東アジア経済協力の問題において、日中経済協力は最も重要な位置を占めている。事実上、この二十数年間、日本は中国にとって非常に重要な貿易相手国であり続けている。日中貿易は中国にとっては国際分業に参入する重要なルートであり、日本は中国にとって、最大の輸入相手国と第二の輸出相手国である。中国側の統計によると、2001年、中国の対日輸出は449億ドル(輸出全体の16.9%)、対日輸入は428億ドル(輸入全体の17.6%)に達している。一方、日本側の統計によると、対中輸出は311億ドル(輸出全体の7.7%)、対中輸入は581億ドル(輸入全体の16.6%)と、ともに第二位の相手国となっている(表)。これと同時に、日本は中国にとって最も重要な投資出資国の一つであり、過去十年間、日本の対中投資は投資出資国の第二位ないし第三位であった。
戦後初期の日本と同様、中国経済の発展方針は国民所得水準が先進諸国に追いつくことである。今後50年ないし100年も、こうした努力が続くだろう。先進諸国に追いつくという目標を実現するために、技術進歩と制度革新による生産性の上昇が求められた。このために、改革初期には、労働者と経営者にかかわるインセンティブ・メカニズムの改善が図られたが、その後、国有企業改革を中心とする体制改革が推進されると同時に、外向型の発展戦略も重要視されるようになった。
国際分業に積極的に参加しながら、中国は一貫して産業構造と輸出構造の高度化を重視してきた。改革・開放の初期、外国企業が発注し、そして原材料と技術を提供する加工貿易は、雇用の拡大や外貨稼ぎに大きく貢献した。大量に輸入された各種の原材料と中間製品は中国の伝統産業に競争力をもたらした。その後、設備や生産ラインの導入は、中国産業構造と輸出構造の高度化と企業の技術と管理水準の向上に大きく貢献した。激しい競争によって、企業は製品コストの削減、製品の品質向上の必要に迫られた。国内市場の飽和に伴い、企業は次第に国際市場に目を向けるようになった。改革・開放の初期、中国に投資している多国籍企業の殆どは、香港及び他の東アジア地域の中小企業であった。90年代半ば以降、大型の多国籍企業、特にFORTUNE誌にトップ五百社とランクされた多国籍企業は大挙して中国への進出を果した。多国籍企業の進出によって、資本だけではなく、最新の技術が導入されることを中国は望んでいる。事実、多くの多国籍企業は中国において、R&D部門を次々と設立した。
日中経済協力の初期に、中国は日本から資本財と技術集約度の高い耐久消費財を輸入した。逆に、中国は日本に対して、技術集約度と資本集約度がともに低い労働集約型製品を輸出した。両国の経済協力の基本的特徴は、「有無相通、互恵互利」であり、両国間に貿易摩擦は殆ど存在しなかった。資本財(生産ライン)の提供国として、日本は中国の産業高度化の実現に重要な貢献を果した。例えば、70年代末、中国は日本から製鋼の設備をまるごと導入し、先進的な宝山鉄鋼公司を設立した。80年代、90年代には、カラーテレビ、ラジカセ、洗濯機、エアコンなどの生産ラインを導入した。これをテコに、中国の電器製品を、世界市場において、軽視できない重要な存在へと変身させた。中間製品と原材料の提供国として、日本は中国にとって、大変重要である。例えば、中国では高品質の服装生地を生産する能力に欠けていたときに、日本ないし他の国々から輸入された生地は、中国の衣類輸出の拡大にとって、重要な役割を果した。日中両国の貿易において、日本の商社や中小企業は、原材料の提供、技術の指導、そして市場の提供などの面において、重要な役割を果し、それらの努力なしでは今日のような日中両国の貿易の繁栄がありえなかった。
中国の産業と輸出構造を高度化させる努力は、対日の輸出構造を大きく変えた。輸出に占める製品の比率は、1990年の40%から2001年の81.4%まで上昇し、その中、OA設備及び通信設備の輸出比率は1990年の0.5%から2001年の13.3%に上昇した。その他の重要な製品、例えば、電器製品、輸送機械及びその他の自動化設備の輸出も大きく拡大した。同時に、中国の対日輸出に占める一次産品ないし技術と資本集約度の低い製品のシェアも明らかに減少した。2001年の中国対日輸出のうち、最も重要な商品は、衣類(26.5%)、機械類(26.5%)、通信設備(8.0%)、繊維(4.2%)と化学製品(3.5%)であった。
このように、日中両国の貿易関係は中国が国際分業への参入と産業構造及び輸出構造の高度化に必要な条件を提供している。一方、中国は日中貿易の唯一の受益者ではない。日本の対中輸出も大きく拡大したのである。
より重要なことは、日本経済の回復には企業の競争力の上昇が欠かせないということである。私は、日本企業が競争力に欠けていた根本的な原因は、日本の労働コストが高すぎ、さらにその原因が日本人の生活費用が高すぎる(当然、日本の文化伝統、社会経済制度も労働コスト高騰の重要な原因である)ことにあると考えている。生活費用を下げるために、日本政府は財政などの手段を導入し、国民の生活負担を軽減しなければならない。事実、中国は日本市場に廉価消費財や中間財を提供し、日本における生産コストの削減や日本製品の国際競争力の上昇にも有益な条件を提供してきた。中国からの廉価輸入が日本のデフレを深刻化させた考え方は不当である。
