中国経済新論:世界の中の中国

拡大する内外不均衡への診断書と処方箋

林毅夫
北京大学中国経済研究センター所長(論文発表当時)

1970年代末に改革・開放が始まってから、中国経済は、実質GDP(国内総生産)が年平均9.7%で成長し、対外貿易が年平均17.2%で増加するという目覚しい成果を上げた。2006年現在、中国の経済規模はすでに世界第4位に躍進し、対外貿易規模は世界第3位、外資導入額は世界第2位、外貨準備高は世界一となった。貧困人口の比率は1978年の30.7%から、2006年に2.3%に低下し、2.3億人が貧困から脱した。13億以上の人口を擁する大国がこのような高成長を遂げたことは人類の経済史における奇跡と言える。特に、2003年以降の成長ぶりは凄まじい。実質GDPは4年連続の前年比10%の成長、対外貿易額は年平均29.8%増、都市部住民の一人当たり可処分所得と農村部住民の一人当たり純収入は各々年平均9.2%増、6.2%増を記録し、消費者物価指数と小売物価指数は比較的低水準に維持されている。この数年間は、改革・開放以来の最も良い時期である。

このような成果が得られたのは、経済・法律・行政の手段を活用して、改革の過程に生じた困難をひとつずつ克服してきたからである。しかし、古い問題が解決された一方で、現在、中国では内外不均衡という新しい問題が生じている。この問題を解決しなければ、社会の調和と経済発展の持続性は揺るがされる。本文は、この問題について分析し、その原因を明らかにした上で対策を提案する。内外不均衡問題は、改革の不徹底に起因するところがあり、また急速な発展を遂げる国にとって避けることのできない問題でもある。中国は、科学的発展観に基づき、社会主義市場経済システムを整備しながら、途上国という国情に基づき、政府がマクロ・コントロールの担い手としての役割を果たさなければならない。

一、中国経済の内外不均衡問題の現状

中国の内外不均衡問題は、次の6点に現れている。

第一に、都市と農村の格差である。改革初期において、中国の都市と農村の所得格差は1978年の2.6:1から1984年の1.8:1に低下した時期があった。しかしその後、拡大に転じ、2006年に3.3:1に達した。世界平均は1.8:1であり、中国の1984年の水準に相当する。中国は、都市と農村の格差が最も大きい国となった。さらに深刻な点は、中国政府は近年格差問題を重視し、対策を講じているものの、格差の拡大がとまらないことである。第9次五ヵ年計画期間(1996~2000年)中に、農村部の一人当たり純収入の伸び率は年平均4.7%増、都市部の一人当たり可処分所得の伸び率は同5.7%増であったが、第10次五ヵ年計画期間(2001~05年)中は各々5.3%増、9.6%増となった。農村の状況は2006年にやや好転し、一人当たり純収入の伸び率は7.4%増に加速したが、都市部の一人当たり可処分所得の伸び率はもっと高く、10.4%であった。現状から見て、今後の10年間、農村部の一人当たり純収入が年平均7%増を保てばいい方である。その場合、2006年には3587元だった農村の一人当たり純収入は、10年後の2016年には7056元にまで増えることになる。しかし、一方で都市部の一人当たり可処分所得をみると、今後10年間の年平均伸び率は9%以上になる可能性が高い。それゆえ、2006年には11,759元だったものが、10年後の2016年には29,408元に増加する。このペースでいくと、根本的な変化が起きなければ、10年後の都市と農村の所得格差は4.1:1に拡大する。現在の3.3:1の格差はすでに世界最高の水準にあり、4.1以上の格差となれば、想像を絶する多くの問題が発生することになろう。

第二に、所得分配の格差である。改革当初、中国の所得分配は比較的均等で、ジニ係数はおおむね0.3であったが、現在は0.45に上昇している。専門家たちがいかにこの数字が正しいかどうかについて議論したり、地域間の購買力平価や、実物支給、隠れ補填などでこの数字を改善する方法を提案しようとも、所得分配の格差が拡大しているという事実は否めない。

