中国経済新論:世界の中の中国

世界一の輸出大国となった中国
― 貿易大国から貿易強国へ ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー
野村資本市場研究所 シニアフェロー

改革開放以来、中国は貿易の自由化と直接投資の受け入れを通じて世界経済との一体化を進めており、2001年の世界貿易機関(WTO)加盟を経て、そのペースは一段と加速している。2009年に中国は、ドイツを抜いて、世界第1位の輸出大国と第2位の輸入大国となった。これを背景に、日米をはじめ、主要国にとって、中国は輸入先としてだけでなく、輸出先としての重要性も増している。中国では貿易の量的拡大とともに、その構造も途上国型から新興工業経済群(NIEs)型へと高度化してきており、輸出の中心は、従来の繊維をはじめとする軽工業品から機械などのより付加価値の高い製品に移ってきている。

飛躍的に拡大した貿易規模

中国の輸出入は、1978年には計206億ドルで世界第29位であり、2001年でもまだ世界第6位だった。だが2009年になると、輸出は1兆2,017億ドル、輸入は1兆56億ドルに達し、輸出入合計では2兆2,073億ドルと、米国に次ぐ世界第2位となっている。

輸出に限ってみると、2001年に6位だった輸出総額は中国のWTO加盟に伴い急速に増え続け、2002年には英国を抜いて第5位に、2003年にはフランスを抜いて第4位に、2004年には日本を抜いて第3位に、2007年には米国を抜いて世界第2位に、2009年にはついにドイツを抜いて世界第1位となった(図1)。

図1 日米独を上回って世界一となった中国の輸出規模
図1 日米独を上回って世界一となった中国の輸出規模
(出所)WTO, Statistics Databaseより作成、2009年は各国の通関統計より作成

中国における貿易拡大の担い手は外資企業である。1979年から2009年までの30年間、香港と台湾の企業を含む外資による対中投資の累計は9,400億ドルに達している。外資企業は中国において工業生産の30%のシェアを持つようになっており、中国の輸出全体に占める工業製品の割合も90%を超えている。

2009年の輸出と輸入に占める外資企業の割合はそれぞれ55.9%と54.2%となっている。また、輸出の48.8%と輸入の32.1%は加工貿易に分類される。ここでいう加工貿易とは、外資企業が原材料・資材などを中国企業に提供し、中国企業が外資企業の要求する品質・デザイン等に基づいて加工した後、外資企業が加工した製品を引き取り、中国側に加工賃を払う形態のことを指す。中国は輸出振興のために、外資企業と加工貿易に対して、税制面などで優遇している。多くの多国籍企業が、これらの優遇策と中国の安い労働力を生かして、中国を輸出のための生産基地として利用している。

中国が部品と機械を主に日本から輸入し、製品を主に米国に輸出するという「三角貿易」を反映して、中国にとって米国は最大の輸出相手国である一方で、日本は最大の輸入相手国である(表1)。中国の上位の輸出相手国・地域を見ると、先進工業国がその大半を占めている。これは中国における外資主導の加工貿易の主要輸出先が先進国市場であることを表している。また、香港が第2位にランクインしたのは、中国の対外貿易の中継地となっているためである。一方、輸入の主要国・地域を見ると、資本財や中間財の供給源である日本をはじめとする先進工業国に加え、オーストラリア、ブラジル、サウジアラビア、ロシアといった資源国が上位を占めている。

表1 中国の主要貿易相手国・地域(2009年)
表1 中国の主要貿易相手国・地域(2009年)
(出所)中国の通関統計より作成

一方、日米をはじめとする主要先進国にとって、貿易相手国としての中国の重要性が高まっている。日本にとって2002年以降中国は米国に代わり最大の輸入相手国となっており、2009年には、対中輸出も対米輸出を上回るようになった(表2)。米国にとっても中国はすでに隣国のカナダとメキシコを抜いて、最大の輸入相手国となっている(表3)。

表2 日本の主要貿易相手国・地域(2009年)
表2 日本の主要貿易相手国・地域(2009年)
(出所)日本の通関統計より作成
表3 米国の主要貿易相手国・地域(2009年)
表3 米国の主要貿易相手国・地域(2009年)
(出所)米国の通関統計より作成

進む貿易構造の高度化

近年、中国では貿易額が拡大しているだけでなく、その構造の高度化も進んでいる。

まず、輸入においても、輸出においても、加工貿易のシェアが低下している(図2)。その代わりに、より付加価値の高い一般貿易のシェアが上昇している。特に輸出よりも輸入における加工貿易のシェアの低下が目立っており、これを反映して、加工貿易の付加価値比率が高まってきている。

図2 加工貿易の変化から見た貿易構造の高度化
図2 加工貿易の変化から見た貿易構造の高度化
(注)加工貿易の付加価値比率=(加工貿易輸出―加工貿易輸入)/加工貿易輸出
(出所)中国国家統計局『中国統計摘要』2009、2009年データは中国通関統計より作成

加工貿易の変化に加えて、輸出入の品目別構成の変化も貿易構造の高度化を示している。

日本をはじめ多くの国では、経済発展とともに輸出の中心が一次産業から工業製品へ、工業製品の中では労働集約型製品から資本・技術集約型製品へと移っていくというパターンが見られる。これは主要品目の特化係数(輸出と輸入の差を輸出と輸入の和で割ったもの、その値が大きいほど国際競争力が強いことを示す)の推移を追うことで確認できる(図3)。具体的に、一次産品(SITC0―4部)、一般製品(同5、6、8、9部、機械類を除く製品を指す)、機械類(同7部)のそれぞれの特化係数の相対的大きさによって、一国の貿易構造は、発展途上国型、未成熟NIEs型、成熟NIEs型、そして先進工業国型という4つの段階に分類することができる。

図3 高度化する中国の貿易構造
図3 高度化する中国の貿易構造
(注)貿易構造の諸段階
特化係数
発展途上国型一次産品>一般製品>機械類
未成熟NIEs型一般製品>一次産品>機械類
成熟NIEs型一般製品>機械類>一次産品
先進工業国型機械類>一般製品>一次産品
特化係数=(輸出-輸入)/(輸出+輸入)
(出所)中国の通関統計より作成

この枠組みに沿って言えば、80年代の初め、改革開放政策に転じた当初、中国は一次産品を輸出し、機械類を輸入する典型的な発展途上国型の貿易構造を持っていた。香港と台湾から労働集約型産業の移転が進むにつれて、衣料品を中心に中国の一般製品の競争力が急速に伸び、特化係数で見て1992年には一次産品を上回るようになった。これをもって、中国の貿易構造は発展途上国型から未成熟NIEs型に移行した。これよりやや遅れて機械産業の特化係数も徐々に上昇し、1999年には一次産品のそれを抜き、中国は成熟NIEs型の段階に邁進した。2001年のWTOへの加盟をきっかけに、中国は貿易構造の高度化がいっそう進み、先進工業国型に近づいている。このように、中国は貿易大国にとどまらずに、貿易強国に向けて邁進している。

2010年2月24日掲載

2010年2月24日掲載