と比べ、2001年には8兆円の減少が見込まれるが、そのうち中国による寄与は1兆円に止まっている。その上、現実の対中貿易は、直接貿易だけでなく、香港や台湾を経由した中継貿易や加工貿易も含まれることを勘案すると、実際の対中貿易の規模を知るためには、この3地域(すなわち、中華圏)を合計した数字で測るべきであろう。それによると、2000年の貿易黒字額10.7兆円に対し、対中赤字額は2.7兆円であったが、香港と台湾に対して大幅な黒字を計上しているため、3地域の合計では、日本側の2兆円の黒字となっている。
さらに、そもそも貿易・経常収支不均衡問題は、裏返すと貯蓄投資(IS)バランスの不均衡と同義である。日米貿易・経常収支不均衡問題が先鋭化した70~80年代にかけては、日本の黒字削減を要求するアメリカに対して、日本側は問題の本質は膨大な国内貯蓄に比べ、投資が低いことにあると主張し、内需拡大策を推進した(注)。これに対し、現在の日本のISバランスの悪化は、政府部門によるところが大きい。すなわち、問題解決の鍵を握るのは、民間部門ではなく、財政赤字の削減であるとみることができる。日米貿易摩擦で自らが主張したISバランス論に依拠せずに、対中貿易不均衡問題を議論するのは、問題のすり替えにつながりかねないことに注意したい。
2001年10月26日掲載