中国人は古くから「寡(すくな)きを患(うれ)えずして、均(ひと)しからざるを患う」という思想を持っている。特に社会主義のイデオロギーは、富が均等に分配されることを目標としている。改革・開放後、個々人の所得は、絶対貧困層を含めて、都市部においても農村部においても改革・開放前に比べ大きく増加した。しかし、所得格差が拡大している中、一部の人は毛沢東の時代は良かったと懐かしく思うようになった。貧しかったけれども、みんなが同じく貧しいので不公平感はなかった。今は豊かな者と貧しい者の差が大きすぎる。このため、所得格差が縮小しなければ、今後経済成長が高くても、社会における不協和音は消えない。

第三に、投資の過熱と消費の相対的伸び悩みである。2003年以降、固定資産投資の伸び率は毎年25%前後で推移し、国内総生産に占める資本形成の割合は40%を超えている。一方、最終消費支出の割合は2001年の61.4%から、2006年の50.0%へと低下している。ここ数年、政府は、経済、法律、行政など様々な分野で政策を講じ、金利と土地価格を調整したり、投資に関する「有保有圧」〔訳注:投資を一律抑制するのではなく、促進する分野と抑制する分野に分けて対応する〕政策を実施したりしながら、消費拡大に取り組んでいる。しかし、大きな成果を上げておらず、投資の伸び率は一時僅かに鈍化したものの再び加速している。投資は生産能力の拡大、ひいては供給増加につながる。投資の高い伸びが続く中、1997年以降顕在化した生産能力過剰の解消は困難さを増している。

第四に、一部の産業に集中する投資ブームの発生である。近年、中国では投資が急速に伸びているだけでなく、ある時期に少数の産業に集中して行われている。2003~05年の間に不動産、自動車、建材、2006年に化学工業に対する投資ブームが波のように押し寄せてきた。これらの産業は投資の完了とともに生産能力が過剰になる。そして競争が激化し、価格が低下するため、多くの企業は投資の元本を回収できなくなり、銀行の不良債権も増え、深刻な場合、金融・経済危機が誘発される可能性すらある。

第五に、資本収支と経常収支の「双子の黒字」である。1994年以降、中国の経常収支と資本収支は毎年黒字を計上している。経常黒字は1994年の77億ドルから2006年の2,533億ドルに増加している。

直接投資を中心とする外資利用(実績ベース)は1994年に432億ドルだったものが、2006年には735億ドルに増えた。。双子の黒字により、外貨準備は1994年の516億ドルから、2006年末の10,663億ドルに急増し、2007年6月末には13,326億ドルという新記録に達した。外貨準備の大幅な増加は、人民元上昇の圧力を強め、人民元の切り上げを狙った投機を誘発した。中国の資本勘定は規制が敷かれているが、経常勘定は自由化されているため、人民元に対する投機を防ぐことが難しい。投機資金は、入ってきても単に銀行に預け金利を受け取ることに満足することはなく、不動産、株式といったより高いリターンを稼げるチャネルを求める。このため、現状の資産バブルはまだ続く可能性が高い。

第六に、資源、環境面の圧力が大きいことである。中国は経済発展のために資源面で大きな代価を払っている。2006年に、中国のGDPは世界の5.5%を占めていたのに対し、エネルギーの消費量は世界の15%、鋼材の消費量は同30%、セメントの消費量は同54%に達している。電力とエネルギー消費のGDPに対する弾力性は、90年代初の各々0.5、0.8から、2003年と2004年に共に約1.5に上昇した。第11次五ヵ年計画(2006~2010年)では、2010年までに単位GDPあたりのエネルギー消費を20%、主要汚染物質の排出量を10%削減する目標が打ち出されたが、2006年に各々4%、2%の削減にとどまり、年間削減目標を達成できなかった。また、環境汚染に関する事例もよくニュースで報道される。太湖の藍藻の異常発生はその一例である。世界銀行の報告によれば、少な目に推計しても、中国が90年代に空気と水の汚染によって被った経済的損失はGDPの約8%に達するという。このような状況はいまだに根本的に好転していない。

二、内外不均衡問題の原因

以上は現在の中国経済にすでに現れ、今後5~10年間に引き続き存在すると見られる構造とメカニズムに関わる問題である。これら問題は、改革が不徹底だったことに起因するものもあれば、発展の途上であることに因む問題もあり、また、地方役人のインセンティブ・メカニズムと法制に由来する問題もある。

1. 改革の不徹底

都市と農村の所得格差の拡大と所得分配の不公平をもたらしたのは、改革の不徹底である。具体的には、歪められた金融システム、資源にかかわる税・料金体系の歪み、政府独占などが挙げられる。この中で、歪められた金融システムは、最も重要な原因である。

