「粗放型成長」から「集約型成長」へ
中国では、2010年10月に開催された中国共産党第17期中央委員会第5回全体会議(五中全会)おいて、2011年から始まる「第12次五ヵ年計画」に関する党中央の提案が承認され、その中で、「経済発展パターンの転換」を加速させることは、最重要課題と位置付けられている。
ここでいう「経済発展パターンの転換」とは、「需要構造面における投資と輸出から消費へ」、「産業構造面における工業からサービス業へ」、そして「生産様式面における投入量の拡大(粗放型)から生産性の上昇(集約型)へ」という「三つの転換」を指す。そのうち、「生産様式面における投入量の拡大から生産性の上昇へ」の転換は、中国の中長期の成長性を考える上で、最も重要なファクターの一つであるとされている。
もっとも、改革開放以来の中国において高成長が達成できたのは、労働力や資本といった投入量が拡大しているからだけでなく、生産性の上昇によるところも大きい。企業による研究開発の推進や海外からの技術導入に加え、生産性の低い部門から生産性の高い部門へ資源を移していくことを意味する「産業の高度化」と「市場経済への移行」も、経済全体の生産性の飛躍的な向上に大きく寄与している(図1)。ここに来て、生産性の上昇が強調されるようになったのは、高齢化社会が近づくにつれて、生産年齢人口が伸びなくなり、貯蓄率も低下することにより、労働と資本投入による経済成長への寄与度が維持できなくなると予想されるからである。
進む産業の高度化
中国では、経済発展が進むにつれて、産業の高度化が進んでいる。1978年から2009年にかけて、農業部門(第一次産業)のGDPに占めるシェアは、28.2%から10.3%に、雇用に占めるシェアも70.5%から38.1%に低下している(図2)。その代わりに、工業部門(第二次産業)とサービス部門(第三次産業)のシェアは高まっている。
2009年に、農業部門は雇用の1%を以てGDPの0.27%(10.3%/38.1%)しか生産していない。このことは、農業部門の生産性が他の部門と比べて大きく下回っていることを意味する。これに対して、工業部門とサービス部門では雇用の1%を以てGDPの1.45%(〔100%-10.3%〕/〔100%-38.1%〕)を生産している。これらの数字をベースに、一人の農民が他の部門に移れば、その労働生産性は5.4(1.45%/0.27%)倍になると試算される。また、先進国では雇用全体に占める農民の割合はだいたい10%未満であることを考えれば、中国において、労働力が農業から他の産業に移っていく余地はまだ大きいと言える。
中国における産業の高度化は、第一次産業から第二次産業と第三次産業へのシフトにとどまらず、各産業内においても進んでいる。特に、工業部門では、自動車や鉄鋼などに牽引され、軽工業の代わりに重工業の割合が上昇している。
今回の五ヵ年計画に関する提案では、経済発展パターンの転換のために、産業の高度化を意味する「経済構造の戦略的調整」の必要性が強調されている。具体的に、現代的な産業システムの発展、産業のコア競争力の向上、製造業の改造とアップグレード、戦略的新興産業の育成と発展、サービス産業の発展の加速、現代的エネルギー産業と総合輸送システムの建設の強化、情報化水準の全面的向上、海洋経済の発展がその重点となる。
中でも、政府は、戦略的新興産業として、①省エネルギー・環境保護、②新世代の情報技術、③バイオテクノロジー、④ハイエンド製造設備、⑤新エネルギー、⑥新素材、⑦新エネルギー自動車といった7つの分野を積極的に支援する方針である(「戦略的新興産業の育成加速と発展に関する国務院の決定」、2010年10月10日)。
遅れた大型国有企業の民営化
一方、中国では、産業の高度化に加え、計画経済から市場経済への移行も進んでいる。それに伴い、国有企業の民営化が進む一方で、外資系企業や民営企業などの非国有企業が成長している。
国有企業の低効率は万国共通の現象であり、中国も例外ではない。実際、改革開放以来、経済成長率は国有企業のシェアの高い地域ほど低いという傾向が見られる(図3)。例えば、国有企業のシェアが高い黒龍江、吉林、遼寧からなる東北三省は、成長率が全国平均を大幅に下回っている。これに対して、多くの外資系企業が進出している広東省や、民営企業の活動が活発化している浙江省は、中国の中でも最も高い成長率を誇っている。また、中国は世界の工場と呼ばれながら、輸出の主役は外資系企業や民営企業といった非国有企業であり、国有企業のシェアはむしろ年々低下している(図4)。
このような認識に立って、中国政府は、1980年代から非国有企業の成長を奨励するようになり、また1990年代の半ば頃から、所有権改革(個別の国有企業を民営化すること)または「国退民進」(民営化や非国有企業の成長を通じて国有企業の経済全体に占める割合を下げること)の名の下で、実質的に国有企業の民営化を進めてきた。その結果、工業生産に占める国有企業の割合は、1978年の約8割から、現在の3割以下に低下してきている(図5)。
これまで、中国は、中小型国有企業を先行させる形で民営化を進めてきたが、その一方で、独占の地位を利用して巨大な利益を上げている大型国有企業の民営化は、既得権益層の反対に遭い、なかなか進んでいない。特に、2008年9月のリーマン・ショックとそれに対応するための政府の4兆元に上る景気対策の実施を受けて、それまでの「国退民進」とは逆に、インフラ建設や不動産開発を中心に、一部では「国進民退」の動きが目立っている。
今回の五ヵ年計画に関する提案においても、残念なことに、国有企業の民営化と民営企業の育成について、積極的姿勢が見られない。経済発展パターンの転換を加速させるために、更なる「国退民進」を中心とする市場化改革が求められている。
2010年10月29日掲載