農産品をめぐる紛争にもかかわらず、日中両国の貿易関係は良好であるといえよう。中国側は、日本が構造改革を展開する過程の中での困難を理解し、対日輸出の過大な拡大によって引き起こされた貿易摩擦を回避すべきである。また、日本側も「中国脅威論」を大いに宣伝するより、構造改革を加速しなければならない。中国経済は日本より30-40年も遅れ、日中両国の経済は競争的というより、高度の補完関係にある。日本経済にとって、中国は何の脅威でもない。本当に脅威なのは、改革の決意が欠けた日本人自身ないし現在「日本売り」しようとしている人々である。
改革開放以来、香港は一貫して中国にとって、最も重要な投資出資地である。1979年から2000年までの20年間、中国が受け入れた直接投資(実行ベース)の中、香港はほぼ半分を占めている。その他の重要な投資出資国はアメリカ、日本、台湾とシンガポールである。しかし、日本の対中直接投資は1998年にピークに達した後、徐々に減少した。2000年日本の対中直接投資は、中国の直接投資受け入れ総額の8.2%に留まり、この数字は香港とアメリカに大きく離されている。
90年代後半、日本の対中直接投資の減少は、日本対外直接投資全体の減少傾向に一致している。しかし、特に注目すべきは、日本の対中直接投資の直接投資総額に占める割合が明らかに減少したことである。日本側の統計によると、1995年の日本の対中直接投資は44.7億ドルであり、日本直接投資総額の8.8%を占めていた。しかし、1999年の日本の対中直接投資は7.5億ドルしかなく、当年度日本直接投資総額の1.1%に止まった。その後、若干持ち直したが、レベルは依然として低い。
ここで、日本の海外向けの直接投資に関する統計は正確ではないことを指摘しなければならない。一部の日本企業は海外に対する投資の金額を報告していない。しかし、90年代後半の日本の対中直接投資は絶対金額とシェアのいずれも、大幅に減少したことは誰も否定できない事実である。この事態は、日本企業の中国の投資環境と見通しに関する判断だけではなく、日本企業の投資戦略にも関係している。日本国内における失業問題の悪化に対する配慮、競争ライバルの意識などの原因で、日本国内のメディアは「産業空洞化」に対して、強い懸念を示している。衰退産業の海外への移転は日本産業構造調整の一種の重要な形であり、明らかに「産業高度化」の重要な部分である。それをマイナス意味での「空洞化」で呼ぶのは、真に遺憾なことである。
日中両国はお互いにとって、重要な貿易相手国であるのに、90年代後半、中国投資に対する日本企業の消極的な態度は不適切である。日本の対中投資が強化されない限り、日中両国の貿易関係は当然深刻な影響を受けることになる。もちろん、日本の対中投資の減少は、単なる日本側の問題だけではない。多くの中国企業や地方政府は、契約の履行や良好な投資環境の提供などの面において、大いに改善する余地がある。WTO加盟から中国が国際基準や慣行に従う決意が窺われる。慎重であることを非難すべきことではないが、中国の投資環境と見通しに対する過度な悲観論は日本企業にとって、ビジネス・チャンスの喪失を意味しかねない。幸いにも、最近の一、二年の間、日本企業の対中直接投資は回復しつつある。例えば、近年中国では対日本の電機と部品の輸出が増大した。その重要な原因は、日本企業がこの部門に対する直接投資を増したためである。ハイテク産業を中心とした対中投資の増加は、日中両国の経済関係を好循環に導く方法である。つまり、日本の対中投資の増加は日本の構造の調整と企業の国際競争力の上昇に有益である。長い目で見ると、日本が対中投資を増加させることは、日本の経済成長に絶対に有利である。
全体的に見ると、日中両国の経済関係は良好である。日中両国の経済は高度な補完関係にあり、相互的に信頼する政治基礎さえ成立できれば、両国の経済協力は全面的に強化されるだろう。日中両国は東アジア経済統合の実現を推進するには決定的な貢献を果すべきであり、それは可能なことなのである。
単位:10億ドル | |||
輸出 | 輸入 | 輸出入総計 | |
日本 | 44.9 | 42.8 | 87.7 |
アメリカ | 54.3 | 26.2 | 80.5 |
EU | 40.9 | 35.7 | 76.6 |
イギリス | 67.8 | 35.3 | 103.1 |
ASEAN* | 15.8 | 21.9 | 37.7 |
韓国 | 12.5 | 23.4 | 35.9 |
台湾 | 5.0 | 27.3 | 32.3 |
オーストラリア | 4.1 | 6.3 | 10.4 |
ロシア | 2.7 | 8.0 | 10.7 |
カナダ | 3.3 | 4.0 | 7.3 |
世界計 | 266.2 | 243.6 | 509.8 |
2002年3月18日掲載