(1)金融システム
改革前は財政が金融の役割を代替していたが、改革後、大型国有企業を支援するため、四大国有銀行を中心とする金融構造が作られた。近年、株式市場の役割が高まっているものの、資金調達面で見ると、株式市場を通じた資金調達は銀行融資に比べまだ少ない。四大商業銀行にある人民元資金は、金融システム全体の人民元資金の75%を占める。このような大銀行を中心とする金融システムでは、中小企業、特に小企業はほとんど銀行融資を受けることができない。金融サービスを受けられない労働集約型の中小企業の発展は相対的に遅れている。サービス業と製造業を含めた労働集約型中小企業の発展の遅れにより、雇用機会が創出されず、農村の大量の余剰労働力が非農業に転換できないでいる。そのため都市と農村の二重経済構造の解消が困難であるだけでなく、都市部における失業者の大量発生、都市と農村の格差拡大と所得分配の不公平などの問題が生じている。

中国と同じような発展段階にある国では、銀行貸出金利は約10%であるのに対し、中国は6%に過ぎない。預金・貸出金利の利ざやは一般的に1%程度だが、中国の預金金利は2%強で、利ざやは3%ポイントを超えている。すなわち、中国では、預金者は低い預金金利に甘んじて借り手と銀行に補填することになっている。その結果、様々な弊害が生じた。企業にとって資金調達コストが低いため、資本集約度の高いプロジェクトに投資する傾向が強く、限られた雇用機会しか創出されない。さらに、大銀行から借入れができる企業は一般的に裕福であるにもかかわらず、実質的には相対的に貧しい預金者から補助金を受けていることになる。このことは、都市と農村の格差と所得の不公平を一層悪化させる。

(2)資源税・料金
改革前、中国は資源の価格を抑えることを通じて重工業の発展を支援していた。政府は鉱山開発権を国有鉱山企業に無償で与え、国有鉱山企業が鉱山資源を開発・採掘した。改革後、市場競争が導入され、民営企業と外資系企業による資源開発採掘業への参入が認められるようになった。当初、資源価格は依然として人為的に低く抑えられた上、国有鉱山企業は定年退職者や余剰人員など社会的負担を背負っていたことから、国有鉱山企業に補填するため、国は資源税と資源開発補償費の徴収をごく僅かにとどめることにした。二者合わせても平均水準は1.8%に過ぎない。90年初から、鉱物資源価格は徐々に自由化され、国際価格に近づいたが、資源税は依然として従来の水準に据え置かれた。この結果、定年退職者や余剰人員といった社会的負担を抱えていない民営企業と外資系企業にとって、鉱山開発は巨利を生み出すビジネスになっている。これが所得分配の不公平を悪化させるだけでなく、鉱山開発権を獲得するための不正行為ももたらしている。

(3)政府独占
改革前、国有企業を保護する方法のひとつは、独占的な地位を与え、独占的利益を獲得させることであった。改革後、多くの業種に市場競争が導入されたが、金融、電力、通信などは依然として国有独占が維持されている。これら独占的国有企業は法人税を納付した後、残された利益は企業自身で処分できた。このため、独占業種の国有企業の賃金は、ほかの業種の国有企業と政府職員の賃金を上回るようになり、国有企業間の所得分配の不公平を生んだ。しかも、独占的利益に惹きつけられ、民営企業と外資系企業は、非合法的手段を含め、様々な方法で参入を図った。これが社会のモラルを低下させた原因のひとつでもある。

2. 発展途上

(1)投資の急速な伸びと消費の低迷の原因
まず、中国は、中所得国の段階に入ったばかりの途上国である。このため、多くの産業が生産能力過剰になっているものの、産業高度化の余地がまだ大きく、投資機会が非常に多い。

次に、所得分配の不公平性に加え、富が大企業を経営する富豪たちに集中している。しかし、富豪たちの消費性向は低い上、巨額な投資資金を有しながら銀行からも投資資金を獲得できる。これでは投資意欲を抑えることが難しい。一方、低所得者層は消費性向が比較的高いものの、不公平な所得分配の下で消費意欲を現実化し難い。結果として、社会全体で消費不足となった。

第三に、外国からの大量な直接投資の流入である。第9次五ヵ年計画期間(1996~2000年)中、対中直接投資額は年平均427億ドルで、第10次五ヵ年計画期間(2001~05年)中には548億ドル、さらに2006年には695億ドルに増加し、米国に次ぐ外資直接投資の流入国となった。対中直接投資の狙いは二つある。ひとつは、中国市場への参入である。2006年の中国の一人当たりGDPは僅か2000ドルで、米国の一人当たりGDPの5%に過ぎない。しかし、国際通貨基金の推計によれば、購買力平価で計算された一人当たりGDPは、政府公定為替レートで計算される一人当たりGDPの3~4倍になる。すなわち、中国の一人当たりGDPは米国の15~20%になる。一方、中国の人口は米国の約4.5倍である。購買力平価で計算すると、中国の市場規模は米国の約70%に相当する。中国の年間経済成長率が米国の3~4倍であることを合わせて考えると、先進国企業にとって中国市場は魅力が大きい。

もうひとつの狙いは、中国を輸出加工基地として、加工・輸出の工場を設立することである。中国の労働力は相対的に安く、インフラも整備されている。改革・開放後、珠江デルタ、長江デルタなど多くの産業集積地が形成され、生産、交通、輸送の効率が高い。中国より経済が発達している海外の国・地域は、労働力価格の上昇を受け、労働集約型産業を中国に移転し、中国を輸出加工基地として使用するのである。

(2)投資ブーム発生の原因
まず、ブームの発生は、中国が急成長中の途上国であることに由来する。一般的に、先進国の産業は世界の産業チェーンの最先端に位置し、企業の間で次の競争優位をもつ産業が何かについてコンセンサスがなく、政府も企業より多くの情報を持っておらず、各企業は自分自身の判断で投資を決める。この過程において、大多数の企業が投資に失敗し、ごく僅かの企業が成功する。先進国の産業高度化は成功した少数の企業に牽引される。

だが途上国の状況は違う。産業高度化は基本的に先進国が歩んだ道を段階的に進んでいく。ゆえに、経済発展の水準が向上し、どの産業が次の段階で比較優位にふさわしいかを考える時、参考の対象となる国があり、産業界でのコンセンサス形成が容易である。このため、多くの投資が同じ産業に向けられ、「コモンズの悲劇」のような苦境に陥る。もし少数あるいは適切な数量の企業だけが比較優位に見合った新しい産業に参入すれば、確実に競争力を持って多額の利益を獲得することができる。しかし、参入する企業が多すぎると、生産能力が過剰になり、競争が激しくなるだけでなく、さらにデフレを誘発する。凄まじい戦いを経て、多くの企業が倒産し、銀行の不良債権が増え、深刻な場合、金融経済危機を誘発する。このような現象は急速に発展している途上国において繰り返し現れる。

次に、中国の銀行システムは巨額な超過準備を抱えており、過剰流動性が生じている。銀行は預貸利ざやを稼ぐため積極的に投資を支援する。中国の銀行システムは四大銀行を中心としており、投資プロジェクトに対する四銀行の判断も似通っているため、投資ブームを加速させた。

(3)双子の黒字の発生原因
資本収支の黒字は、先に分析したように、外国投資家が中国を輸出加工基地とする目的のほか、中国市場に参入するために中国に投資することと関連する。また、中国が改革・開放の初期に国内貯蓄と外貨の両方が不足するという典型的な「二つの不足」を抱える途上国経済であることとも関連する。発展のボトルネックを解消するため、中国は80年代半ばに各種優遇政策を制定し外資誘致に乗り出した。90年代末になると、中国の国内貯蓄と外貨は発展の制約要因でなくなり、優遇政策は最近になってようやく変化が見られた。

一方、経常収支の黒字は、投資ブームによる生産能力過剰に加え、国内消費が相対的に弱いため輸出を増やしたことによってもたらされた。資本収支の黒字と同様に、改革・開放の初期において外貨不足という問題を克服するため、80年代半ばに輸出を奨励する各種の税還付政策が制定された。1997~1998年にアジア金融危機が勃発した中、中国は人民元を切り下げず、その代わりに輸出品目の付加価値税の還付を強化して輸出競争力を補った。その後もこれらの政策は続けられていた。経常収支の黒字は内部要因によるほか、外部要因とも関連する。すなわち、財政赤字に加え、家計貯蓄率が低く国内需要が国内供給を上回る米国は、海外からの供給で均衡を図るため経常収支が赤字になったことである。1991年に、米国の経常収支は対GDP比0.1%の黒字であったが、1992年には対GDP比0.8%の赤字に転じた。その後、経常収支赤字の対GDP比が上昇の一途をたどり、2005年に6.6%に達した。米国は世界最大の経済規模を擁しており、貿易赤字の対GDP比の高水準は、米国と密接な貿易関係を持つほかの国の巨額な貿易黒字になるのは必然的な結果である。2005年以降の経常収支黒字の急増については、人民元レートの上昇を狙った投機と関連する。中国の資本勘定はまだ完全に自由化されておらず、投資家は、輸出額の過大申告や、輸入額の過少申告、あるいは偽の技術移転など様々な方法で中国に外貨を流入させ、中国の経常収支黒字の増大をもたらした。日本と台湾が80年代に切り上げの圧力に直面していた時にも同じようなことが発生していた。

3. 地方役人のインセンティブと法制上の問題

資源、環境問題の原因は様々である。まず、中国はまだ製造業を主とする工業化段階にあり、経済の発展はエネルギー・資源の使用増、環境への圧力を伴う。この点は、サービス業が国内総生産の70%を占める先進国の発展モデルと異なる。また、前述したように中国の金融構造は労働集約型の中小企業の生存にとって不利であり、サービス産業の発展を妨げ、経済発展における資源と環境の制約をより厳しいものにする。次に、中国のエネルギー・資源の価格が不合理な面をもつことである。エネルギー・資源を節約するための技術の使用に伴うコスト増はエネルギー・資源の節約のメリットより大きく、企業にとって節約するインセンティブがない。同じように、汚染物質排出の設備とその運営は企業のコスト増につながる。さらに、目標に達成していない企業に対する罰則が緩いため、企業は汚染物質排出の設備を保有していても作動させない。第三に、地方役人の昇進・評価において、GDP成長率が主な要件となっており、資源の節約と環境の改善が重要な要件ではない。また、産業を発展させれば地方の税収も増えるが、エネルギーと環境指標に基づいて監督すると、企業のコストの増大につながる。このため、一部の地方役人は、企業がエネルギー・資源と環境の基準を満たしていなくとも見て見ぬふりをする。

三、政策提案

前述した内外不均衡問題の原因について、まず改革の不徹底の点に関しては、2007年の金融工作会議で打ち出された金融構造の改善方針に基づき、中小銀行、農村銀行、小額貸出など地方の中小金融を発展させることで、労働集約型の中小企業と農家を支援し、より多くの雇用機会を創出し、農村労働力の移転と近代農業の発展を促進し、都市と農村の格差を縮小する施策をとるべきである。次に、金利を自由化し、貸出と預金の金利を適切な水準に戻し、預金者が大企業に補填するという問題を解消することで、所得格差の縮小を図る。預金金利が高くなれば、株式市場での過熱も解消されるだろう。

資源税は合理的な水準にまで引き上げるべきである。米国では陸上石油の採掘権料は12%、海上石油は15%であり、これに加え、原油価格が一定のレベルにまで上昇すると「超過利潤税」が課税される。先進国の資源採掘において、利益の50%は国に納めることになることが一般的である。

独占的産業については、開放すべき産業は開放し、開放できない産業は、価格、コスト、利益配分に対する監督・管理を強化しなければならない。

投資の伸び率が高すぎて消費が相対的に弱いことについては、中小企業の発展の奨励、雇用機会の創出、所得分配の改善、消費性向の向上などを通じて、投資比率を合理的な水準に引き下げるべきである。また、外資優遇政策を見直す必要がある。資金量を外資優遇政策の根拠とするのではなく、技術・管理ノウハウの水準、地域発展のニーズに基づいて投資奨励政策を策定すべきである。

途上国では、急速な発展に伴う投資ブームが発生しやすいため、途上国政府のマクロ・コントロール機能には、周期的に一部産業への投資の過度集中を防ぐことを含めるべきである。個別企業の立場から見ると、ほかの人が儲かっているのに、なぜ自分が参入できないのか納得しがたいが、みんなが参入すれば、生産能力過剰になり、内外不均衡を加速するだけでなく、一部の人が最終的に必ず退場することになるため、資源の無駄使いになる。このため、途上国の政府は、産業高度化を目指すべく、方策を講じなければならない。むろん政府が、誰が投資できるか、誰が投資できないかを決めるという意味ではない。技術や自己資金などの参入要件を作り、銀行貸出に過度に依存する企業や、要件を満たさない企業の参入を防ぎ、また企業が投資の際に参考となる産業投資状況や将来の需給状況に関する情報を適時に発表することもできる。

双子の黒字に関する問題は長期にわたって存在する可能性があり、その結果、人民元の切り上げ圧力が続く。しかし、2003年と2004年に人民元レートが国際的な注目を浴びた時、当時の中国の黒字額は1998年と1999年よりも少なかった。1998年と1999年に、人民元を切り下げるべきという論調が主流だったが、2003年と2004年には切り上げるべきという論調に変わった。また、中国の経常黒字の対GDP比は2003年に1.7%、2004年に3.4%に過ぎず、同時期の日本の3.7%、シンガポールの19.8%、台湾の6.6%、韓国の4.2%、マレーシアの3.7%、タイの4%よりも低い。だが海外では、これらの国・地域の通貨を大幅に切り上げるべきという議論がなく、中国の通貨だけが大幅な切り上げが必要であるという。

人民元レートの問題は、為替レートが均衡レートから大きく乖離していることに由来するのではない。確かにすでに政治的圧力と市場の期待が形成されているが、中国の受けているプレッシャーは、果たして大幅な切り上げによって解決できるのか。その答えはノーである。80年代、台湾と日本において資産バブルが発生した際、国内資金が資本市場に流入し続けた。台湾では為替レートが1986年に40%上昇したにもかかわらず、株価指数は1985年7月の636ポイントから1990年2月の12,600ポイントに急騰した。また、日本の日経平均株価指数も1985年末の1万円から1989年の4万円まで上昇した。いずれも為替レートの大幅な切り上げ後に2~3年間続いていた。

現在、人民元の切り上げを見込んだ大量なホットマネーが中国に流れ込み、資産価格の高騰をもたらしている。中国も、台湾と日本と同様に為替レートが大幅に上昇しても、株価指数の大幅な上昇が依然として続く可能性が高い。さらに、経常黒字は国内の過剰な生産能力と米国の貯蓄不足による構造的要因によってもたらされているため、為替レートの調整で構造問題を解決することは難しい。為替上昇の1年目に、輸出が減少する可能性はあるほか、国内の過剰生産能力の問題を深刻化させ、価格下落さらにはデフレを引き起こすこともありうる。価格下落は為替切り上げによる実態価格への影響を打ち消し、経常黒字は切り上げ前の水準に戻る。日本と台湾では、大幅な切り上げの1、2年後に貿易黒字が元の水準あるいはそれ以上の水準に戻った。このように大幅な切り上げにより、国内経済は大きなコストを払わなければならないが、構造問題の解決はなされない。

この二つの悪影響を考えると、年間3%程度の小幅な切り上げの方が妥当である。毎年3%ずつ切り上げれば、10年間で34%の為替上昇となり、かなり大きな調整になる。中国はまだ完全に資本自由化を実施していないため、人民元レートを対象として投機するコストが高い。年間3%ずつの切り上げであれば、切り上げを狙った投機を行っても多く儲けることができない。投機家が同時に株式に仕掛ける場合を想定して、株式市場のソフトランディングのための対策も採るべきである。そうすれば株式市場に対して投機を行っても儲けることができない。ホットマネーの唯一の目的は金儲けである。為替市場でも株式市場でも儲かることができなければ、投機しなくなる。

最後に、資源と環境の問題である。まず、資源価格を合理的な水準にまで引き上げ、企業が自発的にエネルギーと資源を節約するというモチベーションを高めるべきである。もっと高い環境基準を設けた上、罰則とその執行を厳格化し、法律遵守のコストを違法のコストより安くするなどの施策をとるべきである。次に、科学発展観に基づいた地方役人の評価・昇進の基準を制定し、企業がエネルギー節約と環境保護に動くように誘導するモチベーションを地方役人に持たせなければならない。

2008年7月24日掲載

出所

『中国発展観察』2007年第8期「内外失衡条件下的政策選択
※和訳の掲載にあたり著者の許可を頂いている

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